第13話『自分が仕向けた事とは言え────……辛いですね』

 演劇部に見学に行った次の日の昼休み。いつものように屋上に行くと、いつものように金霧かねきり先輩が先に来ていて、ベンチに座ってオレの事を待っていた。

 挨拶を交わすといつもと違う様子の先輩に違和感を抱きつつ、ベンチに腰を下ろす。


「先輩、なんか元気ない?」

「ええ、ものすごく不機嫌です」

「……笑顔で言われるとすげぇ怖いんだけど、どうしたんだよ。もしかして昨日演劇部に一緒に見学に行った所為でカップルだと勘違いされて茶化されたとかか?」

「それはご褒美です。寧ろ私が拡散を希望します」

「すんなよ」


 言葉遣いも、喋り方も、声量もいつも通りなのに、表情が違う。

 心からの笑顔ではなく、自分の本心を隠す為の笑顔。「嘘吐き」────そう先輩に責められたあの日と同じ……告白された日と同じ笑顔を浮かべている。

 

「なぁ────」


 改めて不機嫌になった理由を問おうとすると屋上の扉が開かれ、見知った3人が屋上へと姿を現した。

 即ち、皐月さつき藤村ふじむら栗本くりもとの3人。


「おお、黒峰くろみねくんと金霧先輩!昨日の部活ぶりです!」

「オレとは同じクラスだろ」

「話したのは今が初めてでしょ」


 以前3人で屋上に来た時同様、代表して藤村が話し掛けてきて、残りの2人は昼飯の準備を進めている。

 不思議な事に、昨日も思った事だけど、藤村の金霧先輩への距離感が近くなってる気がする。

 初めて会った日はあんなに警戒していたのに……。

 昼飯を食べながら談笑を始めた2人に藤村が合流したので、先程抱いた疑問を推測交じりに再び問う事にした。

 

「なあ、先輩の機嫌が悪いのって────」

「違いますよ。私は未来予知なんて特殊能力を持ち合わせていないですから」

「まだ何も言ってないんだけど……じゃあどうしたんだよ」

「自分が仕向けた事とは言え、覚悟が出来ていると見栄を張ったとしても……やっぱり、敵わないと気付いて、叶わないと知ったら────……辛いですね」

「大事な主語が抜けて何も分からないんだけど」

「ふふっ、気にしないでください」

 

 恐らくこれ以上聞いても詳しく話してはくれなさそうなので話を切り替え、昨日の部活見学について聞いてみる事にした。

 帰り道に聞いてもはぐらかされて、教えてくれなかったから今ならと思ったんだけど、やっぱり首を横に振られ断られてしまう。


「代わりに、私の今日の下着の色でも教えましょうか?」

「要らない」

「あら、残念」


 何が残念なのかは分からないが、それが本心では無い事が先輩の表情から読み取れたので突っ込まないでおく。

 先輩はどこか心ここにあらずといった様子で、いつもよりも口数が少なく、昼休みの終了5分前を告げるチャイムが鳴り響くまで会話は無かった。


                    

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本命ヒロインである幼馴染は匙を投げた。 @mutukigata

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