第10話 向いてないのかな
食堂から逃げ出して、ボクは一目散に校舎裏に逃げ込んだ。
保健室なんて行くつもりはなかった。どこも体に悪いところはない。そんなボクが保健室に行っても迷惑だろう。
校舎裏には冷たい風が吹いていた。それはおそらくボクの体が熱くなっているからそう感じるのだと思う。
校舎裏に誰もいないことを確認して、ボクは木の近くに座り込んだ。
そして……
「う……ぇぇ……」
そのまま木の根に向かって口を広げる。胃の中からなにかが込み上がってくる感覚があるが、口からは何も出てこない。強いて言うなら気持ちの悪い声がゲーゲーと出てくるだけだった。
そういえばオムライスを食べそこねてしまった。よく考えれば朝食を食べた記憶もない。胃の中が空っぽで吐けなかったのかもしれない。
「……」胃酸を無理やり飲み込んで、「はぁ……」
少しだけ落ち着いてきた。さっきまで白くて狭かった視界がもとに戻ってきた。
ゆっくりと立ち上がって、木に背中を預ける。そして空を見てみる。
青い空だった。相変わらずの快晴で、雲ひとつない。今のボクの心境とは正反対だった。
今のボクの心を天気で表現するなら、それはもう豪雨だろう。雷も鳴って、大海原をさまよっているような感覚だ。
どちらに向かえば良いのかもわからない。対処法がわからない。どうして自分がこんなにも苦しんでいるのかもわからない。
「……向いてないのかな……」
集団に属するという行為に向いていないのだろうか。だとするならば申し訳ない。せっかくボクなんかと好意的に接してくれている人たちに申し訳が立たない。
もっとボクがうまく立ち回れたら良いのに。そうすれば傷つく人はいなくなるのに。
……
ウジウジしていても仕方がない。とりあえず……謝りに行かなければ。そしてオムライスも食べなければ。
しばらくしてボクは立ち上がる。まだフラフラしたが、気にしていられない。
揉めたグループに戻るのは憂鬱だ。しかし悪いのはこちらなのだから謝らなければ。そしてオムライスも処理しなくては。もう冷めてしまっただろうけど、できれば食べたい。
ボクがあそこで逃げなければ、こんな面倒なことをする必要もなかったのに。今頃は昼食を食べ終わって、また灰色の人生を続けることができたのに。
やっぱりボクは集団に向いていないのだろうか。かといって孤独に耐えられるほど強くもない。
結局ボクという人間が弱いだけ、という結論が導き出されてしまう。そしてそれが正解なのだろう。ボクが強くなれば良い話なのだけれど、そう簡単にはいかない。
……
どうしよう……このまま現在の地位に固執しようか。それとも意を決して逃げ出そうか。
あーあ……
雨くらい降ってくれたら良いのに。
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