二十八話 プレゼント

 まあそれでも、本人だったことを知って俺は本気で嬉しくなった。俺がそう思っていると、秋也は何か急に逆ギレしてきた。


「つーか! お前は、勉強をしろよ! 赤点ギリギリだったのが、たくさんあったぞ!」


「テストのことは関係ないだろ!」


「あるね! 英語とか云々前に国語の勉強をしろ!」


 そんな感じで店の前で喧嘩していたら、通行人に見られていた。しかし俺たちは今、それどころじゃなかった。


 そんな時だった。視界の端っこに、陸と俊幸の姿を見つけた。このまま二人だと埒が開かないと思い、声をかけることした。


「あっ! おーい! 陸に、俊幸!」


 声をかけたら目があったのに、完全に無視して行こうとした。俺はなんで無視したのか分からずに、もう一度大きな声で叫んだ。


「おーい! って、無視すんな! 聞こえてんだろ!」


「うるせー! 邪魔すんな!」


「なんだよ! 見つけたから、声かけただけだろうが!」


「陸との時間を邪魔すんな!」


 確かに気持ちは分かるが、友達に話しかけただけじゃん。なんでこいつは、こんなに心が狭いんだよ。


 まあ俺が悪いのかもしれないが、そんな邪険にする必要もないだろ。俺たちが喧嘩している横で、秋也はオドオドしていた。


 そんな時に、いつものように怖い顔をした陸に怒られてしまった。可愛い顔をしているから、より一層怖いんだよな。


「いい加減にしろ」


「……はい」


「……すみませんでした」


 それから色んなことを話していると、俊幸がいきなり驚きのことを言い出した。待て何故、気がついているんだよ!


 俺は秋也が余計なことを、言ったのだと思って睨むと目を逸らした。やっぱり、余計なことを言ったんだな。


「どうでもいいけど、やっと付き合い始めたんすね」


「……ああ、まあな」


「俊幸っ! おまっ! 気づいて!」


「普通気づくだろ」


 くそっ……俊幸は別にどうでもいいが、陸には気づかれたくなかった。だから俺は急に恥ずかしくなって、陸の目を見て話すことにした。


「陸も気がついていると思うが、俺は秋也とつ……付き合い始めたんだ」


「空雅……もうっ、お前って奴は」


 陸も既に気がついていると思ったから、俺はしっかりと口にすることにした。やっぱ、口にすると重みが増していくような気がした。


 すると嬉しそうに微笑みながら、俺に抱きつく秋也を見てただただ困惑している様子だった。


「えっ! 付き合ってるの! 全然、気が付かなかった」


「――――陸って、本当に腹立つほど俊幸のことしか見てないよな」


「いやあ」


「顔を赤らめている陸もだが、照れる俊幸にもイラつくな」


 気がついてなかったのかよ……。なら言う必要なかったじゃないかよ。でもな、いずれは言う時が来ていたかもしれないからな。


 それでも恥ずかしくなってしまって、自分でも顔が真っ赤になっていくのを感じた。色んなことを話したが、恥ずかしすぎてちゃんと耳に入ってこなかった。


 でも勝手にバイトすることが決められていたのは、ちょっとイラっとしてしまった。まあ、それでも認められたと言うことで嬉しくなってしまった。


 それから二人と別れて、俺たちは二人で店の前でケーキの販売をしていた。少し恥ずかしかったが、サンタクロースの格好をしていた。


「あっ! サンタさん! バイバイ!」


「バイバイ」


 幼稚園ぐらいの男の子が、俺たちに手を振ってくれた。俺たちも手を振って、喜んでくれる。


 因みに秋也は白髭をつけていて、よりおっさん化しているように見えた。ケーキも順調に売れていて、思っているよりも早く終わりそうだった。


「でもな、残念だよな」


「何が? ケーキは売れてんじゃん」


「ミニスカサンタ見たかったのに」


「……残念なのは、お前の頭だ」


 まじで顔がいいぶん、残念度合いが増しているよな。それはそれとして、こいつのことは後でとっちめる必要がありそうだ。


 俺がそう思って、微笑みながら見つめた。するとバツが悪そうに静かに、明後日の方向を見た。


 こいつ、何かやましいことがあると認識してるな。そんな感じでケーキ販売に目処がつくと、お母さんに声をかけられた。


「今日はもう、いい感じだから。折角なら、デートにでも行けば」


「なっ……デート」


「そうするか。着替えようぜ」


 急激に恥ずかしくなっていると、手を引かれて歩き出した。あんなにはっきり言われると、恥ずかしすぎて目を見れなかった。


 更衣室に行くのかと思ったが、何故か自分の部屋に連れていく。俺は疑問に思っていたが、いつの間にか俺の着替えと荷物が持ってきてあった。


 部屋に着くなりいきなり抱きついてきた。俺はよく分からなかったが、とりあえず抱きしめ返してみる。


「秋也、あのさ」


「やっと、抱きしめられる。その悪かったな、昔のこと誤魔化して」


「なんで、誤魔化したんだ。俺と会っていたこと、なかったことにしたかったのか」


「それは違う。断じて違う」


 秋也の目がいつもよりも、真剣そのものだった。こいつはこいつなりに、何かを考えていたのかもしれない。


 子供の俺には分からない何かを、ずっと抱えていたのかもしれない。それでもこれは、二人の問題だろ。


 悲しかったのは隠されていたからじゃなくて、俺じゃ頼りにならないからかも……って思ってしまったからだ。


 自分でも分かってる。まだ俺は子供で、こいつは俺には分からないものをたくさん見てきている。


 そんなの簡単に、埋められるものじゃないことも……。それでもこれから先、一緒にいたいって思うから。


「別に信じていないわけじゃない」


「空雅……」


「でも少しは、頼ってほしい」


「分かった……そうだよな」


 俺たちはお互いの目を見て、微笑み合った。そして当たり前のように、気がつくとキスをしていた。


 そんな感じのしんみりもこいつは、そんなに長続きさせてはくれない。ほんと大人なのか、子供なのか分からない奴だ。


「じゃあ、頼るわ。着替えさせて」


「それは自分でやれ」


「ちぇ……」


 ほんとこいつは……まじで、可笑しな奴だ。それでも、首元に光り輝いているネックレスを見て嬉しくなってしまう自分も大概だなと思った。


 着替えている時に、俺はとあることに気がついてしまう。クリスマスのプレゼント、何も買ってない。


 そうしよう、何も考えてなかった。俺がそう思って上半身裸のままで考えていると、急に後ろから抱きしめられた。


「どうしたんだ。もしかして、誘ってる?」


「なっ! 何言ってんだよ! ただ俺は……その、プレゼント何も準備してないなって思って……」


「あー、別にいいよ。俺は空雅がいてくれさえすれば」


 そんなことを優しい声色で言われるものだから、ほんとにそれでいいのかと思ってしまう。


 ダメだ……寒いはずなのに、抱きしめられているから。それだけじゃなくて、いつもよりもダイレクトに熱が伝わってくるから。


 変な感じになってしまっていると、急に顎を触られた。そしてそのまま、後ろを向かされて優しく触れるだけのキスをした。


「秋也……」


「その格好じゃ、寒いだろ」


「別に……」


「いいから、服着ろよ。ほら、これでいいか」


 そう言って俺にセーターを着させてきた。これって、秋也のだよな。間違いなくこいつの匂いがして、包まれているような感覚になった。


 すると今度は前から抱きしめられた。顎をクイっと上げられて、端正な顔がまた近づいてくる。


 俺が静かに目を閉じると、今度は舌を絡め始める。やっぱ慣れなくて、全身の力が抜けていく。


 腰を支えられて、完全に身を任せていた。遠くからネオンの灯りが一斉に、光り輝き出して窓の外を見つめていた。


「こんな時に違うこと、考えるなよ」


「違っ……その、外が光ったから」


「外? ああ、イルミネーションか」


 俺がそう言うと、秋也は嬉しそうに微笑みんでいた。俺の耳元で甘い声で、呟くもんだから耳から熱が籠ってしまう。


「ツリーの点灯と同時に、キスしたカップルは永遠に結ばれるんだよ」


「そうなのか……」


「ああ、タイミング良かったな」


 そう嬉しそうに言うものだから、俺は自分から抱きついた。今絶対俺、真っ赤になっているよな。


 そんな俺を優しく抱きしめてくれて、頭を撫でてくれる。そこからまた、熱がぶり返してくる。


 こいつと一緒にいると、ほんと調子が狂ってくる。今度は胸に顔を埋めて、幸せを噛みしめる。


 するとまた何やら顔を上に上げて、何かを考え込んでいた。自分は他のこと考えるなって言うくせに、こいつは違うこと考えるのかよ。


「秋也、違うこと考えんなよ」


「ちょっと、今無理」


 なんなんだよ……変な奴だな。まあでもいいや、今はこうしているだけで幸せだから。世界中の誰よりも、秋也を独占しているわけだからな。


 何かと戦っているような顔をしているこいつを、少し不思議に思っていた。しばらくすると、また俺の方を見て優しく微笑んでくれる。


 そしてまた優しく触れるだけのキスをして、俺たちのクリスマスは過ぎていく。それから車で外食に向かった。


 こんな幸せで満ちているクリスマスは、一生心に刻み込まれていくんだろうな。毎年、更新していきたいと思えた。

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