二話 手の感触
俺が紙パックのジュースを飲みながら言うと、朝陽が俺は? と言う感じのリアクションをとってきたが無視しておいた。
悲しそうに嘘泣きをしていたので、俺と遼馬はまた華麗に無視を決め込む。俊幸は言わずもがな、学年トップクラスの成績。
遼馬も度々上位に、名前が載っているぐらいに成績が良い。二人とも俺らと、違っていい学校に行けるだろう。
若干寂しいと思うが、仕方がないと割り切るしかないだろう。俺が一人でそう思っていると、だるそうに欠伸をしながら俊幸が戻ってきた。
「何、話してんだ?」
「高校、どうすんのかって。俊幸も遼馬も頭いいから、違う学校だろうから」
「遼馬は? どうすんの?」
「どこでもいい。興味ない」
正直こいつがどこに進学しようが、俺の知ったこっちゃないがそれはないだろう。俺がそう思っていると、俊幸はまた欠伸をしながら言ってきた。
「俺は、K校に行くよ」
「はあ? お前なら、もっといいとこ行けるだろ」
K校は確かに公立だけど、こいつの学力ならもっといい進学校に余裕で行けるだろ。もしかして、家から近いからか。
詳しくは知らないが、家が結構ごたついているらしく遠くに行きたくない。って、いつか言っていたような気がする。
「お前はそれでいいのかよ」
「ああ、いいよ。高校なんてどうとでもなる」
いいって顔してないじゃん……本当は、違うとこに行きたいんだろうな。でも俺には分からない家庭の事情ってやつがある。
深く詮索しないようにしないと……それにあそこなら、俺でも今から頑張ればギリギリで合格できるかもしれない。
少し頑張って同じとこ行ってみるか。なんとなくだけど、こいつは一人にしとくと危ないような気がする。
俺と同じで、良くない方向に行ってしまいそうな気がするから。こいつには言わないが、俺が同じ学校に行きたいと単純に思えてしまった。
遼馬に教えてもらって、四人で同じ高校に行けるように人生で一番勉強した。その甲斐あってか、なんとか俺と朝陽は本当にギリギリの点数で合格した。
高校の入学式は腹立つことに、俊幸が新入生代表に選ばれた。こいつ、普段はめんどくさそうな面してるのに猫被ってやがる。
高校に入る前日に、俺は金髪に俊幸は茶髪に染めた。耳にもピアスを開けたが、かなり痛くてちょっと後悔した。
それでもピアスはファッションというし、少しすれば痛みも減っていく。それに、遼馬がつけていてカッコよかったし。
一年の時は四人が同じクラスになったから、またわいわい楽しめると思っていた。入学式が終わって、俺と俊幸は話しながら教室へと向かっていた。
「ったく、この前まで俺と同じぐらいの成績だったってのによ」
「まあな、頑張れば。どうにかなるもんだぜ」
「良かったのかよ。俺と同じとこじゃ、お前には勿体無いだろ」
「空雅、良いんだよ。俺は、この学校で」
こいつってほんと、変わったよな。出会った当初は、今にも死にそうな面してたのに。今は、もの凄く生き生きとした感じになった。
朝陽は知らないが遼馬が言っていたっけ。ああいうタイプは、自暴自棄になると何しでかすか分からないって。
俺もそう思う……。かといって、ガキな俺らには何もできないだろうけど。それに未だに、こいつの本心がよく分からない。
楽しそうに笑っていても、ふとした時に悲しそうな泣きそうな面をしている時がある。俺にも触れられたくないことが、あるようにこいつにもあるんだろうな。
俺がそう思いながら、廊下を歩いていると俊幸が誰かにぶつかってしまったようだった。いつもならちゃんと自分に非がある時は、直ぐに謝るのに不思議に思っていた。
「あっ……わる……えっ」
「……すみません」
ぶつかった相手は、綺麗な黒髪につぶらな漆黒の瞳。可愛い顔立ちに、少し幼さがあるが端正な顔をしていた。
左目の下にはホクロがあって、一瞬女子に見えるぐらいに可愛い容姿をしている男子だった。
俺が変な胸の高鳴りを感じていると、俊幸は頬を赤らめてその男子のことを見つめていた。
そして完全に無意識にボソリと呟いていた。その発言を聞いて、俺は心の中で深く頷いた。
「可愛いな」
「誰か可愛い子でもいたのか?」
「見るな。お前には見せない」
「何だよ……お前がそう言うってことは、本気なんだな」
よく分からないが、俺はこの時に思った。モテモテの俊幸が、一目惚れをした瞬間だと勝手に思っていた。
それからというもの、クラスは違ったが俊幸は誰が見ても分かるぐらいにその男子のことを目で追っていた。
えーと、確か大久保陸だったか? 確かに、可愛いし守ってあげたくなるような感じがする。
いつからか俊幸は何故か、同じクラスの美人である九条美雪と行動を共にし始めた。そのため、クラス中では付き合ってるのかと噂になっていた。
まあもし付き合っていたとしても、俺には関係ないが……それでも、一言ぐらい何か相談してくれても良さそうなのに。
まあでも……俊幸は大久保のことが好きなのだと、思っていたから疑問には思っていた。どちらにせよ、相談して欲しかったなと少し寂しい気持ちになった。
放課後、二人がいつものように帰っていく。すると、席で帰り支度をしている俺に遼馬と朝陽が声をかけてきた。
「なー、あの二人って付き合ってんのかな?」
「もし、そうなら言って来ると思うし。あいつ、分かりやすいし」
「俺もそう思う。それに……」
実際のところどうなんだか知らないが、あいつは大久保の好きなんじゃないかと思う。大久保のこと見つめているあいつは、完全に恋する乙女だし。
遼馬は金髪に染めて、両耳と口にもピアスがついていた。朝陽は茶髪に染めていたことにより、ワンコ感が増していた。
俺がそう思っていると、不思議そうに見つめてくる朝陽がふわーとした感じで聞いてきた。
「なー、何か知ってんの?」
「さあな、どうだろな」
「歯切り悪いな」
「あははは」
言えるわけねーだろ。モテモテ俊幸が、実は隣のクラスの男子のことが好きかもとか口が裂けても。
それにそれが真実でも俺の勘違いでも、本人が何も言わないのに勝手に言うわけにはいかねーだろ。
それに九条とどういう関係性か、分からないが特にアクションは起こさないだろう。俺は別に男同士でも、なんとも思わないがそうじゃない奴の方が多いだろうから。
この時の俺は二人が幼なじみだったことも知らないし、陸のファンクラブが創設されていたことも知らなかった。
今日は四月末で俺の誕生日なのだが……あまりにも成績が悪いため、担任の五十嵐秋也に放課後呼び出されていた。
「このままの成績だと、夏休み補習地獄だぞ」
「はあ? まだ、春だろ。夏まで時間あるだろ」
「ああ、普通はな。でも、これは普通じゃねーだろ」
確かに……入学して直ぐのテストで、俺は半分以上赤点を取ってしまったからな。それでも、俺と同じぐらいのバカ他にもいんだろ。
俺がそう思っていると、五十嵐は小言を言うのをやめて俺の頭を撫でてきた。突然のことで、理解が追いつかないでいた。
次の瞬間には、五十嵐の手を振り解いて大きな声を出していた。そして勢いよく椅子から、立ち上がった。
「おまっ! 何考えて!」
「あっ、すまん。その、なんだ。座れ」
そう言って微笑むこいつを見たらなんとなく、従ってしまい素直に椅子に座り直す。それにだ……こいつの手の感触、何処かで感じたような気がする。
手だけじゃなくて、こいつの顔も雰囲気も誰かに似てるような気がする。そこで俺が気がついてしまった。
そうか……あのお兄さんに似ているんだ。そんなわけないだろ……そんな奇跡的な出会いなんて……でも、もし本人なら……。
俺が黙ってしまったから、少し心配そうに見てきた。俺は思い切って聞いてみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます