第9話 どっちが化け物だ

 逃げられた。

 いや、まさか目を合わせただけで全力で逃げられるとは思わなかった


 一目散に逃げられたことで少し俺は動揺する


 なんか全力で、すみませんすみませんとか呟いていたのが少し気になってしまったが


「……えぇ……?何でぇ……?」


 唖然とする俺の肩をアーテルとアルバスが撫でながら、さも当然のように


「まあグリム様の強さにビビったんでしょう!」


「そうですぅ……あまり心配しなくていいかもですぅ……というか当たり前ですぅ……」


 何が当たり前なんだろうか?


「グリム様の今の魔力量とオーラははっきりいって魔王とかのレベルですからね」


 え?そうなの?


「そうですぅ、だから魔物が雪の中襲ってこなかったんですよぉ」


 えぇ……?


「で、でも他の人は特になんも言わなかった……」


「それはおそらくですが……無意識に抑えていたのでは?と私は思います」


「無意識に抑えれるものかなぁ……?」


 と、呑気な話をしている場合ではなかった。


「ッ!誰だ!」


 いきなり目の前に数人の武装した人間が現れたのだ

 おそらくはワープ魔法の一種だろう


「ば、化け物?!……た、倒さなきゃ!」


「あのー落ち着いてください、私はただの冒険者ですので」


「ひ、人の言葉を話す魔物?!」


 なんだろう、すっごい誤解されていってる気がする。

 俺は違いますよ〜と慌てながら話を振りつつ、武器を持ってないよ〜とアピールをしてみる


「ええい!私が許可する!撃て!」


 俺目掛けて魔法が放たれた。おそらくだが炎魔法だろうか?

 しかしそれが着弾する前にアルバスの手で吹き飛ばされる


「……アンタらよくもまあアタシの愛する人を攻撃してくれちゃったわね?」


 当然のように愛する人呼ばわりされているが、いや君ら武器だよね?


「そうですねぇ?!グリム様!奴ら殺していいよねぇ?!」


 うーん落ち着きな。と言う言葉すら聞こえていなさそうである


「まあ一旦落ち着かせる意味も込めて、ちょいと気絶させるぐらいに……」


 アルバスが駆ける。その純白の体躯に一瞬見とれてしまったのか、盾を構えていたおそらくはタンク役の男が吹き飛ばされる


 慌てて魔法を唱えようとしていた後ろの2人組がアーテルの斬撃の風圧で地面にめり込み……気絶する


「な?!リファ?!、ラド!……ええい!よくも私の愛する部下たちを!」


 まあ俺も軽ーく殴ることにした。女を殴る趣味は無いし


 だが俺が殴った瞬間、奇妙なことが起きた


 というのは目の前にいた女の体から急に魔力が抜け落ち、そのまま女は眠るように気絶してしまったのだ


 この効果、確か見覚えがある……


「貪食の指輪の効果?!そういえば俺の貪食の指輪は何処に?!」


 あれは確か国宝であり、古代の異物のはずだ

 あれをなくしたとあれば……どんな風に文句を言われて、金をせびられるか分からない


 俺は目の前のヤツらのことなど忘れ、必死にポケットやら体の隅々まで探すが


「……ない、無い?!」


 どこにも見当たらないのだ。それだけでなく、『生命を固定せし烙印ペースメーカー』もなくなっていた。


 あれもまた国宝レベルの代物だ……考えられるとしたら


「まさか戦いのさなかに壊しちまったのか?!」


 冷静になって考えれば、それしかないわけだ


 そもそも武具たちが付喪神になるレベルの年月の戦いの中で壊れていないわけが無い


「俺は国宝レベルのモノを2つも破壊したというのかっ!!」


 俺が落ち込んでいる間にも、二人はたんたんと残ったメンツを気絶させていっていた


 そうして、しばらくの後再び安息が訪れた


 ◇◇


「……どうしよう……国宝……壊しちゃったのかなぁ……」


 俺は割と涙目になりながら頭を抱える。


 そんな俺のことを二人は見合わせると


「……グリム様?そこまで心配なさらなくて良いかと……」


「そうですよォ……だってからぁ」


 2人ともありがと……俺の事を慰めて


 え?今なんて?


「だからァ……?」


「誰と?」


「グリム様と」


 へーそうか〜それなら安心






「…………ゑ?」





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