第3話という名の、前の世界のエピローグ〜プロローグまで

 ……何これ、夢?


 驚く俺を差し置いて、後ろからアルバスが自らをかたどった槍を構え


「グリム様の童貞を取られたのは腹立ちますが……まあ、良いわよ!後でたっぷりと撫でて貰うんだから!」


 んー?待て待て


「ふん!負け惜しみ乙ですぅぅ!あなたは所詮、グリム様の一番すら取れない負け組!ぐふふふふさあ、私色に染め上げてあげますゥ!」


「グリム様、一旦その剣渡してくれませんか、へし折ってやりますから」


「やってみるですぅ!そんな度胸も胸もない奴に出来るとは思わ」


「────うん、へし折ってやるわ!」


 あの?俺蚊帳の外じゃない?……いや、いいんだよ?なんか怖いし

 だけど、何かがこっちに向かってきてるって言う時にそんな喧嘩しないで欲しいなぁ……って……


 俺の童貞をめぐって何故か争っている二人に呆れていた俺の前についに地響きの主が姿を現す


 ────見た目は白髪の老人。されどその瞳に宿る光は、紛れもなく戦いに身を置いた物だけが持つそれをしていた

 豪華な馬を携え、背後には何百という兵士を率いたその姿……豪勢な鎧と旗から俺はどこかの王様なのではないか?

 そう思ったのだが、それは正しかったようだ


「────久しいな、……いや……と呼ぶべきか?」


 一瞬の静寂が野原を駆け巡り、そして俺は気がつく

 ……まさか


「まさか?!……いや、獅子道……お前なのか?!」


 有り得ない。俺は思わず後ろに引き下がる

 こいつが姿を変える魔物や魔族の可能性を否定しきれなかったからだ


「……まあ、驚くのは無理も無いか……俺の見た目に驚いているのだろう?」


「……お前がレオンだと言う証明を出来るか?」


『アーテル』を片手に俺は何時でも斬り出せる状態を維持しつつ聞き返すが


「……そうだな、なら俺達がここに転移してきた時の話でもしようか。あの場にいたお前なら覚えているだろう?」


 ◇◇◇◇




 神谷 優希は北陸のとある山奥の小さな村で産まれた

 幼少の頃からおばあちゃんとおじいちゃんが遊び相手だったのだから、必然的におばあちゃんっ子だった訳で


 彼はいつもおばあちゃんに色んな知恵を授かっていた、それは『物を大切にする事』みたいなものから『戦争における矜恃』のようなものまで教わっていた


 彼は普通に育った。驚くほど普通に育った彼は、小学校から高校生まで地元で過ごした


 一田舎の学校など当然ではあるがクラスメイトは少なく……故に小学校から高校までほぼ全員が顔見知りだった訳だ


 お金が無く、みんなで出し合ってようやく修学旅行を開ける程度の小さな高校

 バスはオンボロな小さなヤツで……それでも運転手さんは東京の方から来てもらっていた


 東京に行くと言う、修学旅行としてはたぶん圧倒的に世間的にはプチ旅行だろと

 思われるそれ

 それでも俺たちは楽しみにしていたのだ

 修学旅行に胸を弾ませて……そしてその日に異世界に転移した



 ▽▽▽


 真っ暗な空間、トンネルでないはずだ。

 俺たちを乗せたバスは曲がり道でそのままカーブを突き抜けて落ちていったはず


「ようこそ!異世界人の皆様!……早速で御座いますが……世界を救う為にお力をお貸し願えますか!!!」


 俺達が暗闇を抜けた先で見つけたおじいさんからそういった言葉を頂いた時


「?……へ?」


 流石に俺は混乱する。……田舎とはいえ娯楽としてライトノベルやゲーム、スマホはちゃんと存在している……もしや俺たちを田舎者と笑うために誰かがタチの悪いドッキリを仕掛けているのでは無いだろうか?


 俺はそう考えて、警戒していたのにも関わらず俺以外のクラスメイト達はすぐに了承していた


「なんでお前らはこんな急展開についていけているんだ?!」


 俺は聞き返したのだが、帰ってきた言葉は意外なものだった


「……?使が響いていないのか?……俺たちはそれを聞いてこの世界の実情を全て理解したんだが」


 え?……そんなもの聞こえていないけど……?


 困惑していた俺にどデカい剣、流石にゲームでしか見たことがないレベルの馬鹿でかい剣を携えたオッサンが近ずいてきて


「───そうか、坊主なのか、ああ……確かに1人ぐらいはいると思っていたが」


 え?持たざる者……?なんだろうその言葉の響き的にあまり嬉しいものではない気がする


「持たざる者って何ですか……?」


 俺は恐る恐る聞き返す。もし俺の憶測が正しければ……


「持たざる者、それは異世界人の事だ、何人か歴史上にも記録が残っていてな」


 ああ俺の推測の通りだ。つまり、異世界に来たのに俺はなんの能力も持っていない……そういうことになるのか?


「……異世界転移の醍醐味全部消えたぁ!」


 俺は知っている。だいたいこういう役割のヤツは蔑まれて皆から必要ない物として捨てられてしまう

 もしテンプレに乗っ取れば、俺にもいつの日か特殊能力が目覚めるかもしれないけど


 俺は恐る恐るクラスメイト達の方を向き直る。

 だが、彼らは俺を蔑む目など一切していなかった

 それどころか


「───全くなに泣きそうな顔してるんだ?……俺達がまさかお前を捨てるとでも?……そんなことをすれば俺は外道に落ちてしまうからやるわけないだろ?」


「獅子道……お前…………あ、待てよお前ひょっとして『勇者』とかじゃないのか?」


 どうにも普段よりもかなりまともな……と言うか、人格者みたいな風体をしているそれに俺は疑問を抱く


「……よく分かったな、そうだ……俺は『勇者』レオン……これより俺は勇者レオンと名乗るつもりだ」


「名前を捨てるのか?……」


「ああ、ここが異世界と言うならばそこの名前のルールに則って俺たちも名前を変えるべきだろ?」


「なるほど……ちなみにお前今置いていかれているぞ?」


 俺は話しながら後ろで次々と訓練場と書かれた看板の方に歩いていく他のクラスメイトの事をレオンに教える


「───知ってるさ、じゃあ行こうぜ?」


「?!俺も行くのか、イヤイヤ俺は能力もない雑魚だぞ?」


「───多分だがお前にもちゃんと役割があるんだろう……少なくとも俺はそう信じているさ」


 敵わないな。と俺は呆れ気味につぶやき、ついて行くことにした

 ひとりぼっちは寂しいからね

 ◇◇




 その話をしているレオンの表情はあの時と変わらない顔だった


「───わかったよ、お前本当にレオン何だな…………ってかそれならお前老けすぎだろ?!」


 そう、老けすぎている。そして俺は少し怖かったけどひとつ聞くことにした


「……?」


 俺は50年ぐらい経ったのか?と覚悟して聞いたのだが

 返ってきたのは


「25年、だ……」


「25年?!……お前45歳にしては老けたなマジで!」


 ちなみに俺は立ちっぱなしで話すのもあれだからと近くの馬車の中で話をしている


 余談だが、剣は解除した。

 いつの間にか二人は剣と槍の姿に戻っていたようで、今背中にふたつを背負っている

 服も勿論貰った

「──────そうだな、老けてしまったよ」


 それは紛れもなく、後悔の入り交じった声


「……何があった?俺がアイツと戦い始めた後」


「何も無かったさ、平穏……魔族たちが少し反乱を起こしたり……魔物が大量発生したりしたけど……ね」


 それは普通に何かあったのでは?と思ったが


「だったら尚のこと、老けすぎてる訳は何だ?」


 その質問にため息混じりの、諦めた声で


「……………………さ……」


 そう呟いた。













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