三十五話 独占欲

 ネックレスをあげた意味は、あなたは私だけのものと言う意味がある。重たいから言わないことにする。


 付き合う前からそんなこと考えていたなんて、ヤバすぎるだろうから。優しくて男前なこいつは、受け入れてくれそうだが……。


 それにキス以上とか、今は絶対にやめておいた方がいい。歯止めが効かなくて、無理させてしまいそうだし。


 それに、絶対知識なさそうだし。無知すぎて、なんでも受け入れてくれそうだから。俺だけが良くても、意味がないから。


「あー、それと付き合うにしてもだ。お前が卒業するまではエロいことは、しないからな」


「はあ? キスはしてんじゃないかよ」


「キスはノーカンだろ……それに、キスはエロいことじゃない」


 自分でもよくないと思うが、そういうことにしておこう。キスを我慢するのは、流石に無理だから。


 だって、卒業までってことは一年以上あるし。そこまで完全にお預けは、体に悪過ぎてヤバいと思った。


 これ以上は本格的に色々と、我慢の限界になりそうだった。クールダウンを兼ねて、海に行こうと誘った。


「一旦、海にでも行くか」


「ああ……」


 俺は車から降りて助手席を開けて、手を引いて車を降りた。歴代の彼女にも、ここまでやったことなかったし。


 考えてみたら車にも乗せたことなかったな。先生になってからは、忙しいのと出会いがなくていなかったし。


 そのまま海の方に向かって行くと、空雅はズボンの裾をまくり靴と靴下を脱ぎ捨てて海に入った。


 海の光と夕焼けが重なっていて、その光景があまりにも綺麗だった。俺だけに、向けてくれる澄み切ったその笑顔が眩しかった。


 この笑顔を守りたいと思った。それと同時に、これからも俺だけに見せてくれればいいと思った。


「空雅、冷たいか?」


「ああ、でもいいな」


「そうだな……綺麗だ」


 ほんとこいつは、俺にとって全てなのかもしれない。重た過ぎて引かれるかもしれないから、まだ伝えないでおこう。


 空雅と付き合ってから、早いもので約一ヶ月が過ぎようとしていた。かといって何かが劇的に変わるはずもない。


 付き合う前から完全に、距離感バグっていた自覚はあった。それでも空雅がすんなり受け入れてくれて、何でもやってくれるから調子に乗っていた。


 今日は特に調子に乗っていい日である。俺の誕生日でハロウィンのため、コスプレをしようと思う。


「空雅には、女装だな」


 そう思って準備を進めていたから、今日という日をどれほど待っていたことか。鼻歌まじりで空雅のことを見つめる。


 料理をしている姿を見ると、まるで新婚みたいだなと思う。しかも肉じゃがだし、俺が苦手なにんじんを抜いてくれているし。


 この黄色いエプロンが少し、エロさを引き立たせてくれていた。思わず、思ってることが口に出てしまう。


「つーか、その格好。エロいな」


「……馬鹿言ってんじゃねーよ」


 空雅が作っている姿を見ると、抱きしめたくなってくる。そのため、俺はソファに座っていたが、このところ忙しかったから気がつくと寝ていた。


 頬を触られていたようで、半目を開けて見てみる。すると空雅が俺にキスしようとしていて、俺は嬉しくて待っていた。


 しかし止めてしまったようで、離れようとした。俺は腕を掴んでソファに押し倒した。もう、マジで可愛いんですが。


「おまっ! 起きて」


「あんな、可愛いことしてくれようとしてたから。黙ってたんだけど、止めちゃうの?」


「だって、恥ずい……」


「俺誕生日なのに」


 意地悪をしてみたが、顔が真っ赤になっていて可愛かった。流石に無理かなと思って離れようとしたら、胸ぐらを掴まれて引き寄せられてキスをされた。


 下手くそで、歯が当たってしまって痛かった。ドヤ顔をしているこいつが、無性に可愛くてムラッとしてしまった。


 こいつ、マジでヤバいんですが。俺の我慢にも限界があるからな、ニヤニヤ顔で耳元で囁いた。


「煽ったのは、空雅だかんな」


「ちょっ! まっ!」


 もう一度押し倒して、軽く触れるだけのキスをした。足りなさそうな顔をしていたから、舌を入れてみる。


 無我夢中でやってしまったから、腕を掴まれた。そこで我に返ってソファに、ちゃんと座らて頭を撫でる。


「この辺で止めておこう。ほら、危ないから座って」


「うん……」


 俺の言うことを素直に聞いてくれて、たまに凄く不安になってくる。いつも口が悪いこいつが、素直になるのは可愛い。


 俺に対してだけならいいが、他の奴の言うことを信じられて困る。自分に、こんな感情が芽生えるなんて昔の俺なら信じないだろうな。


 とにかく、クールダウンしないとな……そう思って、トイレに行ってしばしの嫌悪タイムに入る。


「ったく、何してんだよ。こんなんじゃ、一年とか待てないだろ」


 やっぱ人は簡単に欲が出てきてしまう。望みが叶えば、もっともっとって欲してしまう。


 数分経って落ち着いてきたから、リビングに行くとソファで何やら考え込んでいた。そのため、ご飯の準備をする。


 まあ、作ったものを温めるだけだけど。それでも空雅の作ったものだから、大事にしないとな。


「ほら、食べるぞ」


「おう……」


 いつもの調子でテレビをつけて、肉じゃがを食べる。しかしいつもと違って、俺たちに会話がなかった。


 何やら食べていても、完全に違うことを考えていたから頭を撫でてみた。いつもなら、顔を真っ赤にするのに。


 今回は暗い顔をしていて、どうしたのか分からなかった。とりあえず、食べないと体に悪いからな。


「どうした? 全然、食べてないな」


「……別に」


 可愛いな……何かを必死に考えていて、でも悪い方向に進んでいるようだった。こんな時は、優しく頬笑みを浮かべて包みこむ。


「何に悩んでいるか、分からないが。一人で考えすぎんなよ。教師の前に、恋人なんだから」


「……そーゆーとこが、ムカつく」


「なんで!」


 えー、なんで? ムカつかれたのか分からないが、その後の表情がいつもの調子に戻ったようだった。


 すると急いで食べたようで、むせていたから俺は慌てて水を口元に運ぶ。ほんと、可愛い恋人が出来てよかった。


「ゴホッ!」


「慌てずに食べろよ。ほら、水」


「……あんがと」


「どういたしまして」


 それから何とか、言いくるめ……誠心誠意お願いをして、コズプレをしてもらえることになった。


 俺が着替え終わってもまだ、終わってないようだった。そのため、半分冗談で声をかけたら思った通りの返事が返ってきた。


「おーい、まだかかりそうか」


「もうちょい」


「手伝おうか」


「間に合ってる!」


 ソファに座って、テレビを見ていると後ろから視線を感じた。見てみると、しっかりと着てくれていて控えめに言って天使だった。


 空雅の白い肌に紫が完全に映えていて、ストッキングが更に妖艶な雰囲気を纏っていた。俺の見立てに間違いがなくて、ミニスカが似合っていた。


 俺はつい勢いで、腕を掴んで引き寄せた。その勢いで抱きしめてしまい、上目遣いをされる形になった。


 あー、ダメ……可愛すぎて直視できない。俺は急に上を見上げて黙ると、何故か俺の胸に耳を当てられた。


 マジで勘弁してくれ、心臓の鼓動が自分でも早いのが分かった。この無自覚どうにかしないと、身が持たないような気がする。


「秋也? どうしたんだ」


「ちょっと、今……話しかけないで」


 それからキスをしたら、また我慢が出来なくなった。それから何とか、言いくるめ……本気で頼み込んで、写真を撮ることを了承してくれた。


 まだ一緒にいたくて、出かけることを提案する。快く了承してくれたから、着替えることにする。


 俺が準備していた女物の下着を、着たのが気になった。スカートを捲ろうとしたら、手を払いのけられた。


「何、考えてんだよ! この変態教師!」


「こんなスカート履いている奴に、変態呼ばわりされたくないな」


「うっ……お前が着ろって、言ったんだろうが」


「言ったけど……最終的に着たのは、空雅の意思じゃん」


「うっ……確かに、そうなんだけど!」


 ヒールがキツくて脱がせたら、左足に靴擦れが起きていた。そのため、着替えに行こうとする空雅の腕を掴んだ。


 やっぱ、先に治療すべきだよな。そう思って俺は玄関脇に置いてある救急箱を取りに行く。


 空雅の腕を掴んでソファに連れて行って座らせた。


「ストッキング、脱いで」


「……お前にそんな趣味があったとはな。流石に付き合いきれねーよ」


「そうじゃない! もう、靴擦れしてるから。薬塗るだけだ」


 顔を真っ赤にしてストッキングを、脱ごうとしている空雅を見つめる。すると何故か更に顔を真っ赤にして、怒ってきたが可愛い。


「あっち、向けよ!」


「いいじゃん、減るもんじゃないし」


「いいから、あっち向け」


「ちぇ……つまんない」


 俺は渋々後ろを向くと、ストッキングを脱いでいるようだった。あー、もしかして下着見えると思ったのか。

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