第3話 いろいろありまして

 御婦人に話しかけられて、しばらく時間が経過した。


 いつの間にか会話は世間話になっていた。ボクのゴミ拾いなんて、会話のきっかけでしかなかったのだろう。


 明日から通学の順路を変えよう……そんなことを思っていると、


「あら……ずいぶんと話し込んでしまったわね」おかげさまで遅刻です。「じゃあ、学校がんばって。ちゃんと青春してきなさいよ」


 それだけ言い残して、御婦人はその場を立ち去った。ついでに犬にワンと吠えられた。そりゃあニャーとは言わないだろうけど。


「……」


 またため息をこらえて、ボクは学校に向けて歩き始める。


 すでに周りに学生や児童はいなかった。あの御婦人が長々と喋ったせいで、遅刻の時間になってしまった。


 まぁ別に無遅刻無欠席記録なんて気にしていない。休まないこと、遅刻しないことが美徳だとは思わない。いつかは途切れる記録で、それが今日だったというだけのこと。


 重い足取りで校門前にたどり着くと、


「……小心こごころ」校門前に立っていた教師が、ボクに話しかけてきた。体躯の良い男性教師だった。「お前が遅刻とは珍しいな」

「はぁ……ちょっと、いろいろありまして……」


 御婦人との世間話に花を咲かせていたら遅刻しました。


「最近、たるんでるんじゃないか?」自分でもそう思います。「ボーっとしてることが多いぞ。もっと集中してだな……」

「……気をつけます……」


 気をつけているつもりだ。だけれど、注意力散漫なのは事実。


 なんだか……最近ボーっとするのだ。世界が色を失っているような、そんな状態。ありきたりな精神状態だ。


 夢もない目標もない。ライバルもない競争もない。そんな状態で世界が色を持つわけもない。


 ボクが悪いのだ。ボクが漫然と過ごしてきたから、この世から色が消えたのだ。


 ちょっとしたお叱りを受けてから、ボクは学校に足を踏み入れた。


 校舎に向かう途中にペットボトルがポイ捨てされているのを見つけた。無視しようと思って一度通り過ぎて、結局戻ってきてゴミ箱に捨てた。完全にクセになっている。


 今日も世界は灰色だ。

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