第三章 自分の想い

十二話 最低

 体育祭当日になったが、相変わらずで俊幸は陸にベッタリだった。まあ、俺はその認めたくないが五十嵐のことが好きらしい。


 部屋は汚いし、どこか子供っぽいし……それでも、あいつのためなら何でもしてあげたいと思ってしまう。


 そんな時だった。いつもの通りにイチャイチャな二人だったが、借り物競走の時から陸の様子がおかしかった。


「好きな人が、大好きな友達でも良いだろ」


 確かに俊幸は陸のために、考えた結果なんだろうが……こいつら、まだ付き合ってるのバレてないって思っているのが不思議だ。


 それはそれとしてだ……。五十嵐に告白とかしたほうがいいのだろうか。でもな……好きだって言っていたが、恋愛としての意味なのかが分からない。


 だって俺、彼女とかいたこともないし……それに好きとかって、思ったのもあいつが初めてだし……。


 あーもう、俺の思考回路どうなってんだよ! 乙女なのかよ! 自分で自分自身が、気持ちが悪いと思うだろ!


 俺がそう思って校庭の端っこの方で、項垂れていると急に頭をぐしゃぐしゃにか君だ出された。この手の感触は、あいつだろ。


「どうした? 具合悪いのか」


「大丈夫だ。今、ちょっと一人にしてくれ」


「そうか、何かあったら言えよ」


 優しい声色でそう言って、五十嵐はどこかへ行ってしまう。つーかいつものスーツもいいが、運動着もカッコよく見えた。


 自分でも驚くくらいに、重症らしい。しかも、完全に変に頭に変な熱が集中されたから困ってしまう。


 それ以外のプログラムは、順調に進んでいった。それとずっと遼馬が、こっちを見て目が合えば直ぐに逸らしていた。


 そしてそんな遼馬を朝陽は、凄く辛そうに見ていた。俺は何が何だが、分からずにただただ困惑していた。


「……変な奴ら」


 そんな時に陸が何も言わずに何処かへ行ってしまって、その後を俊幸が血相変えて探しにいった。


 俺も気になって追いかけようとしたが、少し悲しそうな表情を浮かべた遼馬に止められた。


「何してんだ。リレーがあるだろ」


「……だけど」


「今日、体育祭が終わったら話がある」


「ああ、今じゃダメか」


 俺がそう聞くと無言で首を横に振って、直ぐに自分のクラスの方に行ってしまった。なんか、変な奴だなと思った。


 しかしとりあえず、リレーが始まるから俺は自分のクラスのアンカーのためスタート位置へと向かう。


「新田!」


「おうっ!」


 三番目の位置だったが、俺は一生懸命に走った。走っている時に考えていたのは、声援を送ってくれているクラスメイトじゃなく。


 いなくなってしまった陸と俊幸のバカップルのことでもなく、話があると言っていた遼馬のことでもなかった。


 ただ一人、俺を優しい瞳で見つめてくれているあいつのことだけだった。結果は残念なことに、二位だったがそれでも走ったことで少しスッキリしたような気がした。


 やっぱ汗を流すと、色々とごちゃごちゃ考えていたことがバカみたいに思えてくる。それでもどこか、あいつのことしか浮かんでこない。


「くう」


「新田、惜しかったな」


「五十嵐、まあな……どうした? 遼馬?」


「何でもない……」


 いつもの通りに褒めながら頭を撫でてくる五十嵐に、俺は素直になれずに憎まれ口を叩いてしまった。


 一番に気になってしまったのが……その様子を変な目で見て何かを言おうとしてやめて、どこかへ行ってしまった遼馬だった。


 俺はその様子が気になったが、そろそろ閉会式が始まるから二人を探しに行く。どこに行ったのか分からなかったが、具合が悪いなら保健室だと思い向かった。


「ひゃあ……」


「聞かせて……声」


「……恥ずかしいよ」


「他に誰もいないからいいよ」


 嘘だろ……あいつらこんなとこで、何してんだよ! 聞きたくなくて、何も言わずに俺は閉会式へと向かう。


 それから生徒会長の話とかがあったが、俺はさっきの声が気になって何も考えることができなくなっていた。


 そうこうしているうちに、陸と俊幸が幸せそうに手を繋いで微笑みながら俺らの元に来た。


「空雅くん、どうしたの? 元気ないみたいだけど」


「つっ! な、なんでもねー!」


 陸と目があったが何となく、合わせられずに目を逸らしてしまう。それを不思議そうに見つめていたが、俊幸に手を引かれて帰っていく。


 俺がため息をついて左手で口元を押さえていると、緊張している様子の遼馬に声をかけられた。


「空雅、いいか」


「ああ、話だったな」


 俺がそう言うと黙って校舎裏の方に行ったから、俺は首を傾げながら着いていく。それにしても、他の奴らもいるのに普通に頭撫でてきやがって……。


 嫌じゃないが、少し恥ずかしい気持ちが込み上げてくる。九条とか他の女子共が、嬉しそうに見てきていたのも気になる。


 それでも嬉しそうに、俺の見つめてくるあいつの顔がずっと離れてくれない。好きなのは間違いないが、どうやって伝えればいいのか分からない。


 考えてみれば五十嵐って、俺のこと好きとかほざいていたが言わなくなったな。というか、完全に恋愛感情だと思っていた。


 でも本当にそうなのだろうか……俺の独りよがりの可能性があって、ダメだ……完全にブルーが入ってるわ。


「……きだ」


「あ?」


「聞けよ……俺は、初めて会った時からお前が好きだ」


「えっ……」


 あまりにも突然のことで、俺の思考回路は完全に止まってしまう。俺のこと好きって? 遼馬が何でだ?


 初めてって一年の時だったよな。俺が欠伸をしている時に、朝陽と声をかけてきたんだよな。


 だって、今までそんなそぶりなかったじゃないか……。別に気持ち悪いとは思わないが、五十嵐に告白された時に比べて何かが違うように感じた。


 あいつに言われた時は、全身が沸騰するような感覚があった。あいつに名前も呼ばれても、触れられたところも熱くなってしまう。


 答えは簡単じゃないか……あいつの言う好きが、どんな好きか分からない。それでも俺は、あいつが好きだから遼馬の気持ちには応えることは出来ない。


「あー、その……俺は」


「お前は、五十嵐が好きなのかよ」


「えっ?」


「見てれば分かる……五十嵐と、一緒にいるのを見るのは辛い」


 そう言って泣きそうな顔をしている遼馬を見て、俺は正直答えるべきだと思った。それでも、こいつのこんな表情を見るのは初めてだったからうまく顔を見ることが出来なかった。


 それでも本気で言ってくれているのに、適当に流すなんてよくないだろうと思った。俺は遼馬の顔を見て、自分の正直な気持ちを伝えた。


「俺は……好きなんだと思う」


「少し時間をくれ……ちゃんと諦めるから」


 そう言って今にも泣きそうな表情を浮かべて、遼馬は走って行ってしまった。諦めるか……諦めなくていいのにって、それは誰に対して思ったことだろう。


 遼馬は真剣に想いを伝えてくれたのに、俺はずっとあいつのことしか考えていなかった。そこで俺の涙をかき消すように雨が降ってきた。


「俺って最低だわ……」


 俺はその場にしゃがみ込んで、よく分からない虚無感に襲われていた。そんな時だった、会いたかったし今は会いたくもない奴に声をかけられた。


 五十嵐は俺に傘を差しつつ、俺の顔を心配そうに見つめてきた。今はその優しさが色々と辛く感じてしまう。


「おい、どうしたんだ? 具合悪いのか」


「……遼馬に告白された」


「そっか……」

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