第8話 洞窟

 とは言ってもの話なのだが


 グリムは今のところ刷新されたシステムに対してあまり馴染みが無かった。

 正確には詳しくは知らない、と言うべきなのだろう


 全力で雪原を駆け抜け……新しい街へと赴く。その判断をしたのは、いくつか理由があった

 まずひとつ、この地域が寒かった。それが一番だろうか

 いくら彼が強いとはいえ、寒さは皆平等に襲ってくるわけであり


 実際彼はしばらく歩いたあと、寒さのために一度町に戻ろうかとすら思った

 しかし吹雪いていた雪は視界をさえぎり、それに伴って来た道が分からなくなってしまっていた


 普通の冒険者達ならば、地図や目印を立ててから進むためあまりこの程度の雪は気にならないのだが

 彼は準備も何もせずに外に出て来てしまっていた……


「……そういう訳で済まない、地図とか防寒着などは持っていたりしないか?」


 木陰で雪が収まるのを待っていた俺の近くを通った冒険者に話しかけたのだが


「わりぃな、自分たちの分しかないんだ、諦めてくれ……ではな」


 華麗にスルーされてしまった。全く仕方の無いことではあるが


「あたしが暖めてあげるわ!」


「そうですぅ……私の胸で温まってくださぃ!!」


 驚くことに彼女らはちゃんと暖かく、人と同じ温もりを味わうことが出来た

 だが、それは微妙に俺の理性にダメージを与えてくるわけで


「……はあ、次からはちゃんと装備を整えてから外に行くことにしよう。うん」


 余計に俺にその気持ちをいだかせてくれた。


 ◇◇



 雪は小一時間程で収まり、風もあまり吹き荒れていなくなった頃

 俺は身体に積もった雪を薙ぎ払い、背伸びをして立ち上がる


「……さてと、行くか」


 二人から受け取った槍と剣を装備し俺はゆっくりと雪をかき分けながら歩く


 あの真の魔王との戦いのさなか、俺の身体能力は桁外れに高くなっていたので……槍を振るう度に辺り一面の雪が吹き飛んでゆく


「これならフツーに雪を剣と槍でなぎ払いながら歩いた方が早かったかな」


 そんなことを呟くと、後ろから着いてきていた二人が物足りなそうに


「それだと折角のスキンシップが台無しです!」


「その通りですぅ……」


 いや別に俺はスキンシップしたい訳じゃ無いんだけどね?

 と言う顔をせざるを得ない。



 ◇◇


「……おや?……これは血か?」


 街から割と離れた山岳地帯のさなか、俺達は血溜まりを見つけた

 その血の色から、おそらくは魔物と人間の血が入り交じったものだと推測し


「……ふむ、警戒を怠らないようにしないと……な」


 そう呟く。

 近くには洞窟があり、そこはおそらくだがダンジョンなのではないか?と推測できた


 何が問題かと言うと、血溜まりがあった場所がダンジョンの外にある……ということなのだ


 周囲の雪のつもり具合的に……そこまで前では無いはずだ


「どうなさいますか?……おそらくは戦闘になる可能性が高いかと……」


「そうですねぇ……まあ私達が着いていますしぃ……余裕でしょうけどぉ」


 俺は無言で剣を取り出し、構える。


「そうだな……ここは冒険者らしく戦闘と行きましょうぜ!」


 そういうと、洞窟兼ダンジョンであろうそれに足を踏み入れることにした。


 どうやら誰かが死体を引きずったのかは分からないが、血の跡がゆっくりと洞窟の奥底まで続いていた


 まず俺はゴブリンのような小型の魔物か?と思ったが

 その考えはすぐに捨てることになった


「へぇ?……コイツは」


 そこにはゴブリンの死体があった。

 そしてゴブリンの死体には、深々と槍が刺さっていたのだ


「この槍……そうね、あんまりいい槍じゃないわ」


 やっぱ同じ槍としてわかるものなんだなぁ。とか考えながらさらに洞窟の奥に歩いてゆく


「しかし不思議ね?……普通洞窟では槍なんて持ち込まないのにね」


 アルバスの言葉は最もだと思う。取り回しの面で槍は剣に劣る

 それは俺の中では常識だ


「そうだな、特に洞窟の中に槍やでかい剣を持っていくのは死にたがりぐらいだろうな」


 実際今俺は、アルバスではなくアーテルの方を構えている。


 と、不意に脇道から魔物が飛び出してくる


「お、ゴブリン」


 俺は右手に構えたアーテルによる回転斬りを繰り出す。

 僅か一秒で繰り出された剣はゴブリンを触れることなく消し炭にする


「さすがね……」


 ちなみに俺は松明も持っていないのになんでこの洞窟の中で問題なく動けるのか?という点に関しては


 慣れである。時の神殿での戦いの中で……気配探知能力がカンストしてしまっている


 暗い場所は普段と何ら変わりのない空間と化しているので……はっきりいって松明を持って対応しそびれるぐらいならば、持たないと言う選択をとることになるのだ


「……ん?このゴブリン、そもそも手負いだな」


 俺は不思議なこともあるものだ、と首を傾げながら先に進む事にした


 そして進んだ先で俺はなぜゴブリンが手負いだったのかを理解する


 沢山の人間が集められていた。


「おや、獲物がまた一人……二人?」


 そこの空間は異様に広く、先程までの洞窟とは異なり、ちゃんとしたダンジョンの様相になっていた


 そしてその真ん中には、魔法使いの男が一人座っている


「君がこのダンジョンの主か?……ふむ?違うと言う顔をしているな」


 男は何かの魔物と合体していた。キメラだろうか?

 そして近くには沢山のゴブリンが塊になって死んでいた


「んーよく分からないけど、少なくともいいものでは無いよなぁ……悪いねぇ斬るよ」


 そういうと俺は相手の顔を見据える。




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