二十五話 新婚?
脱いだら急に寒くなってきたからな。それに、このままだとダイレクトにスカートの下が見えそうだし。
「もうそろそろ、いいか」
「ああ、いいぞ」
「……なんで俺の上着」
「寒かったから」
俺がそう言うと秋也はため息をついて、項垂れていたから変に思っていた。やっぱこいつって、たまにというか基本的に可笑しいよな。
俺がそう思っていると、無言で俺の左足を持ち上げた。俺は一瞬自体が飲み込めなかったが、我に返って大声で叫んだ。
「お、おいっ! 何してんだ!」
「何って、消毒するには持ち上げないと。それとも、後ろ向きでやるか?」
「それは無理……」
「じゃあ続けるな」
嬉しそうに俺の左足をソファの上に上げて、消毒をし始める。考えてみたら、この素足の状態ってストッキングよりも恥ずいんじゃないだろうか。
しかも消毒が少し痛くて変な声が出て、更に恥ずかしくなってしまう。早くしてくれよと思いながら、待っていると終わったみたいだった。
「じゃあ着替えてくるな」
「ああ……早く着替えて来い」
なんか秋也の様子が少し可笑しかったが、気にせずに脱衣所に向かう。衣装を脱いで下着も元に戻して、俺は変な開放感に包まれてしまった。
最初は恥ずかしかったが、まあ喜んでくれたようで良かった。誕生日ぐらいは、わがまま聞いてやるか。
「秋也―、着替えたか?」
「ああ、終わったぞ。ドライブに行くか」
「おう、行こうぜ」
秋也が車の鍵を持って回していたから、俺は黙ってついていくことに。いつものように助手席に乗り込もうとすると、いきなり後ろから抱きしめられた。
俺が訳も分からずに混乱していると、ご近所さんと話しているようだった。まあ高校生と一緒にいるとか、知られたくないよな。
頭では分かっていても、とても複雑な気分になるんだよな。俺がそう思っていると、離れて俺を乗せて運転席へと向かっていく。
「シートベルト、したのか」
「あ、ああ」
「してないじゃん。ほら、ちゃんとして」
甘い声でそう呟いてシートベルトを締めてくれて、満足そうに車を発信させる。どこかへ向かっているみたいだった。
その間は何も言わなくなってしまった。俺は言い表せないような不安に陥ってしまう。しばらく走行して、車がどこかに止まったようだった。
そんな時だった、不意に声をかけられた。俺は外を見るような気分にはなれなかったが、外の空気でも吸おうかと顔を上げた。
「窓の外、見てみろ」
「えっ? うわああ……綺麗だ」
窓の外を見てみると、ネオンの灯りなのか? よく分からないが、色とりどりの綺麗な灯りが見えた。
俺は興奮して何に悩んでいたのか、忘れてしまうぐらいに喜んでいた。すると、頭を撫でられて見てみると優しい笑みを浮かべていた。
正直その笑顔の方がネオンの灯りより、綺麗で思わず見惚れてしまう。しかし直ぐに我に変えって、目を逸らしてそっぽを向く。
なんで俺ってこんなに素直じゃないのだろうか……何回目か、分からない自問自答をしていると抱きしめられる。
「どうしたんだ? 元気ないな」
「どうも……ただ」
「ただ? いいから、言ってみ」
気がつくと、シートベルトを外されていた。甘い声から俺のことを、本気で心配してくれているのが分かった。
少しこそばゆいのと、嬉しさで恥ずかしくなってしまう。こいつは不思議なやつだよな……。
俺が怖い時や不安な時は、直ぐに気がついてくれるし……いつだって、俺の心の扉を開いてくれる。
ってなんだか、急に自分の思考が恥ずかしくなってしまった。大人なとこがカッコいいと思うが、それが歳の差を感じさせてくる。
「仕方ないって、分かってんだけどさ……」
「うん。ゆっくりでいいから、話してよ」
「俺が知らないお前がいるって思うと、胸が苦しくなるんだよ。歳の差もあるしさ、時々不安になってしまう」
俺がそこまで言うと、もう一度優しく抱きしめてくれて頭を撫でてくれた。それだけのことなのに、俺は嬉しくなってしまう。
秋也はいつもよりも弱々しい声で、自分の気持ちを伝えてくれた。弱いとこを見せてもらえるのは、単純に嬉しいと思う。
「俺だって、不安だから……こんなに好きになったの、空雅が初めてだから……いつだって、不安しかない」
「あき……や、俺」
「はあ……悪い……お前の前では、カッコ悪いとこ見せたくないのにな」
「カッコ悪くなんかない……」
いつだって秋也はカッコいいよ……。確かに変なこと言ったりするけど、いつだって俺のこと考えてくれてるし。
今だって俺に見せたくないのか、静かに泣いているし……。大人だって勝手に思ってたけど、大人だって不安になる時もあるよな。
俺が不安になっている時に、同じく不安になったりするんだろうな。そう思って優しく背中を摩ってやると、少し落ち着いたようだった。
しばらくしてから、秋也は起き上がった。そしていつもの調子で、聞いてきたから現金なやつだなと思った。
「遅くなるって親御さんには、伝えたのか?」
「ああ、秋也の家に行くって伝えたぞ」
「それで……なんて」
「五十嵐先生なら、大丈夫ね! って言ってた」
「……信用されているのは、嬉しいが……若干、罪悪感が……」
変なやつだなあと思いつつも、いつの日か本当のこと言えたらいいのになと思った。二人はどう思うのだろうか?
なんかあの両親なら、いつものように簡単に認めそうだな。俺のやることに反対したことないもんな。
考えて見たら俺って、なんでグレなかったんだろうな。金髪だったり、ピアスだったり、夜遊びしてたのは気にしないことにする。
それでも俺が寒くなってきて両腕を摩っていると、上着を何も言わずにかけてくれた。このスマートさが、俺の不安になる要因の一つなんだが……。
俺がそう思っていると、俺のお腹の音が車内に響き渡る。するとそれを聞いた秋也が、爆笑し始める。
こいつ……さっきまでの、しんみりは一体なんだったんだよ! まあでも、笑っていてくれる方が泣かれるよりいいけどな。
「折角だし、どこかに食べにいくか」
「いいな、どこでもいいぜ」
何がいいかな? 牛丼とかでもいいが、誕生日にそれは良くないか……。俺がそんなことを考えていると、何かを考えていた秋也が口を開いた。
「やっぱ、やめとこう」
「は? なんでだよ」
「なんでって……空雅の作ったのがいいに決まってんだろ」
「あっそ……何が食べたいんだよ」
そんなことを笑顔で言うものだから、了承するしかないだろう。秋也が何を食べたいのか、考えた後に口を開く。
「う〜ん、カレーがいい」
「誕生日なのに、そんなんでいいのかよ」
「空雅が作った物なら、なんでも美味いだろ」
「つっ……材料ないから、スーパーに寄って」
「了解」
そう言って微笑んでいるこいつを見て、まるで新婚みたいだなと思った。って、なんだよ! 恥ずかしすぎるだろ、この思考回路!
誰に対してのツッコみなのか、分からないが……。それからも何気ない時間が過ぎていき、一緒にいることが楽しかった。
気がつくと、帰らないといけない時間になってしまった。楽しいと時間は過ぎるのは、早いものだと思った。
秋也の手を握って元気いっぱいの笑顔を見せる。こんな何気ない時間が、続いてくれればいいのになと思った。
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