第10話『皐月ちゃんには隠さないであげて』
昼休みに告白した場合の成功確率が20%もある根拠を
当然の様に教室前の廊下で待っている金霧先輩の下へ行こうと腰を上げると
「ちょっといい?」
「先輩待たせてるから本当にちょっとならな」
2人が偶然かそれとも意図的か、金霧先輩の姿が見れないよう視界を遮断しているので、先輩の様子を確認できない。
無理にそうしようとすれば出来たけど、2人の真剣な表情の所為で躊躇われた。
「その先輩ってさぁ……
藤村からの質問は、オレが皐月からされることを望んでいたそのものの内容だった。
この質問の意図を読み取ろうとすれば出来るが、確証を得る為に探ろうとすればさすがに気付かれるから大人しく質問に答えるだけにする。
「友達。ちょっときっかけがあって話すようになった友達」
「きっかけ……」
藤村の方はきっかけを知りたがったようだが、それを栗本が止める。
「本当に2人はただの友達で……付き合ったりはしてない?」
「ああ、してない。なんなら先輩に確認していいぞ。あの人、そういう事は正直だから」
「そう」
栗本が藤村を止めた理由を考えた結果、不自然だからという意見にまとまった。
オレが金霧先輩と付き合っていた場合、皐月の事を思っての行動だとしても出会ったきっかけまでを知る必要が無い。
知りたがるとしたら、そこに恋愛が絡んだ時ぐらい────そう考えるのは偏見でしかないけど、好きな相手がどのようにして他の人と付き合うに至ったのか……本人以外が知りたいと、そう思うのは自然じゃないだろうか。
即ち、皐月がオレの事を好きで、心配して、気を遣って2人が金霧先輩との関係性を聞いてきた。
そう考えることで、2人の質問に自然さを生むことが出来る。
「ごめんね、変な事聞いて。でも、どうしても確認しておきたかったの。もし2人が付き合ってたら、黒峰くんは先輩に気を遣って皐月ちゃんとの距離を置くでしょ?何も知らない皐月ちゃんが傷付いちゃうのが心配でね……だから約束して。もし、誰かと付き合った……皐月ちゃんには隠さないであげて」
不自然さを消す、栗本からの答え合わせが行われ、自分の考えを恥じた。
確かにそれなら、先輩とのきっかけを聞くことは余計な事。お願いをする立場としてこちら側を不快にさせないようにした故の行動だとすれば、皐月がオレの事を好きというよりも納得がいく。
「分かった、約束する」
皐月の事が好きなオレにとっては必要のない約束だけどな。
オレの返答に満足したのか2人は視線を合わせて頷き合い、謝罪と挨拶をオレに言って、教室を後にした。
「あれ?」
2人が居なくなった事で視界が開け、先程まで廊下に立っていたはずの金霧先輩が居なくなっている事に気付いた。
「ほったらかしにしたから拗ねたか?」
昼の時点でストレスが溜まってそうだったから、オレが他の女の子と話をして先輩の下へ行けない状況に我慢の限界に達したのかもしれない。
電話を掛けてもメッセージを送っても返事が無い為、仕方なく周辺を探す事にした。
「ふふっ、心配そうな顔してどこに行くんですか?」
廊下の先から少し腹立たしい悪戯っぽい笑みを浮かべながら歩いてくる金霧先輩。
オレは無言で何も言わずにダッシュして下駄箱に向かおうとしたが、もちろん呼び止められる。
「遠夜くんに冷たい態度取られたら私……今から放送室に行って、あなたの想い人を暴露しちゃいます……」
『想い人』という言葉に違和感を覚えたので、誰の事か聞いてみると────。
「もちろん、私に決まってるじゃないですか」
「そんなこったろうと思ったよ」
そんな事をさせるわけにはいかないので、仕方なく先輩の下へと近づいていく。
「おかえりなさい、遠夜くん」
「どこ行ってたんだ?」
「ふふっ、心配しなくても他の男の子に会いに行ったりしてませんよ」
「そんな心配してないんだけどな」
「友達と話をしていただけですよ。遠夜くんの用事が長くなりそうだと思ったので。ただ結果おまたせしてしまったので、それはごめんなさい」
「謝るのは先輩に声を掛けなかったオレの方だ。ごめん」
互いに謝り、互いに許して、これで普段通り。
2人で下駄箱に行き、校舎を出る。
その後は他愛もない話をしていたが、オレの意識は、先程からずっと先輩が浮かべている既視感のある笑顔に向けられていた。
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