第13話 剣聖道

 次の日のこと


 俺は一人ブチ切れていた。理由など決まっているだろう

 


 最早剣を極めるどころか、剣に謝れ。と言いたくなるレベルの酷い剣技

 雑に扱われる剣


 極めつけは、一番強いと言うやつがえっらそうに弱いやつを虐めていたのだから


 初めは俺だって我慢していたさ


 けれど


「……そしてこの奥義こそが、『篝火』なのです!さぁどうですか?……この師匠の名前を冠した必殺剣は!」


 などと言われたものだから、思わずこういってしまった




「……舐めてんじゃねぇぞ……」


「え……?!え?!」


 その声は、地獄の底から響くような重さを纏い

 その場にいた全ての人間の動きを止めるほどであった


「失礼ですが、今……なんとおっしゃいましたかな?」


 慌てたように尋ねてくる『剣聖』を名乗る男に俺は怒鳴るように、否呆れるように……ブチギレる


「舐めてんの?……この剣技、この武具の扱い……そしての名前を使ったその奥義……」


 俺は一呼吸置いて、ゆっくりと『剣聖』を名乗る男に詰め寄る


「……いいか?この『剣聖道』はなぁ?……あの面倒くさがりのカガリが、珍しく自分で『最高の流派を作りたい!』そう言って作った物なんだよ……それをな?……!」


 俺は知っている。カガリは一度剣を捨てたことを

 自らの『剣聖』の名前の重さに耐えれずに、一度剣を折ったことを

 それでも、人類が立ち向かうその姿に心を動かされて……何度も何度も挫けながら立ち向かっていっていたことを


 そんなアイツの願い……「いつか自分の弟子が出来たら、自分の流派を作るんだ!」と言っていたそれを、『剣聖道』を


「……この数十年でこんな酷いものに変えちまったお前らに俺は心底腸が煮えくり返っているんだよ」


「……あ?剣聖を舐めてんのはそっちだろうがよ?」


 ほお、反論してくるか。普通に度し難いな


「そうだ!お前ごとき、ただの英雄に祭り上げられた雑魚風情が……なんの役割も無かったと言われている雑魚が『剣聖』を侮辱してんじゃないよ!」


「そうだ!」「そうだ!」「そうだ!」


「────そうか、ならばてめぇら全員……潰す、一から叩き込んでやるよ……本物の『剣聖』の剣技をな」


 アーテルを抜き、構える


 辺りで次々と剣が引き抜かれる音がする


「……残念です、グリム殿……私たちの剣聖道を褒めてくれるとばかり思っていましたのに」


 確かガッスとか名乗っていた男が立派な剣を構える


「まぁ良いでしょう、どうせ英雄の名前を騙る不届き者として処理してしまえば、なんの問題もありません!さあ!君たち、やっておしまいなさい!」


 そう言って地面に落ちていた剣を足で蹴っ飛ばす。その声は少しだけ狂気を帯びていた。


「……どうやら君たち、魔物に取り憑かれているようだね」


 俺は気がついた。こいつらから臭っていたそれは間違いなく魔物のそれだ


 つまりは、魔族。この剣聖のガッスとやらは魔族なのだろう


 ふむ……それならばこの『剣聖』の技を侮辱したものを作り出すことにも納得が行く


 まぁ、納得が行くだけで……



 



 久々の全力のアーテルによる一閃


 その一振はその場に点在していたありとあらゆる魔を斬り裂いた


「?!か……は?!」


 カッスと言う男は今の一撃が理解できなかったらしい。

 今のがカガリの使っていた基本技


「……これがな、剣聖道の基礎技だよ」


 剣聖道の極意、それについて俺は昔カガリから聞いたことがある


 ◇◇

「……なあ、カガリ……剣聖の極意ってあるか?」


「……無い。あるわけが無いだろ?」


 俺は確かその答えに驚いた覚えがある。あれだけ大量の魔物を一人でなぎ倒す剣聖様の剣に極意がないわけが無い


 そう俺は思い込んでいたのだ。


 その俺の表情をみて、カガリは少し考え込んだあと


「……まあ……強いて言えば、ぐらいかな?」


「…………」


「あ、あれ?おーい何驚いているんだ?」


「……いや当たり前すぎてな」


「その当たり前をできる人間が剣聖を名乗れるんだよ……基礎、の基礎。武器を大切にしなさい?……これすら出来ない奴に、剣士を……ましてや剣の道を名乗る資格なんて無いよ」


 それもそうか。と俺はあの時は割とあきれながら会話していたのだが


 ◇◇




 今になって思う。あれは本当だったと


 基礎。基礎を極めたものは自然と所作が丁寧になってゆく

 それと同時に、自ずと武具を大切に扱い始める


「……剣聖ってのはな……剣を足で蹴っ飛ばしたりはしないんだよ」


 そう言いながら

 俺は優しくアーテルの血を切り払い、そのまま布で拭く


 わずか一振でその場にいた全ての魔族が切り倒されていた


「……アーテルばかり、ずるいです」


 アルバスがそう言いながら俺のそばに着地する。

 アルバスの手には逃げ出そうとしていた魔族が数十匹連なっていた



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