第15話 お断りしま……
すでに帰りのホームルームが終わったのか、教師はいなかった。
教室には多くの生徒が残っていた。帰りの支度は終わっている様子だが、その場から動けなくなっているようだった。
教室の中を見るだけで、空気がピリピリしているのが伝わってきた。思わずツバを飲み込んで、冷や汗が1つ額を伝った。
無理やり息を吐き出す。振り上げるでもない拳を握ってしまって、自分が緊張していることに気がついた。
さて騒ぎの中心は……やはりというかなんというか
「ねぇ……クラス目標、知らないの?」
たしかに話し合った。
もちろん黙っていたボクに文句を言う資格はないけれど。
「だから一緒のチームになってよ。クイズ大会のやつ。クラスのみんなは参加するって言ってるんだよ? アンタさえ参加してくれたら団結できるのに……」
……参加しない人もいると思うけど……そもそもボクがクイズ大会に参加するっていうのを
わかっている。
しかし……いったい、誰と話しているのだろう……? 誰をクイズ大会のチームに引き込もうとしているのだろう?
「クラスの和を乱していることは謝りますが……私は団体戦というものが苦手です。私がチームに入っても邪魔をするだけでしょう」
「邪魔とか、そんな話じゃなくてさ……参加することに意味があるんだよ。みんな一緒にやることに意味があるの」
意味が……あるのだろうか。わからない。ボクにはわからない。
「なんで入ってくれないの? いるだけでいいんだよ。一緒にみんなでやろうよ」
「私は1人が好きなので」ボクも1人が好きだ。たぶん。「残念ながらご縁がなかったということで」
「……」
「成し遂げることは重要です。ですがそれは個人も団体も同じことです」
1人で成し遂げようが団体で成し遂げようが同じ。
ただ扱う能力が違うだけ。
「そもそもさ……なんで敬語なの? アタシたち同い年じゃん? おかしくない?」
「これが喋りやすいからですよ。コミュニケーションは成立しているのだから問題ないでしょう?」
「問題あるとかじゃなくてさ……変だよ」
「変、とは?」
「みんなそんなことしてないじゃん」
だからってしてはいけないというルールはないけれど。
しかし確かに……同じ年齢の相手に敬語を使う人間は少ない気がする。少なくとも学校では珍しい。ボクは彼以外に見たことがない。
「ふむ……」彼は少し考えて、「つまり、僕が敬語を使わないほうが円滑にコミュニケーションができるんですか?」
「そりゃ……そうでしょ」
「わかった。努力してみる」明らかに喋り慣れていないタメ口だった。「こんな感じでいいですか……じゃなくて、こんな感じでいい?」
「……なにアンタ……調子狂う……」どうやら……彼は相当な変人らしい。「まぁ、いいけど……」
「ありがとう」
急にカタコトみたいな発音になってる。本当に敬語でしか喋ってこなかったらしい。
「とにかく……その調子でクイズ大会もお願いね。チームに加えとくから」
「それはお断りしま……お断りするよ」
「……だからなんで……!」
確かに……いくら団体行動が苦手でもチームに所属するくらいはしても良いと思うが……
それでも彼はチームに入るのは嫌だという。口調を変えることは受け入れたというのに。
「それは私のこだわりに反することだから……だよ」
……
こだわりねぇ……
なんか……面倒くさい人みたいだ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。