第2話 あらあらお嬢さん

 彼と放課後に話すことになる、その数時間前。


「はぁ……」


 ボクはため息をつきながら、通学路を歩いていた。


 空は快晴。風もない。小学生は元気に走り回って、道端の雑草もすくすくと成長している。


 とても素晴らしい日だ。正常な成長を遂げた人間にとっては、最高の一日に思えるだろう。


 ならボクは正常に成長していないのだろうか。


「はぁ……」


 通学路を歩きながら、何度目かも分からないため息を吐き出す。


 最近……学校に行くのが憂鬱だ。毎日訪れるそれがボクの胸の中にあって、心も体も重くなってしまう。


 じゃあ休んでしまえばよいのかと思いきや、そんな簡単なものでもない。いや、もしかしたら簡単なことなのかもしれない。それでもボクにとっては重大なことだ。世間一般にはどうでも良いのだろうけど。


「……」


 吐き出しそうになるため息をこらえて、ボクは道に落ちている空き缶を拾い上げる。その隣にあったペットボトルも拾って、ゴミ箱の中に突っ込んでおいた。


 すると、


「あらあらお嬢さん」犬の散歩中らしき御婦人が、突然話しかけてきた。「いつも偉いわねぇ」

「……えっと……なにが、ですか?」

「いつも道に落ちてるゴミを拾って捨ててるじゃない」どうやら見られていたようだ。散歩時間とかち合っているのだろうか。「なかなかできることじゃないわよ」

「……そう、ですか?」

「そうそう。あなたは良い子よ」


 良い子。


 御婦人としては何気なく言い放った言葉だろう。

 

 でも今のボクには、少々重い言葉だった。


 良い子になりたかったわけじゃない。というかボクは良い子じゃない。優柔不断で無能な女だ。


 ゴミ拾いをしていることに理由なんてない。目の前にゴミが落ちているから捨てるだけだ。そこに素晴らしいボランティア精神なんて存在しない。


 いわば偽善だ。褒められることなんてなにもない。


 とはいえ、そんな曲がった思考を伝える必要なんてない。


「ありがとうございます」


 ボクは素直に頭を下げてお礼を言う。


「あら……なんだか元気がないわね。声が沈んでるわよ?」これから学校に行かなければならないので。「若いんだから、もっと元気だして」

「は、はぁ……」なんでこんなに話しかけてくるのだろう……苦手なタイプだ。「努力してみます……」

「そうね。年頃の女の子は元気じゃないとダメよ」別に元気じゃなくても良いだろうに……「青春は一度しかないんだから。しっかり友達とか恋人とか――」


 ……


 えーっと……


 この話、いつまで続くんだろう……?


 ゴミ拾いなんて、しなければよかった……

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