二十一話 大人になれよ
秋也と付き合ってから、早いもので数週間が経った。相変わらず、学校以外ではあまり会わない。
しかし不満でないが、付き合う前と付き合ってからの関係性が変わっていないように感じる。
「そうだ、日曜日。空いてるか」
「おうっ! 暇だ!」
「そうか、めっちゃ食い気味」
完全に遊びにでも行くのかと思っていた。それなのに、皇さんと三人で会って話すことになった。
秋也とご飯食べるのは嬉しいが、それならそうと先に言って欲しかった。期待してた自分が、馬鹿みたいじゃん。
そのため、個室のあるレストランに来た。それにしても、高そうな感じだな……奢ってくれるって言うから来たが、高校生が来ていい場所ではない。
「緊張してるのか?」
「し、してねーよ」
「右足と右手が、一緒に出てんぞ」
「嘘っ!」
「う、そ」
「このやろー!」
完全におちょくられていて、少しイラっとしてしまった。しかしわざとなのか、俺の緊張は解れていた。
そんな感じで話していたが、席に案内されて座った。すると、目の前に座っていた皇さんにため息をつかれて言われた。
「あのさ、どうでもいいけど。俺の前でいちゃつくなよ。見せつけか」
「あっ……えっと」
「そうだ! 見せつけだ!」
楽しそうにしている秋也を見て、俺はほんと大人気ないなと冷めた目で見ていた。それでも、なんか可愛いからいいかなとは思う。
すると突然、秋也に抱きしめられた。俺は何が何だが分からずに、ただただ混乱していた。俺は恥ずかしくなって、引き離したがニヤニヤしてて腹が立った。
そんな時だった。皇さんが急に立ち上がって、俺に頭を下げてきた。
「本当にすまなかった。傷つけるつもりはなかった」
「あっ……えっと」
「謝って済む問題じゃないだろ」
皇さんが誠心誠意謝罪してきてるっていうのに、こいつは少しは大人になれよ。俺はイラっとして、怒鳴ってやった。
「あのな! 人が本気で謝ってんだから、お前も本気で聞けよ! そんなんで、先生がよく務まってんな!」
「いや……でも」
「でもじゃねーよ! 話はちゃんと聞け!」
「……はい」
俺が怒ったことにより、完全にしゅんとして借りてきた猫みたいになっていた。その様子が可愛くて、つい甘やかしてしまう。
俺は秋也の頭を優しく撫でてやると、嬉しそうな表情を浮かべていた。それが可愛くてもっと、甘やかしたくなる。
しかしその時に、目の前から視線を感じた。恐る恐る見てみると、完全に生気を失った瞳で見てくる皇さんと目が合った。
「いや、いい加減爆発しろよ。このリア充が」
その発言に急に恥ずかしくなって、俺は不自然に距離をとった。秋也は少し不服そうにしていたが、俺は真剣に話を聞くことにした。
「新田くん、本当に済まなかった。謝って済む問題じゃないって分かってる。君がもう二度と秋也と、関わらないでほしいと言うならそうす」
「ダメですよ。その、上手く言えないっすけど……友達としてなら、いいっす」
「はあ……秋也が、君を選んだ理由がなんとなく分かった」
「そうだろ、俺の自慢の恋人だ」
そう言って満面の笑みを浮かべているこいつが、たまらなく可愛くてカッコよくて好きなのだと改めて実感する。
しかしそんな俺たちを、真顔でガン見してくる皇さんの顔を見れずにいた。すると皇さんは立ち上がって、荷物を持って帰ろうとした。
「莉緒、帰んのか」
「これから、稽古があんだよ。会計は済ませておいたから、適当に食べろよな。後、ありがとな」
そう言って個室を後にしようとして、ドアに手をかけた。そして直ぐに振り向いて、ニヤニヤ顔でこう告げてきた。
「後、盛んなよな」
「莉緒!」
「にしし、じゃあな」
「おうっ」
とびっきりの笑顔を向けて、今度こそドアを開けて帰っていった。なんかこの二人が友達なの、分かるような気がした。
それからコース料理が運ばれてきて、イタリアンの豪華な昼食をご馳走になった。流石、高いだけあって美味すぎる。
俺が口一杯に肉を頬張っていると、秋也に口元を舐められた。俺はいきなりのことで、驚いてしまった。
「おいっ! 何考えてんだ!」
「ソースついてたから」
「普通に言えよ!」
そこでノックされて店員さんが入ってきたから、それ以上は何も言えなかった。こいつのこの余裕そうな笑みに、かなりイラっとした。
それでも、俺の顔を見て嬉しそうに微笑んでいた。それを見て、嬉しくなってしまう自分も大概だと思った。
レストランでの帰り道でのこと。車に乗ってから、秋也は思い出したかのように呟く。
「俺が、空雅を好きな理由知りたくないか?」
「えっと……聞きたくないって言ったら嘘になる」
「素直じゃないな、まあそう言うとこが可愛いんだけど」
「かわっ……」
俺の目を見てそんなことを、馬鹿真面目に言ってきた。俺のどこが可愛いんだよ……目つきも口も悪いし……。
こいつの目可笑しいんじゃないだろうか……そう思っていると、俺の肩に頭を乗せてきた。
「空雅は可愛いよ」
「やっぱ、お前の目可笑しいよ」
「そんなことない。だって、いつも顔真っ赤じゃん。今だって、林檎みたい」
そんなことを耳元で言われたら、恥ずかしくて真っ赤にもなるだろう。俺はモジモジとしつつ、聞いてみることにした。
「なんで、俺のこと好きなんだよ」
「言葉も悪いし目つきも悪いからな。それでも、俺のこと真っ直ぐに見てくれているところが可愛いから」
「は、恥ずかしい奴」
嬉しそうに微笑んでくるこいつには、もう一生勝てないのかもしれない。こいつと一緒にいると、悲しいことも嫌なことも忘れることができる。
そんなに可愛いって言われると、もしかして本当にそうなのかもって思えてくる。実際どうなのかなんて、どうでもいいのかもしれない。
一番大事なのは、お互いが大事な存在であること。俺はそう思って、より一層身を寄せあった。
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