第4話 対価

 彼が話してくれたのはとても真っ当な事だった。

 力を得たのだからその代価を支払わなくてはならなかったと


「……異世界人……いや、この世界では通常の2倍歳をとる速度が早くなっていてね……」


 ……


「そう、お前の推測の通りだろう……50


「……だからそんなに……老けているのか」


 その通りと、言わんばかりの寂しそうな笑顔に俺は思わず唸る


「……この25年間はあっという間だったのさ……それこそ、瞬きの合間に世界が移り変わっていく……はぁ……こんな話をしたくなるのも歳が原因なのだろうな」


 その言葉を聞いた途端、俺の脳裏にひとつの恐ろしい可能性が生じ……聞かなくてはと思い尋ねる


「……お前はあとどれ位生きれるんだ?」


 だが、その答えを聞く前に俺たちの場所の近くで爆発音が響いた


「?!何だ…………魔物か!」


 俺達が馬車を降りると、近くの岩の上に巨大な竜が鎮座していた

 体躯は実に俺達の馬車の4倍はある。

 赤褐色の鱗に、黄金のような瞳を携えたそれは間違いなく


「──『火炎竜』気をつけろ!あれは上位個体だ!」


 火竜の上位個体である火炎竜。その危険度は簡単に中ぐらいの街を壊滅させることすら可能なレベル

 流石に魔王軍のボス立ちに比べると幾分か弱いが、それでもかなりの難敵


「全軍盾を構えて隊列を組み直せ!」


 どうやらこの軍勢の隊長と思わしき人物が指示を飛ばしている。

 迅速な判断をできているあたり、おそらくだがかなりの人物なのでは無いか?と俺は推測しつつ


「──盾はやめておけ、特に竜相手にはな」


 俺は思わずそう話しかけてしまった。いや、我慢できなくてね


「あなたは確か、グリム殿でしたか?……我々の軍勢を舐めないで頂きたい!……我々は何体もの竜を相手にしてきました!!戦い方は熟知しているはずです!」


 俺はレオンと顔を見合わせる。レオンも若干呆れ気味でまたかと言う表情をしているところから何となくだが、彼の苦悩の一部を感じ取った


「────まあ、ここは任せます」


 俺はレオンのその判断に少し驚きつつ、それだけ老いてしまっているのかと悲しくなる


「いや何、王様が戦いで命を落とすのはあまり良くないだろう?それに今は旧知の仲間との感動の再会の最中だ……返り血で染まった盃なんぞ酌み交わすのは嫌だろう?」


 いやここで盃酌み交わすとか……まだ朝だぞ?と俺はツッコミを入れつつ


「だけど良いのか?あれ普通にヤバそうだが」


 俺は改めてあの竜と、王国の軍勢との戦いを眺める

 今この場に来ていたのは総勢40名程の人達。タンク役の人達が半分と、それ以外は皆攻撃に回っていた。

 数人の回復魔法使いたちがしきりに回復魔法を放っている


 その様子はハッキリ言って酷いものだった。


 まず、盾を持っていたヤツらが次々と投げ飛ばされて……戦線が一瞬で崩壊し、それを回復させるために回復魔法使いたちが回復を行うが

 そちら目掛けて突進し始める竜。


 当然だが回復という行為はよく狙われる。それこそ攻撃役職よりもだ


「うわぁ!!た、隊長!まずいです!」


「クソ、怯むな!盾兵!盾を構えろ!……っ」


「か、回復が追いつきません!っきゃあ!!」


 はぁ。と俺はため息を吐き出す

 まあせっかくだしここいらでかっこいい所を見せてやらないと、流石に色々と不味いしなぁ


 それに若い芽を摘み取られるのは何か可哀想だしな

 俺はアルバスを手に持ち、アーテルを腰に装備する

 今回はアルバスの方で行くか


 そう告げると、扉を開けて……そこから棒高跳びの要領ではね飛ぶ


 一瞬で戦線のど真ん中に着地すると、俺はそのままアルバスをくるりと回転させて薙ぐ


 垂れ下がった龍の尻尾。それを一撃で切り飛ばして飛びあがらせる

 驚いた竜は反射的に翼を羽ばたかせて空から様子を見ようとするが


「さてと……上に何も考えずに飛ぶのは愚策だよ」


 上に飛ぶ。その行為は槍使いに対して愚策の極みと言える

 何故ならば、槍はのだから


 空中に無理やり飛び上がる行為は、生物的に無茶をしている。

 こと、竜と言う大型な質量の物体が空を飛ぶにはそれなりに負荷がかかるのだが……それはすなわち回避に当てるリソースを全て空を飛ぶ行為に費やしてしまっているわけで


 俺は槍を構え、投げようとする。


 しかし


『グリム様、あたしを投げてもいいわよ?だって必ず貴方様の元に帰ってきますから!そこの剣と違って!』


『ちっ、うぜぇです……いいですぅ、私もいつか空中用の武装に進化してみせますからァ!』


 よく分からないけど、武器状態で喋るとこうなるのか。風呂場で会話してるみたいに聞こえるな


 じゃなくて、投げても戻ってくるならば……躊躇う必要は無い


 俺はそのままアルバスを投げる。

 サイドスローで投げられたアルバスは白の軌跡を残しながら、竜の体を二等分に串刺した


「……え?……」


 驚いたのは俺の方だ。叩き落とせれば御の字だと思っていつもの感覚で投げたのに、叩き落とすどころか一撃で仕留めてしまった


 そして唖然としている俺の手の中に、アルバスが戻ってきた


『見てみて!アタシ凄いでしょ!フフン!見た?ねぇ見た〜!?アタシの方が凄いんだよ!』


『調子のんなですぅ………所詮竜ごときにいきがってんじゃ無いですぅ』


 槍には血の跡すら残っていない。


 俺は唖然としつつ


「……ひょっとして君たち?」


 思わずそう尋ねてしまった。それぐらいにやばかったのだから仕方ないだろう?


 おかげで、レオンには誰と話ししているんだ?と聞かれてしまったのだが





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