第3話『奇遇だね』

 初めて藤村ふじむらと2人だけの時間を過ごした翌日、昼休み。昨日と同じく、オレが弁当を食べようとしたタイミングで屋上の扉が開き、3人の女子生徒が姿 を現した。皐月さつきと藤村と栗本くりもとの仲良し3人組だ。

 手を止め来訪者を見ていたオレの視線と、そんなオレを見つけた藤村の視線が交わった。


「おっ、奇遇だね」


 『奇遇』という言葉の裏にある、昨日の事を誰にも話していない事の証明を読み取り『知ってただろ』なんて返さず、話を合わせる事にした。


「たばこを吸うならその辺がおすすめだぞ。そこなら煙は見えないし、灰を下に捨ててもバレない」

「へぇ物知りだね、それとも経験則?」

「藤村と違って、オレは吸ってない」

「どうして私がたばこを吸っている前提なのか、詳しく話を聞こうか、あん?」


 全く怖くない圧を無視しつつ他の2人に視線を移すと、オレたちの事は気にせず準備を終えていていつでも昼食を始められる状態になっていた。

 

「仕方ない、私が隣に座ってあげるよ」


 藤村がオレの隣に座った────と言っても端と端、要は同じベンチに座っただけだけど。

 ベンチが2本しかなく、入り口付近から動かす事を禁じられている為、皐月も栗本も弁当を置くスペースが必然ベンチの上になる為、藤村が間に座る空きは無い。4人用ベンチだし藤村はコンビニのパンなので詰めて座れば座れるだろうけど、もう1本に座っているのが知り合いのオレなので遠慮なくこちらのベンチに座った。

 理解できるし自然な流れだ────ただ、この状況なら皐月がオレと同じベンチに座るのがより自然なはずなんだけど、その皐月は一番遠い位置に腰を下ろし、既に食べ始めている。

 まぁ藤村も身体を2人に向けてるしオレが会話に入る事は無いから良いんだけど……早く食べてこの居心地の悪い席を離れたい、というのがオレの本心だ。


「ごめんね黒峰くろみねくん。騒がしいよね」


 藤村を挟んで栗本が声を掛けてきたので、視線をそちらに向け、首を横に振る。


「別にここはオレの所有地じゃないんだし気にしなくていい」

あおいちゃんがどうしても屋上でご飯が食べたいって言うから来たら、まさか黒峰くんが居ると思わなくて」

「ねー。人気ないのは知ってたから誰も居ないと思ってたのに……でも、思い出してみたら昼いつも教室から居なくなると思ったらここで食べてたんだね」


 藤村と栗本はあくまで偶然を装っているがオレは昨日の藤村の言葉を忘れていない。


『栗本もグルだから』


 昨日、藤村が屋上でオレと会う事を栗本は知っていた。だから、偶然なんかじゃない。どちらか、或いは2人が、オレがここに居ることを分かっていて、それでも屋上に来たんだ。


「私も驚いたよ」

「皐月でも黒峰くんの事で知らない事あったんだね」

「そりゃそうだよ、ただの幼馴染なんだから」

「ただの幼馴染は高校生で一緒に登校しないって」

「それは家が近いからって────」


 目的はおそらく皐月にある。皐月にオレが屋上に居ることを教える為に……だけど、そんなことをする動機が分からない。皐月が知り、一体どんな意味があるのか────いくら考えても分からない。


「春は暖かくて良いよね。冬に屋上で食べるのは絶対無理」

「黒峰くんは、去年は一年中?」

「さすがに気温が高すぎたり低すぎたりしたら教室で食べてた」

「身体に悪いもんね」

「飯食うどころじゃ無かったからな」

「挑戦はしたんだ……」


 その後も予想外に会話に参加させられ、他愛もない雑談をしていると5分前の予鈴がなり、全員で教室に戻った。


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