第13話 この学校の人であれば

 クイズ番組を見るのは好きだったりする。とはいえ参加したりするのは別問題だ。


 実際にプレイしたことはない。だから……本当に戦力にはならないだろう。


 とはいえ渡りに船であることに変わりはない。他に出場するアテもなかったし、集団の中で目立たずに大会を終えられるのならラッキーだ。


 唯一気がかりは……麻中あさなかさんと仲違いしていることだけれど。


よもぎなら大丈夫」空気を察して、夢野ゆめのくんが言う。「よもぎはああいう性格だから……ちょっと揉めたことなんて、すぐに忘れるよ。それが良いところなんだ。悪いところでもあるけどな」


 長所と短所は紙一重だ。どんな長所も短所になり得るし、その逆もしかり。


 今のところボクの短所は……短所でしかないけれど。


「まぁ、悩みがあるならいつでも相談してよ。俺も一応、つばさの友達のつもりだからさ」

「……ありがとう……」

「うん」夢野ゆめのくんは意図的に話題を変える。「そういえばさ……つばさの知り合いでクイズが強そうな人、いない? どうせ出場するなら優勝したいし」

「ご、ごめん……あんまり、知らない……」


 ボクの知り合いで強そうなのは夢野ゆめのくんくらいだろう。


「そうだよね。なかなか学校でクイズなんてしないからな」うちにはクイズ研究会もない。「まぁ……心当たりが増えたら教えてほしい。クラスも学年も関係なく出場できるから、先輩でも後輩でもいいよ。この学校の人であれば、誰でも参加できるんだ」


 そうなのか。知らなかった。

 ……ボクはちょっと学校行事に疎すぎるだろうか。自分の所属している学校の行事くらいは把握しておいてくださいよ。


「うちのクラスなら、楽楽らくらくくんとか強そうだよな」ボクを助けてくれた男子。「でもまぁ……誘ってもチームに入るようなやつじゃないし……」

「……知り合い、なの?」


 ただ同じクラスに所属しているだけ、という感じではない。


「まぁ、ちょっとね」ある程度……深い関係のようだ。「とにかく、あいつはチーム戦が苦手だから。チームの和も乱すだろうし……ちょっといらないかな」


 じゃあボクもいないほうが良いだろう。


 楽楽らくらくくん……クイズが強いのか。見た目通り……いや、意外なのだろうか。わからない。


 まぁでも、たしかに彼は集団行動が苦手なのだろう。だからいつも1人でいるのだろう。ボクとは違って孤独に耐えられる強さがあるのだろう。


 ……


 そういえば、まだお礼を言えてないな。早いところお礼を言わないと……せめて今日中には言いたい。


 そんな事を考えていると、


「お……もうそんな時間か……」午後の授業が始まるチャイムが鳴った。「楽しい時間ってのは、すぐに過ぎ去るものだな」

「……」


 社交辞令がうまいことで……


 しかし午後の授業が始まってしまった。少しくらいサボっても問題ないとは思うが、なんとなく授業には出ておきたい。1時間目も遅刻しているし……


「今日はもう、サボっちゃおうぜ」夢野ゆめのくんが言う。「どうせ午後の授業だけだし」

「……」ボクの体調を気遣ってくれているのだろう。「私はもう大丈夫だよ。だから……」


 ボクのために夢野ゆめのくんをサボらせるのは気が引ける。

 

 しかし……


「俺がサボりたいの」ウソ、だろうな。「たまにはのんびりしよう。そうだ、ゲーセンでも行く?」

「……それは、ちょっと……」


 たぶん怖くて楽しめない。ゲームセンターに行くなら、行って大丈夫な時間帯に行きたい。そうじゃないと怖くなってしまう。


「じゃあ、このままお喋りでもしようか」


 というわけなので……なぜかクラス1のイケメンと一対一でお喋りを続けることになってしまった。


 もう食堂には、ボクたち以外の生徒はいなかった。

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