四十一話 わしゃわしゃ

 それよりも手を繋いでいるからか、完全に周りからチラチラ見られている。肝心のこいつは、欠伸をして全く無関心だった。


 なんか俺も気にする必要ないような、気がしたから開き直ることにした。順番が来たから、俺たちは乗り込む。


 隣に座った秋也を見ると、変な汗をかいていた。やっぱ、怖いのだろうか……無理させずに、止めておけば良かっただろうか。


 そう思ったが動き出したから、降りることは出来ない。俺は無言でより一層、強く手を繋いだ。


「空雅」


「いいから、ちゃんと見ろよ」


「ああ」


 俺が手を繋いだことで少し、マシな感じになっていた。俺はジェットコースターよりも、秋也の顔を見つめる。


 気がつくと、もう一周したのかと思うぐらいに楽勝だった。まあ隣にいる秋也は、完全に顔色が良くなかったが。


「ほら、階段。気をつけろ」


「ヤバい……気持ち悪い」


 そこまでなのかよ……と思いつつ、俺は肩を貸してゆっくりと降りていく。無理させてしまった罪悪感と、弱っている様子が可愛くて仕方なかった。


 階段を降りて近くのベンチに座らせて、水を買ってきて飲ませる。しばらくすると、落ち着いてきたようで顔色が良くなってきた。


「悪かったな……そんなに、苦手だって知らなくて」


「いいんだよ……空雅に、楽しんでもらうことが目的なんだから」


「そうじゃないだろ……秋也が楽しまないと、俺も楽しくない」


 俺がそう言ってそっぽを向くと、秋也に頭をわしゃわしゃされた。俺は人目もあって恥ずかしくなって、手を退けて怒った振りをする。


「俺は犬か! わしゃわしゃすんな!」


「マジで……空雅は、最高だよ」


 そう言う秋也は俺を見て笑っているようで、俺のことを見ないでいるように見えた。それが、何だが寂しく思えた。


 そのため俺は秋也の肩に、自分の頭を乗せる。微かに聞こえる吐息と、暖かさが心地よく感じてしまう。


 外が暗くなってきていて、街頭がつき始める。四月とはいえ、まだ夜は肌寒くて両腕を擦る。


「空雅、寒くないか」


「少し……」


「ここじゃ何だから、観覧車に乗ろう」


「分かった」


 秋也に手を引かれて、俺たちは観覧車へと向かう。その道中は俺たちは、会話がなかった。


 それでも繋いでいる手から、確かに伝わってくる体温が心地よく。不安を、感じさせないようにしてくれていた。


「ほら、乗るぞ」


「おう……」


 俺の手を引いて観覧車に乗ると、周りから変な目で見られた。しかも若干、笑い声が聞こえた。


 俺は恥ずかしくなって、急いで乗り始める。すると秋也はクスッと笑って、何も言わずに俺の隣に座る。


 静かに動き始めて俺が寒いなと、思っていると秋也は抱きついてくる。恥ずかしいが、誰も見てないしいいかと思う。


「流石にまだ、寒いから。ひっつく」


「まあ、秋也が寒いなら」


「ふっ……ありがと」


 あーでも、暖かくて気持ちいい。俺たちは、身を寄せあったままで外の景色を見る。こんな風に見ると、綺麗な景色が見えて幻想的に見える。


 それよりも隣にいるこいつが、いつもと違って何かを考えているように見える。景色よりもそっちの方が、気になってしまった。


 でもこんな時にどうすればいいのか、俺には分からない。でもいつも、俺の不安を消してくれるから俺も役に立ちたい。


「何かあったのか」


「んー、何て言えばいいのか分からない」


「俺に出来ることは」


「隣にいて」


 そんなことでいいのかよ……確かに、隣にいてくれるだけで満たされるもんな。俺はこいつとは違って、相談に乗るのは出来ない。


 悲観しているわけじゃないが、やっぱ埋められない経験値の差だ。俺が分からないことを、平然とやっている。


 そんなところがカッコよくもあり、埋められない差を感じさせる。それでも、俺に出来ることは何だってやってやる。


「秋也」


「うん、何だ?」


 俺は自分の覚悟が無くなる前に、秋也の口に自分の口を重ねた。驚いているようだったが、直ぐに笑って抱きしめてくれた。


 それが嬉しくて頭を撫でると、更に嬉しそうにしていた。俺が逆に元気を貰って、幸せを貰っている。


「好きだよ……空雅」


「お……れもだ」


 人を好きになるって、大変だけど凄いなと思った。この人のためなら頑張れるって、本気で思えるようになった。


 家族以外でこんな感情を持つことなんて、自分にあるなんて思いもしなかった。俺はこの人が本気で好きなんだ。


 それから何度も、角度を変えてキスをした。下に着くまで何も言わないで、抱きしめあった。


 暖かくて優しくて、それだけで心が満たされる。改めてこの人とこれからも、ずっと一緒にいたいなと思った。


 観覧車から降りた頃には、既に真っ暗になっていた。俺たちは手を繋いで、車と向かっていた。


「遊園地って、久々だったよ。幼稚園の時以来」


「秋也も、幼稚園児だったのか」


「当たり前だろ。可愛かったんだぞ」


 そう言って笑っているのを見て、小さい時の秋也か……超絶可愛かったんだろうな。そう思ったら、見てみたくなった。


 早いもので三年生になったから、後一年もしないうちに卒業か……。そしたら今まで通りって、いかないだろうな。


 今は学校で無条件に会えるが、卒業したらそうはいかない。かといって、卒業しないわけにもいかない。


 そう思っているうちに、気がつくと車に乗せられていた。シートベルトも既に、されていて車が発進する。


「空雅、何かあったのか」


「何で……分かるんだよ」


「好きな子のことは、何でも分かる」


 何で……そんなに真っ直ぐに見れるんだよ。はあ……やっぱ、これからもこうしていたいんだよな。


 どうにかして、一緒にいることは出来ないだろうか。俺がそう思っていると、俺が欲しい言葉をくれる。


「来年、同棲するか」


「えっ? 同棲?」


「ああ、まあそんなに簡単にはいかないと思うが」


 同棲って一緒に、住むってことだよな……嬉し過ぎて、直ぐに言葉が出てこない。俺は深く息を吸って、思ったままに口にする。


「したいっ! 同棲……一緒にいたい」


「素直だな」


「悪いかよ」


「嬉しいよ……そんな風に、直ぐに決めてくれると思わなかったから」


 もしかして、今日何か考えていたのって……俺の返事を聞くまで、不安を感じていたってことなのか。


 そんなの、了承しない理由なんてあるわけないだろ。一秒でも多く一緒にいたくて、堪らないんだから。


 恥ずかしくて、そんなこと言えないが……気がつくと、どこかの見晴らしのいい場所に車が停まった。


「秋也、ここは?」


「真っ直ぐに見て」


「うわああ……綺麗だ」


 目の前を見ると、綺麗なネオンの灯りが見えてきた。夜景に溶け込んでいくようで、一瞬で目を奪われてしまう。


 俺が必死に見つめていると、急に秋也に抱きつかれた。嬉しそうにしているこいつを見て、それだけで心が満たされていく。


「もう一度言うな。俺と一緒に、住んで欲しい」


「おう、もちろんだ」


 俺がそう言うと、顎をクイっとされた。余裕のない表情を浮かべた秋也が、可愛くて俺は何でも許したくなってしまう。


 触れるだけのキスから始まって、舌を入れるやつもし始める。どうすればいいのか、分からなくて身を任せる。


 頭と腰を支えられて、無我夢中で腕を掴む。何度しても慣れなくて、体がふわっとしてしまう。


 恥ずかしいけど、心が満たされるような感覚がする。すると、ふっと笑って離れて行ってしまう。


 少し物足りないが、お腹空いてきたし……秋也もなのかな? と思って、大人しくしていると声をかけられる。


「これから、どうする」


「お腹、空いた」


 俺がそう言うと秋也は、何やら考えていた。俺が不思議そうに見つめていると、俺の目を見て微笑んでいた。


「そういえば、小腹が空いたな。今日は、俺が作ろうか」


「カップラーメンは、嫌だぞ」


「流石にそれはないだろ!」


 俺の冗談に、とても嬉しそうな表情を浮かべていた。やっぱ、こいつといるとそれだけで満たされてしまう。


 同棲か……楽しみで俺は思わず、ニヤけてしまう。秋也の顔を見てみると、嬉しそうに微笑んでいた。


 その表情で俺と同じなのだと、言葉なんて必要なかった。俺たちは今一度、抱きあってキスをした。


 今までで最高の誕生日で、これから先もこれ以上の幸せはない。そう思うが、きっとこれからも幸せを更新し続けるんだろうな。


 根拠はないし確証もないが、それでもこいつのこの笑顔を見ると信じることが出来た。

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