十八話 気付きたくない
俺は緊張感が漂う中、引き金を引く。見事命中して箱は落下すると、遠巻きに見ていた連中に拍手された。
「すごっ……」
「あの景品、中々落ちなくて。難攻不落と呼ばれているのに、名人か」
そんな会話が聞こえてきて、俺は胸を張って喜ぶ。これであいつの喜ぶ顔が見れると思って、見てみると何やら顔を真っ赤にして両手で顔を覆っていた。
変な奴だな? と思っていると、店番をしていた先輩に箱を渡された。少し気まずそうにしていたが、俺はニコッと笑って箱を渡された。
そういえばこの箱って、何入ってんだ? 俺がそう思って、包装紙を破こうとすると大声を出した五十嵐に奪われた。
「ちょっ! ここで開けんな!」
「はあ? 俺が落としたんだから、見る権利あるだろ!」
「うぐっ……ど正論を……とにかく、ここではダメだ」
よく分からないが周りから、変な目で見られた。俺は五十嵐に手を引っ張られて、四階の方に連れて行かれた。
そこにはここより先には、立ち入り禁止の看板とテープが貼られてあった。
いいのかよ……と思ったが、繋がれた手から伝わってくる体温を手放すことができなかった。
「それで、こんなとこに連れてきてどうしたんだよ」
「聞いておくが、この箱の中身知ってるか」
「知らね。包装してあるし、分からねー。ああでも、お前が欲しがっていたし取ろうかと」
俺がそう言うと嬉しそうに「そうか……」と呟いて、俺の肩に頭を乗せてきた。変な奴だな……。
いつものことか……と思っていると、五十嵐は箱の包装紙を綺麗に剥がし始めた。俺は気になって、まじまじと見つめていた。
何をそんなに必死になって取ろうとしたのかが、気になっていたからだ。細長い箱からは、綺麗な黄色と紫の同じデザインのネックレスだった。
「綺麗だな」
「着けてくれるか」
「えっ? くれるのか?」
「笑うなよ……お揃いで欲しくて」
俺はそう言って頭をポリポリ掻いているのを見て、嬉しくなってしまってつい笑ってしまった。
「笑うなよ……」
「悪い……えっと、嬉しくて」
「そうか……後ろ向いて、着けるから」
素直に後ろを向くと俺の首に、黄色のネックレスをつけた。次は俺に紫のネックレスを渡してきたから、俺はしゃがませて首につけてやることにした。
なんかよく分からないが、緊張してきた。手に変な汗かいてきて、再び深呼吸をして首に着けた。
すると急に腕を引っ張られて、顔が近くなった。触られた箇所から、再び熱が籠ってきて更に熱く熱を持ち始める。
「いが……」
「大事にしてくれよ」
「ああ、もちろんだ」
俺が二つ返事でそう返すと、本当に嬉しそうに微笑んでいた。つられて自然と笑顔になって、俺は満ち足りた気分になった。
早いもので二日目になった。俺たちのクラスは出番が早かったからバタバタしていた。クラスの奴らは、五十嵐の女装を笑っていた。
でも俺は可愛いと思ってしまって、そんなこと本人に言えるはずもなく……。仕方なく、他の奴らに合わせて笑ってしまった。
「新田、まあ本番楽しみにしといてな」
「ああ……」
そう言って俺の頭を撫でてくるこいつが、いつも以上にカッコよく見えてしまう。そんな自分は物凄く重症なのだと気付かされる。
そこで皇さんと陸の兄貴の悟さんが、楽しそうに談笑してやってきた。それに気がついた五十嵐が、話をしに行って見るのが辛くなって俺は教室を後にした。
「はあ……」
俺は何度目か分からないため息をついて、俺は屋上へと続く階段のところで座っていた。ただ話しているだけなのに、辛くなってしまう。
付き合っているわけでもないし、あれから好きとは言われない。まあ、ことあるごとにキスしてくるし……。
自惚れかもしれないけど、好かれている自信がある。それでも、陸の兄貴や他の奴らは平気なのに……。
何故か皇さんと話していると、心がざわついてくる。分かっているこれは、ヤキモチなんて可愛いものじゃない。
――――これは間違いなく嫉妬だ。
羨ましいんだ……。俺のことは二人っきりの時は、下の名前に呼ぶ。しかし他に誰かいると、苗字で呼んでくる。
俺だって、下の名前で呼んでもらいたい。同級生だったら、違うのだろうか? そんな叶わない望みを心の中で何度も何度も思ってしまう。
首につけているネックレスに触って、あいつの顔を思い出す。それでも心のざわつきは、消えてくれない。
「君だよね。新田くんって」
「えっ?」
「あー、えっと。秋也に言われて、探しにきたんだけど」
声をかけてきたのは、よりにもよって皇さんだった。来てくれたのが、あいつだったらなんて思ってしまった。
「五十嵐は、どうしたんすか」
「これから本番だろ? あの格好で、うろつかせるわけには行かなくて」
「……そっすか」
そこで微妙な空気が流れてしまうが、皇さんが意を決したようで聞いてきた。
「そのネックレス、秋也がくれたのか」
「ああ、これは……あいつが、欲しがっていたから俺が落とした」
「……そのネックレスの意味知ってるか」
少し怒りつつ泣きそうな顔をして聞いてきたから、俺は素直に首を横に振る。すると、怒気が含まれた声でこう言われた。
「俺の方が先に、秋也のこと好きだったのに。なんで、よりによって男で生徒のお前なんだよ!」
その発言を聞いた俺は、頭の中がぐしゃぐしゃになってしまった。その後何か言ってきたが、俺はその場を急いで後にした。
一人で考えていても良くないと思って、とりあえず涙を拭った。そして劇をやっている講堂へと行くと、丁度王子と白雪姫のキスシーンだった。
陸は勢いで俊幸の頭を思いっきり叩いて、怒っていたが全くと言っていいほど反省してなかった。
「いい加減にしろ!」
「えー、いいじゃん」
「よくない! 場所を弁えろ!」
それだけなら良かったが、観客は引くどころが笑って歓声を上げていた。
その光景を見て、同級生だろうが例え先生と生徒じゃなかったとしても無理なのかもしれないと思った。
俺はこれ以上ここにいたくなくて、思わず学校を飛び出してしまう。
しかし行く当てなんかあるはずもなく、校舎裏の隅っこの方で座り込んで声を押し殺して泣いてしまった。
分かっていたじゃないか……好きだと言われても、付き合って欲しいって言われたわけじゃない。
ましてや、告白をなかったことにされそうになった。あの時は、何も考えずになかったことにしたくないと思った。
「今、思えば……なかったことにした方が良かったのかな」
「何を?」
「いがら……」
「はあ……やっぱ、泣いてたか。大丈夫か」
そう言って抱きしめて肩で息をしている五十嵐を見て、少し心が軽くなっていくのを感じた。
汗かいてるし……若干、口紅ついてるし。本気で心配してくれているのがわかった。それでも、この感情を知られたくなくて目を逸らしてしまう。
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