第14話 もうひとつの魔王の復活
……ふうん?やるじゃないか、ねぇ
グリム・エルゼローツくん?
一人の女がにんまりと笑う。その姿はかつての魔王によく似ていた
しかし魔王は男だ。故にこれは魔王では無い
では何なのか。それは誰にも分からないのかもしれない
ただ一つ言えるのならば、これはただの偶像だ虚像、偽り
魔王とは二面性を持つもの。その影もまた、魔物の王たる力を持ち合わせる
勇者に倒されたのは本物の魔王だ。それは誰もが知っている話だ
しかし魔王が二人いたことは魔族でさえ知らなかった。
彼女は影ゆえに実態を持たないはずだ。しかしそれすら魔王は織り込み済みだったのだ
魔族と人間の違いは一つ。時間の有無だ。魔族は一度滅びようとも、様々なものを依代に復活する
例えば剣。例えば槍、例えば星、例えば空、例えばりんご
そういった全てのモノに魔族は変質している。
この世界から魔族を消すことなど不可能
ましてや、その王。それが勇者に一度倒されたぐらいで死ぬわけが無い
人間は所詮ただの生物だ。だが魔族は生物を超越した一種の概念なのだ。それはゆっくりと力を取り戻しつつある。
では魔王の影が本当に実体化したのはいつなのか?それはもちろん
「……勇者レオン……貴様が死ぬことで我らの敵は一人になった」
そして最後の一人、グリム……エルゼローツ。やつが死ぬ事で我の時代が再び訪れる
女神よ、おごったな。
人に力を与えたせいで、そいつらの寿命を考えていなかった。それが貴様らの敗因だ
勇者は死に、力を手に入れたものは一人を除いて死に絶えた。
ならばあとはやつをゆっくりと片ずける。それでおしまいなわけだ
魔王は再び集った魔族たちを呼び寄せる。
その目には一筋の光が走っていた
百を超える魔族、それらは再び集う。異世界からの使者はもう居ない
残ったのはただ一人のみだ。
「……さて、わかっているな?……なるべく端っこの街から始末していけ……くれぐれもグリムとやらに気取られるな、やつは化け物だ。だがやつしか居ない。ならばやるべきはただ一つ、やつ以外を全て殺す」
魔族たちは魔王に従い、世界各地に散らばってゆく
暗黒の空に、ゆったりと絶望が飛散していく
◇◇◇
だが魔族は魔王は、知らなかった。
女神が呼び出した存在、そいつらがそこまで考えていないわけが無いということを
この25年間、その間に彼らは自らの意志を継ぐもの、力を引き継ぐものを生み出していた
それらが今、グリムエルゼローツを中心に動き出す。
止まった川の流れは静かに、だがどんどんと動き出す
勇者が去り物語の幕が降ろされた世界に、訪れるであろう危機
だからこそ勇者レオンは託したのだ。一人の、親友に……自分たちがいなくなった世界を救う力を
勇者が死んで魔王が復活したように、同じく勇者の死をきっかけとして次々と世界に希望が生まれ出す
その中心にいる男、グリム。彼はどんな物語を歩むと言うのだろうか
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