第9話『成功確率は20%くらいだと思っています』
登校を終え教室に向かう道中に金霧先輩に声を掛けられ、皐月は特に気にした様子もなく先に行き、オレたちは人通りの少ない場所へと移動し話をしていた。
「結局、皐月は演劇部に入部したらしい。昨日、入部届出したんだと」
「私にとっては朗報ですね。ですが、
先輩は顎に手を当てて楽しそうに話を続けた。
「これから先に、遠夜くんにとって不都合な展開が待っているかもしれませんから────手放しに幼馴染の新たなる挑戦を応援できませんよね」
「後輩の抱える不安を膨張させるなよ」
「ふふっ、ごめんなさい。ですが、あなたの不都合は、私にとって好都合になるもので。確率は低くても、可能性が有るのと無いのとでは天と地ほど差がありますからね」
「後輩の不幸を喜ぶなよ」
冗談や揶揄いじゃない。
先輩は本気で皐月が演劇部に入ったことを喜んでいる。皐月の成長に対してではなく、オレから距離が出来たことを。
「昼休みだけでなく、放課後までも遠夜くんを独り占め出来るなんて喜ばずにはいられないじゃないですか。あっ、でも勘違いしないでくださいね。私は遠夜くんが落ち込んでいる姿は、あまり好きじゃありませんから」
そう言って先輩は腕を組んで「うーん」と唸り、それが1分ほど続いた後に、覚悟を決めたような表情と眼差しでオレの顔を見上げた。
「血の涙を飲んで堪えますので、どうぞ演劇部に入部してください」
「先輩の覚悟を無駄にするのは罪悪感あるけど、それは無理だ。このタイミングで演劇部に入ったら皐月を追いかけてきたと思われるに決まってるからな」
恋人関係なら流される事も、片思いであればストーカーに近い行為だ。幼馴染って事で変に思われる事も無いかもしれないが────それは負ける確率が高い賭けでしかない。
「ならもう玉砕覚悟で告白したら良いじゃないですか。成功確率低いと分かっている分、私よりは傷が浅く済むと思いますよ」
「急に投げやりになるなよ」
あと、さり気に嫌味を言ってくるのは止めてくれ。
「そうでもありませんよ。結構、告白を促すのは勇気と覚悟を持ってしてるんですから。玉砕覚悟────なんて言葉を使いましたが、成功確率は20%くらいだと思っています。低くはありますけどね」
意外な評価に内心で驚いた。
前に先輩と話した時は脈無しだと言われたから、成功確率は0%に近い、奇跡を願う数値だと思っていたのに。
「どうして20%もあると思うんだ?」
「幼馴染だから同情で、お試しという形で付き合ってくれるんじゃないかと」
「おい」
「ふふっ、冗談ですよ」
先輩がチラッと空き教室に掛けられた時計を見てから「もう時間ですね」と、少し寂しそうな表情を浮かべて歩き出した。
結局20%の根拠を教えてはもらえなかったけど、昼休みにもどうせ先輩と会えるからその時聞くことにして、自分の教室へと向かった。
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