第3話

 割った卵からはオレンジ色の黄身が現れた。すでにボウルに入れていたひき肉、塩コショウ、名前のわからない調味料、みじん切りした玉ねぎに加えて、萌は指で握りつぶすようにこね始めた。指の間からひき肉が絞り出されてくる。結局萌の横に立って、料理する姿を見てしまっている。

 粘り気が出てくると手のひらで転がすように成形していく。手順のサイトを見るでもなく手際よくハンバーグができていく光景にただ見入ってしまった。

「あとは焼くだけだよ」

 フライパンの熱で焼かれる音がこんなにも心地よいとは知らなかった。萌は冷水で洗って冷たくなった手を繋いできた。

「ゆうちゃんの手、あったかい」

「それは心が冷たいってこと?」

「心はもっとあったかいよ」

 誰かがこのシーンを見ていたら自分が恥ずかしくなるはずだけど、当事者の僕は太陽の温かみを十分に吸い込んだ布団に包まれているような幸福感を抱いていた。

 目の前に出されたハンバーグはきれいな楕円形をしていて、フォークで割ると肉汁が溢れだした。

「今まで食べたハンバーグで一番おいしい」

「本当!」

「マジマジ! うますぎる」

 実家で出るハンバーグはいつもスーパーで買ってくるものばかりだった。高校の弁当に入っているハンバーグは冷凍食品のそれで、こんな手作りで美味しいハンバーグは一生の思い出になると確信した。

「おいしいけどね……」

「どうしたの?」

「カオリたちがね生きてる虫を食べてるのを見てると、私も動いてる生き物を食べてみたいなって思うようになっちゃったんだよね」

「そうなの?」

「うん……。だって考えて見ると、このハンバーグも死んだ牛と豚のお肉じゃん。死んだお肉を食べるのって何だか不自然というか……」

 萌の言うことは正直少しも理解できなかった。でもここで突き放してはダメだ。今日は半年記念日でこんなにおいしいハンバーグも作ってくれたのだから。

 全部食べ終わったあと、手を合わせて萌の分のお皿もシンクに運んで洗った。萌は大げさすぎるほど感謝してくれたけど、ハンバーグの手間に比べたらなんてことない。

 ソファーに並んで座ったまま指を絡ませたり、唇を合わせたりすると夜の十一時が過ぎていた。

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