第9話 らしい

 楽楽らくらく洒洒しゃしゃ彼方かなた此方こなた


 ボクが勝手に憧れている2人。思えばその2人は、ボクが持っていないものをすべて持っているような気がする。


 隣の芝生が青く見えるだけなのだろうか。それとも……ボクは私が、そんなにも嫌いなのだろうか。


 彼ら彼女らは……とても『』と感じる。彼方かなたさんは彼方かなたさんらしいし、楽楽らくらくくんは楽楽らくらくくんらしい。どんな行動をしても、彼ら彼女らならキャラクター性を逸脱していないように思える。


 ボクはどうだろうか。ボクのとはなんだろうか。そんなものが存在するのだろうか。


「お昼、食べに行こうよ」昼休みになって、麻中あさなかさんが言う。「つばさも来るよね」


 そう言われて断れないくらいには、ボクは優柔不断だ。本来なら楽楽らくらくくんにお礼を言いに行かないといけないというのに……


 ボクは流されて食堂に行って……彼方かなたさんは当然のように教室に残って読書を続けていた。楽楽らくらくくんも、気がつけばどこかに行っていた。


 ボクとあの2人は違う。ボクみたいに自分のない優柔不断女とは違うのだ。


 ボクは彼ら彼女らのように離れない。なぜか勝手に距離を感じて、絶望感に打ちひしがれていた。


「……ねぇ……つばさ?」気がつけば、食堂で麻中あさなかさんに見つめられていた。「最近……本当にどうしたの? 元気なさそうだけど……」

「へ……?」


 言われて、ようやく正気に戻った。


 現在地は……食堂だ。そうだ。麻中あさなかさんについて食堂まで来たのだった。


 なにを注文したんだっけ? 目の前にはオムライスが置いてある。どうやらボクがオムライスを注文して、席まで運んできたらしい。


 まったく記憶にない。本当にボクはそんなことをしたのだろうか?


 ともあれ……大丈夫と聞かれたら返答は1つしかない。


「だ、大丈夫だよ……ちょっと……考え事があって……」

「……本当に?」

「う、うん……」ウソだ。本当は何も考えていない。「わ、私は大丈夫だから……」

「……」麻中あさなかさんは爪でテーブルを二度叩いた。イライラしている、のだろうか。「ねぇ……アタシたち友達でしょ? 悩みがあるなら、言いなよ」


 悩みなんてない。本当に……ただの不注意だ。


 というか私たちって友達なんだっけ……?


「だ、大丈夫だから……」

「言ってくれなきゃわかんないよ」だからないんだってば……「アタシたちはつばさの味方だからさ。だから……遠慮せずに悩みを打ち明けてよ」


 そうやって詰め寄られるのが怖いんです。1人で悩みたいときもあるんです。


 いつも思う。ボクは集団に属するのが苦手だ。いつもチームの空気を乱してしまう。申し訳なくて仕方がない。


 そんなボクの心に、麻中あさなかさんは土足で踏み込んでくる。


「ねぇつばさ……」

「ご、ごめん……!」怖くなって、ボクは席から立ち上がる。「ちょっと気分悪くて……ほ、保健室、行ってくる……!」


 そのままボクは逃げるように食堂をあとにした。


 ……

 

 いったいボクは、なにをやっているのだろう……

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