第2話 外の世界

 太ももと胸の圧をどうにかしようとしながら、俺は二人に尋ねる


「えっと君たち名前……とかってあったり……?無ければ前俺がつけた名前を名乗ってもらうことになるんだけど」


「?そうね、私たちの名前をまず名乗らないのはマナーが悪いわね!……この乳でか野郎より先にあたしが名乗るべきだから……アタシは『アルバス』貴方様の!!」


 アルバス、それは俺が最初に手に入れ……いまさっきまで使っていた槍の名前だ。

 騎士団長さんが俺の戦闘力の低さを補うために見繕って来てくれたと言う槍


 数々の戦で使用していながら、一度たりとも壊れることがなかった不思議な普通の白銀の槍だ


「アルバスちゃん……ね……んでそっちは」


「『アーテル』ですぅ……そこの乳無しに先を越されたの腹立つです、覚えてやがれですよぉ!……」


 アーテル、それは俺が槍と同じく騎士団長に頂いた両刃剣だ。

 黒塗りに金色の文様が入った不思議な剣。


 アルバスと同じく一度も壊れたりかけたり……斬れ味が落ちた試しがない、不思議な普通の剣


「……君ら本当に普通の武具だったの?」


 俺はそこが納得が言っていない。というのは、このふたつを手にしてから俺はものすごい数の魔物や人間を斬り倒し、刺し穿ったにも関わらず、本当に壊れたりかけたりしたことがないのだ


 騎士団長すら、不思議なものだな?と俺に言っていたが……


「あー……それは貴方様の扱い方が上手かったからですぅ、貴方様は恐ろしく武具の手入れがお上手でした……からぁ」


「そうね、そこだけはアンタと意見が一致するわね……本当に扱い方が上手かったの……よ」


 なるほどーとはならんのよ。確かにめちゃくちゃ丁寧に扱ったりしてたけどさ


 と言うか待って?なんか君ら頬染めてない?


「な、なんでその……頬染めているんです……か?」


 俺は思わず聞いてしまった。口に出してから(しまった、こういうことを言うから俺は女の人と縁がないんだった)と少し後悔したのだが


「それはもぅ……貴方様の手入れの時の優しい手、ああ今思い出しただけでも体がゾクゾクいたしますぅ!」


「そうね!グリム様の布で丁寧に拭く技術はハッキリ言って最高だったの、本当よ?……ううアタシも思い出しただけで体がゾクゾクして来ちゃった……もう!責任取ってよね!」


 えぇ……なんか色々とショックなんですが?


 確かに元々俺はプラモデルとか、本とかを丁寧に磨くのが趣味だったし……まあそれに?

 おばあちゃんが言ってたからね、『優希、物は大切にしなさい……そうすればいつかあんたを助けてくれるかも知れないぞ?』


 おばあちゃん。ナイスアドバイスだったよ、おかげで何故か女の子に囲まれることになりましたけどね!


 それにしても、自分が扱っていた武器にそんなふうに思われていたの少し悲しい。

 俺はただいつも ありがとう、 お疲れ様、 俺を守ってくれてありがとう

 って言っていただけだし……?


「私たちは元々本当にただの一般の槍と」


「剣でしたからぁ……ハッキリ言ってすぐに使い捨てられる気だったんですぅ」


「でも、グリム様は丁寧に、丁寧に扱ってくださいましたから……」


「『嬉しい』『最もお役にたちたい』って心の底から思ったんですぅ……そしたら……」


「「人間に成れたんです」」


 原理不明。理解不可。我混乱


 思わずエセ中国人みたいな言葉を言いかけたが、なるほどな


 つまりは本当に付喪神なのだろう。彼女らは


「……おーけ、意味不明だけど理解した……ま、ここで長話するのもあれだし……外に出ようぜ?な?」


 俺は二人を連れて戦場を歩く。

 崩壊した装飾がばらばらと辺りに散乱して、謎に趣を表していた


 2人は俺を追いかけながら、たたたたーと走って着いてくる

 俺は封印がかかっていたはずの扉の前に立つ。

 俺が封印に手をかざすと カチャリ と言う音がして封印魔法が解除された

 扉は俺が手を触れた瞬間 塵になって消えてしまった


 感慨深さが改めて押し寄せてくる。あれだけの強さの敵をしっかりと倒した自分を誇らしく思いながら

 最後に自らが長いこと踏みしめていた戦場跡を眺める


 崩れゆく神殿から生み出された魔力の残滓がキラキラと光り輝いていた


「───さらばだ、人生の全て……慈しむべき最期の戦いの灯火よ」


 ◇◇







「グリム様!さっきの言葉はアレですかぁ?手向けの言葉的な……そう、ラストワードですねぇ!」


 やめて?なんか人に言われると恥ずかしいから


「いいじゃない!ふ、ふーんアタシは良いと思うけど!……もし誰かがダサいと思ったんなら即刻大穴穿ってやるわ!」


 何故言い直したんだろうか?それはともかく


 俺は洞窟をゆっくりと歩いて行く

 カツン、カツンと響く音が反響し……天然の拍手のように俺には聴こえていた




「っ……おお!!!……いい朝日だ」


 洞窟を抜けた俺たちを優しい朝日が高々と照らし、気持ちの良い風が俺たちの体を吹き抜けて行く


「そうね、でもまずは……服を着るべきだと思うわ!」


「あ、それは同感ですぅ……誰かに見せるわけにはいきませんからぁ……あたしのものですよぉグリム様の裸はぁ!」


「あたしたち、のものって言うべきよ!ったくアンタには抜け駆けさせないわよ」


「ちっ、うぜーです……」


「うーんそうかー俺裸なのかーーーえ?何時から?」


「「扉をくぐった辺りから」」


 成程。カッコつけて手向けの言葉とか言ってる時には既に裸だったのか……


「もうヤダ泣きたい……俺が何したってんだよォ!……裸をフツーに女の子(愛する武器たち)に見られるとか!?」


「あ、愛する何てっ!う、嬉しいです!」


「あ、愛するですかぁ?!ふへへへへ嬉しい嬉しいですぅ!」


 再び むにゅん という感触が腕に当たり、後ろから抱きしめられる感触がした


「ど、どうかなっ!アタシ胸は無いけど……こうやって抱きつけばッ!」


「胸無しは大人しく遠くで見てるといいです!」


 うん、嬉しいんだけどね。少なくとも今この場面を誰か他の人に見られたら俺の人生が終わる。

 裸の成人男性に抱きつく女の子2人。うーん事案だなぁこれ


「…ン?何か地響きしない?ねぇ……なんかこっちに来てる気がするんですが?」


「敵意は無いですが、一応武装しておきましょう……はい」


「そうですぅ、装備は万全にぃですぅ!……はい」


 え?2人ともなんですか?

 困惑する俺に2人は手をさし伸ばす。そして


「「ではどっちを??」」


 纏う?え?なんの事?


 訳が分からないけど、とりあえず近かった方の手をとる


「私ですかぁ?!ふへへへへ嬉しいですぅ……では!こう言ってください……『纏うは黒、純黒の剣……始まりへと至りし剣の名は……アーテル・エルゼローツ』!!と!」


「う、うん……わ、わかったから近い近い!」


 俺は言われた言葉を同じように言おうとする


「……待ってなんて言った?ごめんもう一度……」


「ふふ……いいのですぅ……では『纏うは最愛の剣、常世全ての剣の始まり……即ちアーテル・エルゼローツ』!!と言ってくださいぃ」


 待って?なんか詠唱変わってない?ねえ?


「コラ!ったく、グリム様……『アーテル』と呼ぶだけで良いんですよ?」


 俺はとりあえず、その言葉を信じて叫ぶ


「こい!『アーテル』!!」


「ちっ、アルバスぅ……後で覚えてやがれ……はぁんグリム様!!」


 俺の背筋をぞくりとするものが伝う。

 なんだろう、特に害意は無いはずなのに妙に心が悲鳴をあげている


 そうこうしている間に、俺の肉体に次々と黒色の光が集まり……それに合わせてアーテルの見た目が塵になる


 そして俺の体にずっしりとした重さが合わさり……そして片手には紛れもなく俺の愛する剣である『アーテル』が握られていた



















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