第6話『友達以上、夫婦以下の関係ですよ』
放課後、一緒に帰る為に
どうしたのかと聞く前に
「ごめんね
「そうなのか、あれでも2人とも部活は?」
藤村と栗本は同じ部活に所属していて、どこの部にも所属していない皐月とは当然帰る時間が変わってくる。
どこかで1時間と30分くらいを1人で待つなら話し相手に立候補するんだけど。
「夏の大会の台本をね、探す為に月曜日までお休みなの」
「顧問の意図しない休日の予定が入ってるけどな」
「探し終えたら後は自由なんだから問題ないの。後輩のフォローを頑張った私たちへのご褒美休暇みたいなものだよ」
「そういうこと。だからこのまま帰って、適当に台本探して後は遊ぶんだ」
「楽しそうな事で」
この3人でのお泊り会は初めての事じゃない。皐月から何度か話を聞いて、楽しかったと聞かされている。でも今まで土曜日から日曜日にかけての事だったから、その点においては金曜の放課後からそのまま泊まるというのは初めての事ではある。
「そんな羨ましそうな顔して────もし暇なら黒峰くんも来る?私の家は男の子でもお泊り歓迎だから」
「ちょっ、ちょっと葵ちゃん!」
本気ではないであろう事は、藤村の浮かべる悪戯っ子みたない笑顔と、栗本の表情で分かるが、皐月は本気だと思ったようで必死に止めている。
女子会でどんな話がされるのか気にはなるけど────さすがにここで冗談でも首を縦に振ったら皐月に嫌われかねないので素直に首を横に振る。
「残念。黒峰くんが来たら絶対楽しいのに」
「葵ちゃん、あんまり黒峰くんと皐月ちゃんを揶揄っちゃだめだよ」
「分かってるよ────っと、そろそろ帰ろっか。ふふん、私は寛容だから、下駄箱までの同行なら許可してあげるよ」
さっきまでお泊り会の参加まで認める発言してたのに、それに比べたら下駄箱までなんて、寛容とは言えないだろ。
「皐月、藤村から酒とか煙草を強要されても絶対断るんだぞ」
「えっ」
「こらこらー、聞こえてるからねー」
そんな他愛もない会話をしながら教室を出ると、瞬間、オレの腕が誰かに掴まれた。
「話は聞かせてもらいました」
「……誰?」
明らかに警戒心を放ちだす藤村と栗本、そして心配そうにオレを見る皐月。
急に現れて驚くのは分かるけど、流石に同じ生徒に対してその態度は過剰だと思うぞ。まあオレも気配すら感じずにいきなり腕掴まれて驚いたけど。
「盗み聞きでもしてたのか、
「人聞きが悪いですね、もう。偶然聞こえてきただけですよ。それと────私の事は金霧じゃなくて、
「梨乃先輩」
「もうやめてくださいよ、恥ずかしいですねっ!」
「このやりとり何回目だよ……」
注文は『先輩』すら付けずにだったろ。
先輩と話して無害な事を証明しているが、3人の先輩を見る目は変わらない。
「どうしたんだよ」
「どうしたんだよ───じゃないよ。誰なの?その人」
「ただの先輩だよ。去年少し話したら仲良くなった先輩」
「3年の金霧梨乃と言います。呼ぶ時は梨乃
「……梨乃先輩」
「はい!あなたは皐月さん、ですよね?」
「え、は、はい」
「遠夜くんから色々話聞いていますよ。……うーん、うん!遠夜くんの言う通り、可愛いです!」
皐月に近づいたと思ったら突然抱き締めるもんだから3人、特に皐月が驚き、戸惑っている。
それは良いんだけど、先輩がこっちをチラチラ振り返りながら『羨ましいでしょ』みたいな視線を向けてくるのはどうにかしないとな。このままだと羨ましすぎて血の涙を流すことになる。
「皐月が困ってるから解放してやってくれ」
「ふふっ、遠夜くんも素直で可愛いですね」
言葉の意味は察せられるが素直になにかを答えた自覚は無いぞ。オレの言葉の裏を勝手に読んで、勝手に解釈するのは止めてほしい。
先輩は皐月から離れると再びオレの下へ戻ってきて、再びオレの腕を掴む。
「さっ、時間が
「まるでオレの家に遊びに行くみたいな言い方すんなよ」
「まさかまさか、そんな恐れ多い事しませんよ。ただ、遠夜くんのお泊りセットを取りに行くだけです。泊まる場所は、私の家か────ホテルか、ですね」
とんでもない発言をした先輩を見かねたのか、静かだった栗本が声を上げた。
「あの!か、金霧先輩は、黒峰くんとお友達なんですか?」
「そうですね。友達以上、夫婦以下の関係ですよ」
「えっ!」
凄く驚いた様子の栗本に藤村が説明をしている。普段落ち着いた様子でそんな印象は薄いが、栗本は数学が苦手で、だから以上以下、超過未満の違いが曖昧なのだろう。
……その割に国語は成績が良いから、よく分からん。
というか前置きで自分の質問が肯定されてるんだから気付くだろ、普通。どんだけ突然の先輩登場に心乱されてるんだ。
「ということで行きましょうか」
「なんで一緒に帰る事は確定してるんだよ」
「一緒に帰りなよ。今日1人なんだし、断ったら先輩が可哀想だよ」
「……皐月?」
思わぬ援護射撃を放つ皐月に驚いたのはオレだけじゃないく、藤村も栗本もだった。
「可愛いだけじゃなくて、初対面の私にまで優しいだなんて────本当、遠夜くんの言う通り、素敵な人なんですね」
皐月は頬を赤らめ俯いてしまった。それをチャンスだと思ったのか、先輩は細い腕でオレを引っ張り、下駄箱へと走り出した。
「それではみなさん、お気をつけて!」
オレは抵抗すれば振りほどくことが出来たがそれをせず、結局先輩と下校をする事に決めたのだった。
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