第12話 手入れ

 その男と別れたあと、俺は一人宿のベットに横になる


「……そうか、カガリのやつ……ちゃんと自分の名前と役職を後世に残せたんだな」


 俺は少し懐かしいアイツらとの思い出のひとつを呼び覚ます


 レオンが『勇者』だったように、カガリも『剣聖』の名を手にした俺の親友だ


 あいつはまぁ良い奴だった。剣道の相手がいないから異世界では戦うことが出来て嬉しいと何度も言って笑うあいつの顔が思い出される


 ……それにしても本当にあいつらは死んでしまったんだな

 今この時代に生きているのが俺だけだ、というレオンの言葉が急に心に刺さる


 俺は一人、孤独な物語


 そう言っては、これ以上何かを考えるのも嫌になり、俺はベットの枕にあたまを埋める


「……にしてもあいつの作った剣聖道とやらがめちゃくちゃ発展していて嬉しいような、少し気になるところがあるような……」


 俺はあの剣聖の名を冠した男が妙に気がかりに感じたのだ。なんというか、そこまで強さを感じられないというか


 アイツらがカガリの名前を継ぐに相応しいのか、明日にでも尋ねる必要がありそうだな


 そんなことを考えていた俺の部屋の扉がコンコン。とノックされる


 ───なんだろうか、すっごい嫌な予感がする


「……はい、ど、どうぞ……?」


「失礼しますわ!」「失礼しますぅ!」


 アーテルとアルバスの二人だったか。やばい、なんか嫌な予感が的中しそうだ

 二人は妙に薄っぺらい服に身を包み、俺の部屋に入ってきた

 ちなみにこの部屋はギルドの人におすすめされた部屋だ


「──ここの宿は実に良いですよ!まず音を遮断する魔法がかかってますから」


 そうギルドのお姉さんが言っていたことをふと、思い出す


 なんだろう、すっごい勘違いをされている気がする


「……ど、どうですか?」「どうでしょう……」


 二人が妙に薄っぺらい服のまま俺の横に座る。とは言っても別になにかしてくるわけじゃないし、冷静に


「……ひゃん?!」


 俺の体にアーテルの腕とアルバスの腕が巻き付く。なんだろうか、すっごく艶めかしさを感じるんだが


「……ここならグリム様を好きにできるっ!」

「ここならば……グリム様と交われるっ!」


 うーん心の声、漏れてますよー。


 二人の手が触れる場所が熱くなる。そして俺はふと、気がつく


「──二人は本当に生きているんだな……」


 俺以外の脈がドクン、ドクン、と伝わってくるのを感じたので思わずそう口に出してしまう

 二人はにっこりと笑い


「「そうですよ」」と俺の耳元で囁く。


 あ、ヤバいかも。理性が壊れそう、色々とやばぁい

 実際、彼女らは美人だ。もはや絵に描いたような美しさのそれだと自慢できるほどには


 そんな二人が薄っぺらい服装で俺に迫ってくる。その状況はたぶん本来ならば素晴らしい物だったのだろう

 だが、俺の理性が強すぎた


「────二人とも、風邪ひくから寝なさい?……いくら炎魔法で部屋が温められているし、君たちが武器だから風邪は引かないかもしれなくても……ね」


 なんと言うか、長年連れ添ったものに抱く感情は愛情を超えてしまっているのだ

 愛情を超えると人は性欲がなくなってしまうのだ

 むしろ自分の一部、とすら認識できるそれを女の子、と見ることがやはりできなかった


「────グリム様の意気地無し!」


「────せっかくですからァ、身を委ねてくださいよォ?!」


 二人は拗ねたように俺から目をそらす。なんかごめん

 それでも、俺はこの二人をちゃと愛していることだけは事実だ


 ではあるが。


「ッ───本当に、意気地無しですね……まぁ知ってましたけど」


「そうですぅ……まぁ最初から裸になっても特に何もしてこなかったのを踏まえると……ある意味予想どうりでしたぁ……はぁ……」


 ごめんねぇ……意気地無しで……


 ただそれでも二人は俺を優しく撫でる。その優しさは、俺にとって最も心地よいそれであった


「────いつの日か、貴方様に愛される女になってみせますわ!」


「─────そうですぅ……まぁこいつには負けないようにしようと思うですぅ!」


 二人はそう言うと俺の手の中で剣と槍の形に戻る。

 俺ははぁ……とため息をついて武器を手入れするキットをアイテムポーチから取り出し


「───相変わらず、惚れ惚れする手さばきじゃのう……」


 首の後ろからデボラに話しかけられる。

 俺は褒められたことに少しだけ嬉しくなりつつも


「そうかな?……まぁ慣れたものだしなぁ……戦闘中にもある程度拭いてはいたんだけどね……こういった剣の隙間とかに入ったゴミってなかなか取れなくてさ」


 そう言いながら、アーテルとアルバスの隅々まで拭き……反りを確かめて、その後鞘の中にしまう。

 アルバスの方は槍の先端にカバーをいつもしているので、それをはめる


「───ちなみに二人は気持ちよくなっておったぞ?」


 えぇ……それは……良いのかなぁ……


「…道理で喋らなくなったわけだ……」


「まぁそれはもう、同人誌もびっくりなぐらいの喘ぎ声で……おっとこれはオフレコじゃったか」


 えぇ……聞きたくなかったなぁ……


 そんなこんなで俺は二人を手元に抱えて、目を閉じる


 いつの日か俺の旅は幕を閉じる。そのとき、彼女らと別れるのを後悔しないようにしないとな

 そんなことを考え意識を夢の世界に落とす





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