第4話
「お風呂入ってくるね」
萌は棚からバスタオルと下着のようなものを出し始めたとき、僕は目を背けた。萌が入ったあとで合流してみようかなと思ったけど、お互いの裸を見たことがないのに、そんなことをしてはいけないという理性が働いた。
ドア越しにシャワーの粒が跳ねる音が聞こえる。萌の身体を弾く音だろうか。服を脱いだ萌の姿を想像してしまい、身体が反応し始める。
タン、タン、タン。
水とは異なる音がドアの向こうから聞こえてきた。お風呂からではなさそうだった。でもドアを開けると、浴室が見えてしまう。ドアに耳を当ててみるとすぐ近くから「タン、タン、タン」と聞こえてきた。
バッタの首から見えた黒い中身を思い出した。生き残ったバッタが虫かごの中を跳ねている音だとわかった。今は腹いっぱいのカマキリでもそのうち食べられてしまうのだろう。付き合う前に萌が言っていたことが頭をよぎった。
「カマキリって、えさのバッタを最初は勢いよく食べるんだけど、お腹だけ残したりとか、胴体だけ少し齧って終わるときもあるんだよね。たまにきれいに食べてくれて細かい足と中の黒い内臓だけにしてくれるときもあるんだけど、臭くなるから敵的な掃除をするのが大変なんだ」
さっき食べられていたバッタは食べ残しのない状態になっているのだろうか。
「お待たせ、ゆうちゃん入ってきて」
「うん」
バッタが齧られて虫かごのなかで死んでいたとして、それを見ると確実に吐いてしまうので、虫かごと反対側の壁を凝視しながら浴室に向かった。心なしか、萌の部屋に入ったときより臭さがひどくなっている気がする。
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