第7話『他の女の子を連れ込んでてちょっと嫉妬しちゃったんですよ』

「なぁ、そろそろ話してくれよ。なんであんな事したんだ?」

「嫌がらせに決まってるじゃないですか」

「おい」


 金霧かなきり先輩の家もオレと同じ家の方にある為、帰り道が途中まで一緒。

 その別れ道までに先輩の真意を聞き出そうとしていた。


「怒らないでくださいよ。あれくらいなら許されても良いと、そうは思いませんか?」

「……返答に困る質問をするなよ」

「ふふっ、ごめんなさい。でもあれは、遠夜くんの為でもあったんですよ」

「オレの?」

「はい────多少あの3人に嫌われても、それでも、私はあなたの為に行動をしてあげたんです」

「そうは見えなかったけどな」

「ええ、嘘ですから」


 思わず溜息を吐いてしまう。

 この話ぶりだと、本当の事を教えてくれる気はないのかもしれない。


「私には、あなたの為に行動するだけの覚悟が今はまだ────ありませんから」


 少し意味ありげな表情で空を見上げた先輩。その表情が偽物や嘘なんかじゃ無い事をオレはよく知っている。

 

「私、こう見えて結構不機嫌なんですよ。目を背けていた現実を、無理やり頭を掴まれて直視させられた気分です」

「勝手に絡んできて、勝手に不機嫌になられても困るんだが……あと、言っている意味がまったく分からないぞ」

「私としては喜ばしい限りです」


 不機嫌だからかそれともあの日の事を恨まれているのか、若干性格が悪く見える。

 だけど、仕方がないと言えば、それは仕方が無い事────もしオレが先輩だったとしても同じような態度を取ってしまうかもしれないから。だから怒りはしない。


皐月さつきちゃんに会いたかったんです」

「え?」

遠夜とおやくんの愛する彼女がどんな女の子か……それを確かめたかったんです。私の目的はそれだけです」

「……それも嘘か?」

「さあ。でも、遠夜くんが吐いた嘘に比べれば、私のは可愛いものですよ」


 先輩の言葉に、チクリと胸が痛んだ。

 

「安心してください、怒ってませんから。あの時は冷静では無かったので私も酷い事を言ってしまいましたが、恥ずかしさや照れで認め辛くも言い辛くもあったでしょうから、今なら仕方が無かったと、そう思ってるんです」

「先輩……ごめん」

「謝罪ならあの時たくさんもらいましたよ。本来ならあそこまで謝る必要の無い事を責め立ててしまった私にも罪はありますから、喧嘩両成敗。あの日の事を無かった事にされても困りますが、気にせず、以前のように接してください」


 それは本心からの言葉のようで、先輩は曇りが1つもない笑顔を浮かべていた。

 被害者である先輩がそう言うなら、ここでオレが否定する理由は何も無く、有難く受け入れるように頷いてみせる。


「本当はもっと早く声を掛けるべきでした」

「先輩だからな。後輩に会いに行くのも気を遣うだろ」


 先輩が後輩の教室を訪れれば嫌でも目立ってしまう。それに相手がオレなら変な噂が立つ可能性も0じゃない。


「去年度と変わらず、屋上であなたが昼休みを過ごしている事は知ってるんですよ。ただ、さすがにいきなり2人きりで会うのは緊張しちゃって……」


 去年までは普通に出来ていた事も、何かのきっかけで出来なくなる。

 だけど、そこにまた何かきっかけが生まれれば、出来なくなったことが出来るようになる可能性は大いにある。


「屋上は、私と遠夜くんの特等席だったのに、最近は他の女の子を連れ込んでてちょっと嫉妬しちゃったんですよ」

「連れ込んでない。勝手に来てるだけだ」

「ふふっ、それなら月曜日の昼休みは久しぶりに私も屋上でご飯を食べる事にします。遠夜くん、女の子を1人で寂しい思いはさせないでくださいね?」

「ああ」


 もしこれがオレと皐月だったとしても、こうして笑い合えるだろうか────先輩と話した事で、少しだけ勇気が貰えたのであった。

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