第4話『私も遠夜と一緒にいる時間、好きだよ』

 皐月さつき藤村ふじむら栗本くりもとと昼休みを過ごした翌日。  

 昼休みなると、昨日の謎であった藤村と栗本がわざわざ皐月にオレが屋上で昼休みを過ごしている事を教えた理由が判明した。


「部活の集まりでね、桃歌ももかちゃんもあおいちゃんも行かなくちゃいけないみたいで」


 だから皐月は1人で屋上に来た。つまりはそういう事なのだろう。2人以外に昼休みを共に過ごせる人間がオレしか居ないから。「屋上に居るから」なんて皐月を誘導すれば怪しまれると思った2人は、偶然をよそおい屋上に皐月を連れてきたんだ。


「ごめんね。あっちのベンチで静かに食べてるから」

「謝るなよ、オレはここの主じゃないんだから。1人で食べたいなら止めないけど、わざわざ屋上に来たんなら隣座れよ。オレが落ち着かない」

「わ、分かった」


 表向きでは平常心、冷静を装っているがしかし内面は違う。皐月の態度に戸惑い、過去の記憶と照らし合わせ比較している。

 皐月はなぜ、屋上に来て早々謝ったのか、距離を取って座ろうとしたのか、静かになんて会話をする事を否定したのか……今までの彼女と違いすぎて授業中よりも脳が活発に働いている。 

 そういえば、一昨日おととい藤村が言っていたじゃないか。皐月がオレから遠慮してる、距離を取ろうとしてるって。そう見えるって。オレは年頃だから周りから勘違いされたくないんだろなんて流したけど────これは違う。そういうのじゃない。


「さ、皐月とこうやって2人でご飯食べるの結構久しぶりだな」

「そうだね。高校は違うクラスだったし、2人とすぐに仲良くなったから」

「たまには昨日みたいな賑やかな時間も悪くはないけど、やっぱり、皐月と2人の方が落ち着く」

「そ、そうなんだ」


 会話がちゃんと成立しているお陰で冷静になってきて、だから気付いた。そういえば、皐月はジョークセンスが壊滅的だと。きっとさっきのもジョークのつもりで言ったのに普通に返されて困った事だろう、幼馴染として気付いてあげられなかった事を悔やしく思う。


「私も遠夜と一緒にいる時間、好きだよ。安心する」

「そりゃ幼馴染冥利に尽きるな」

「大袈裟だよ」


 あはは、と笑う皐月を見て安堵した。昔から変わらない、その笑顔が先程までの戸惑いや悩みを浄化し安心させてくれる。


「大袈裟じゃないさ、幼馴染として最高の言葉を貰えたんだから」

「それなら私もだよ」


 こんな照れくさい会話を自然と出来る関係を親友と言うんだろうか。大切な存在で手放したくない関係だけど────いつか、この関係が変わってしまう事を知っている。その覚悟が出来ないオレは、まだ皐月に告白できないでいた。


「遠夜に友達が出来たり、彼女が出来たりしてもさ、たまにこうして一緒に────って、彼女が出来たら難しいか」

「……そうだな」

 

 フラれて、この関係が崩れてしまうのが堪らなく怖いんだ。

 

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