第5話 王都に向かう
「全軍一応周囲を警戒しつつ、隊列を組み直せ!!」
あの隊長と名乗る男は、案外冷静なのだな
倒した竜の死骸を回収班の人達が丁寧に解体していく様子を眺めつつ、俺はアルバスをグリスで拭き直す
槍先、柄、刃先まで全て綺麗に撫でるように丁寧に拭く
『あ、あっ!……グリム様の……手の温かさが……っ……んん!』
誓ってやましいことはしていないはずだ。────そうだよね?
だって俺はただ槍であるアルバスを丁寧に拭いているだけだし……ねえ?
『あたしも後で拭いてもらえませんかぁ?!』
アーテルもそう言うが、それを直ぐにアルバスが遮る
『ふん、アンタ活躍してないし……汚れてすらいないでしょ?なら自分から泥ん中にでも入ったらいかが?』
『……てめぇ後でマジで泥の中に沈めてやるですぅ……覚えてやがれ』
はぁ……。
「グリム、お前はそこまで強くなったのだな……いや、そうだな」
何がだろうか?俺が聞き返すと、レオンが苦笑いしながら
「お前は知らんだろうが、あの神殿……『時の神殿』の中と外では実に百倍時の流れが違うのさ……だからお前は」
「……二千五百年戦いをしていた、ということになるのか……?……そんなに戦ったかな?」
俺は流石に桁がズレているのだろうと思い、首を傾げる。
たぶんせいぜい千年も戦った……あれ?でも言われてみればかなり戦っていた気がする……
やべえな、流石に長すぎて記憶が混同してきている
そんな俺の様子を汲み取ったのか、アルバスとアーテルが
『……そうです、彼の言うことは正しいですね……二千年……それだけの間私たちと共に連れ添っていてくださったのです』
『そうですぅ……それだけ一緒にいればぁ、互いに愛し愛されてもおかしくないわけですぅ』
それはよく分からない。というか、そんだけの時間を俺の精神はよく持ったな
『……持ってるわけ無いですぅ……普通に壊れてることに気がついてないだけですぅ、そこはアーテル心配ですがぁ……』
『そうね、普通に壊れてると思うわ?むしろなんで壊れて無いのか不思議なくらいね』
あら?まじ?
えー?いや確かに壊れないわけが無いとは思うけど……まあ俺も腐っても異世界人だし、何か特殊なバフとか……
いや俺『持たざる者』だからそう言うの無かったなぁ
不思議なこともあるものだ。と首を傾げると、レオンに
「──時にグリム、お前のその槍と剣から異様な雰囲気を感じるのだが、それについて説明してもらえるだろうな?」
眼光は非常に鋭く深く、人の心理をつくような目をしていた
正しく勇者の眼は世界の全てを見抜く目
即ち『識者の魔眼』の効果だろう
「よく分かったな、と言うか俺にも詳しくは分からんのだがな……剣と槍が人間になってたんだよ……」
「ちょっと何言ってるか分からない」
だよねー。
何やかんや説明する。
その話を聞いているレオンは俺が異世界に行く前に流行っていた猫のミームのような顔で俺の話を聞く
「────成程、付喪神のようなもの……か?うーんにしては不可解だな」
俺は試しに2人に出てきてくれないか?と頼む
「はいはいー呼ばれてきちゃったわよ!はじめまして!あたしはアルバス!よろしくね、主様の親友さん!」
アルバスは服装が微妙に変化していた。白髪に蒼色の眼をしたポニーテールの女の子、そこまでは変化していないのだが
先程まで着ていたのは可愛らしさよりも実用性を重視したチェインメイルと膝当てだけだったのに
今は、美しい白銀のドレスに身を包んでいた
「な?……え?ふ、服が変わって……」
「あたしもオシャレしようと思ったの!ど、どう?可愛いでしょ?」
可愛いと思わず言いそうになるが、ふと冷静になる
でも俺の槍なんだよなぁ……
「うふふふふ始めましてぇ……私はアーテル、グリム様が一番愛している剣ですわぁ!」
今度はアーテルを呼び出したのだが、その見た目は普段の黒髪に赤のメッシュが入ったセミロング、瞳は金色と赤と黒と言う、まるで王族が好む色なのは変わらず
黒と赤と金色がふんだんに織り込まれたドレスを着ていた。
身長がアルバスより小さいのだが、その色と彼女の眼力により、アルバスと同じぐらいのオーラを漂わせている
「……すごいな、グリム……お前はこんな美人に愛されているのか……ははは羨ましい」
何が羨ましいのか?と尋ねるが、その瞳は間違いなく遠くの空を眺めていた
その後、少し悩んだ後
「……俺の場合は政略結婚だ……もちろん今の妃は愛しているのだがな……だがもっといい人があいつにも、俺にもいたのでは無いか?と思っただけさ」
お前は一体25年間で何を知ってしまったんだ。と訪ねたくなる
そこまで悲しい眼をする必要が?
そう思ったが、何も言うな。と言う顔をしていたので、アルバスとアーテルと目を合わせて黙る
◇◇
「お?そろそろ見えてくるぞ?……お前にとっては久しぶりの王都だ……まあゆっくりしていくといい」
「へーすごいわね、流石に復興してるわね」
アルバスの言葉を聞いて俺は外を眺める
馬車の車窓から見える城下町の風景を眺めると、懐かしい思い出が蘇ってくる
「そうだな、かつては魔王の手で破壊されてしまっていた街も……復興したのだな」
「その通りだ……俺たちの頑張りはお前にも伝わっているようで満足しているだろうな……あいつらにもお前のこの笑顔を見せてやりたかったがな」
「……?なんの事だ?」
「……ああ、そうだな……お前には話しておくか」
◇◇
「……そうなのか、道理で……」
俺は今聞いた言葉に深いため息を吐き出さざるを得なかった
「……死んだのか、皆……」
「二割は寿命で、残りの八割は……自殺だ」
「自殺……」
「愛するもの、守りたかったもの、人を殺めてしまった感触……それらを忘れることが出来ずに……悔やみ続けた結果だ」
馬車の中には重苦しい空気が充満する
「……残っているのはお前だけ……か?」
肯定して欲しくない。そう思う俺の言葉を
「その通りだ」
重々しくレオンは肯定する。
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