第48話 第七層
私たちは第七層にどんな魔物が出て、どんな特徴や性質を持っているか、どんな攻撃が効くのかを調査していく。
そうやって私たちが詳しく調査するほど、他の小隊も対策をして早く入ってくることができる。
他の小隊がこの層に入ってこれるようになれば、この層の間引きは他の小隊にまかせて、私たちは次の層の調査に移ることができるわけだ。
しかし未知の魔物に対処するには危険が伴う。そのために、第一小隊には精鋭が集まっている。
「それじゃあ次に大サソリが出てきたら、私が火の中級魔法を試してみるわ」
と、私。
魔石カートリッジは数に限りが有るから、試すなら魔石がなくても火の魔法が使える私がやるべきね。
それで有効性が確認できたら、皆にもその魔法を使ってもらえばいい。
「例の、フレイム・ピラーだな?」
グレイグが聞いた。
「そう」
でも、次に出てきたのは火トカゲだった。
「じゃあ、これは俺が試す」
ジョンがそう言って、ライフルで徹甲弾何発で倒せるかを試す。
結果、火トカゲも徹甲弾で同じ箇所を狙えば三発で倒せることがわかった。
私たちは再び歩き出すと、五十メートルほど歩いたところで私が察知した。
「来るわ。砂の下だから大サソリね」
「何匹だ?」
雄一が聞いた。
「一匹ね。私がやるわ」
サソリが砂から現れると、早速私が火の中級魔法を放った。
「フレイム・ピラー」
すると大サソリが火に包まれて動きが止まり、数秒後に体が消える。
「一発で仕留められたな」
と、ジャック。
グレイグは、細かい所まで観察していたようだ。
「見ていたら、外殻は火にも強く変形しなかった。おそらく、高温で熱せられて中の組織が持たなかったに違いない」
「ねえ、次は私が身体強化で突きを試してみていい?」
芽依が私に聞いてきた。
「接近するとなると、あの尻尾の針に注意しないと」
もしあの針に毒があったら……。
「なんとかなると思う」
うーん、どうしよう。
彼女の突きは威力がありそうだから、試す価値は有るけど……。
身体強化していればスピードも増すし、針は回避できるかな。
でも万が一を考えて……。
「それじゃあ陽向は芽依と組んで、芽依があの針に刺されないように、いざとなったらシールドで守ってあげてくれる?」
「うん」
「でも、ギリギリまで手は出さないでよ」
芽依が陽向に言った。
「わかった」
そしてまた、大サソリが出てきた。今度は始めから砂の上だ。
「じゃあやるわよ。陽向はギリギリまで手を出さないでね」
「わかったって」
芽依が陽向に念を押して、二人でサソリに向かう。
陽向が少し離れたところで止まり、芽依が身体強化をしてサソリに近づいた。
ところが、芽依はサソリの針に気を取られすぎていたようだ。近づくと足をハサミで挟まれてしまった。
「あっ」
芽依が小さく声を上げた。
そこにサソリが尻尾の針で刺してこようとするが、陽向がシールドを張って針を止める。
それでサソリの動きが止まったところに、芽依がサソリの頭に突きを入れた。
やはり身体強化した芽依の拳は破壊力があったようだ、サソリは一撃で消える。
「足は大丈夫?」
陽向が芽依に聞いた。
「身体強化してなかったらヤバかった。すごい力だったわ」
「やっぱりサソリは遠距離からの攻撃にしておいた方がいいんじゃないの?」
「次は、もっといいやり方を考えるわ」
陽向が芽依の言葉を聞いて、私の方を見てきた。何か言って欲しいのかもしれない。
「次も接近戦を試すの?」
私が芽依に聞いた。
「このままじゃ、今晩眠れないから」
芽依は負けん気が強いから、気が済むまでやらせないとダメかしらね。
私は陽向に肩をちょっとすくめてみせる。
陽向はため息を付いた。
「わかったよ。次も僕が守るから。でも、無理はしないでね」
「陽向。急にかっこいいこと言っちゃって。ちょっと前までは自分の身も守れなかったのに」
「それは言わないでよ」
「……でも、さっきはありがとう」
皆がそのやり取りを温かい目で見ていた。
さて、だいたいこんなところかな。
この空洞の四分の一ほどを探索したけど、出てきたのは火トカゲと大サソリの二種類だけだった。
火トカゲは水魔法初級なら二発で倒せ、徹甲弾なら三発。大サソリは初級魔法なら三発。徹甲弾も三発で倒せることがわかった。
あとは八層への階段が見つかればいいんだけど。
「ジョン? 八層への階段は見つかった?」
私は先程からドローンで偵察しているジョンに聞いた。
「六層の階段から手前半分は偵察したが、ダメだな。もしかしたら、一番遠い場所にあるのかもしれない。もうちょっと探してみる」
それを待つ間、グレイグが足元の砂をすくって調べている。
さらにはポケットからルーペを出して、砂粒を拡大してい見ているようだ。
「どうしたの?」
私が聞いた。
「普通の砂は石英などで出来ているが、これは違うみたいだ。この砂のサンプルも持って帰る」
グレイグそう言って、カバンから円筒形の容器を出して砂を入れていた。
しばらくして、ドローンで偵察をしていたジョンが何かを見つけたようだ。
「これは……」
「階段を見つけた?」
私が聞いた。
「なんか、砂漠の真ん中に柱のような物が二本あるな」
ジョンが皆の腕の端末に、その映像を送ってきた。
よく見ると、エジプトの遺跡で見かけるような円柱形の柱だ。
「この場所は?」
「ここから三時の方向、五百メートルほどだな」
「では、今からそこに行くわよ」
私がそう言って、皆でそちらの方向へ向かった。
近くで見ると、やはり柱だ。
高さは三メートルほど、直径は八十センチほどで、材質は石のように見える。
それが三メートルほどの間隔をあけて二本立っているだけで、他には何も無い。強いてあげるなら、そこから少し離れたところに低い砂の山があるだけだ。
すると雄一が、柱の表面に何かを発見したようだ。
「おっ。ここにマークみたいのがあるぜ」
「ん?」「どれ?」
皆がそれに注目する。
「これって、第五層の奥にあった扉を開ける仕組みのマークと似てるわ」
と、私。
「それなら、そこに魔力を流せば階段が出てくるのかもな」
グレイグが言った。
「じゃあ、流してみようよ」
芽依がそう言うなり、さっとそのマークに触れた。
「あっ。ちょっと」
私は止めようとしたが、もう魔力を流した後だった。
門番が出てくる可能性もあるのに。
「え?」
どうやら魔力を流すと、その柱がボーッと鈍い光を放ったようだ。
ところがその直後、前方で竜巻のような風が吹き荒れた。
魔力を流すのは正解だったみたいだけど、いったい何が起きるの?
「皆、一旦退避!」
私がそう言って、皆で竜巻から離れる方向に走っていき、五十メートルほど離れた所で止まって振り返る。
すると、先程の柱の向こう側にあった砂山が、竜巻によって砂が巻き上げられて、山が低くなっていく。
私たちはそのまま何が起きるのかを見ていた。
するとどうやら、その砂の中から例の石積みが現れたようだが、それと一緒に多数の魔物も現れた。
数はおおよそだが、石積みの左側には火トカゲが約三十匹と、右側には大サソリが約三十匹ぐらいだ。
「ここの門番は数で来るようね」
と、私。
「魔物の大きさは普通のと同じだな。変異種じゃなければなんとかなりそうだ」
雄一が言った。
「ではみんな、最初はこの場から魔法攻撃をするわよ」
「「了解」」
魔物もこちらに向かって動き始める。
まず私が大きなウォーター・ボールを出して火トカゲに向かって放つと、その直線上にいた五匹が消えた。
当初私はそれを二回ほどやるつもりだったが、どうやら初級魔法でも、規模が大きければなんとかなるものらしい。
おそらく、弱点の属性ということもあるのだろう。
皆も魔法の腕輪で、大サソリにはフレイム・ピラー、火トカゲにはウォーター・ボールなどを放って倒していく。
そうやって四分の三ほど倒しただろうか、グレイグが言ってきた。
「そろそろ、魔石の魔力が切れそうだ」
残りは……火トカゲが七匹、大サソリが九匹か。これぐらいなら、前衛と遊撃の五人で接近戦をしかけても、油断しなければなんとかなりそうね。
でも、雄一だけ無属性魔石がなくて身体強化が出来ないんだっけ。
……そうだ。たしか、先日皆で練習したときの無属性魔石に少し魔力が残っていたはず。
私はカバンの底からそのカートリッジを見つけると雄一に渡した。
「まだ一、二回分は残っているはず。このあと突撃するから、雄一もこれで身体強化をして」
「おっ。それは助かる」
私は皆に次の指示を出す。
「それでは、前衛と遊撃は身体強化をして接近戦に移るわよ。ジョンとグレイグ、陽向は後ろから援護を」
「「了解」」
私を含め、前衛と遊撃の五人が魔物に突進していく。
私は水属性にした魔法剣を持ち、身体強化で素早く走りながら、左の火トカゲに迫った。
まずは先頭の一匹にウォータ・カッターを放って、動きを止める。
次にそのすぐ後ろにいて、先頭の火トカゲと私が戦っている最中に邪魔をしてきそうな火トカゲを、先に水の魔法剣で切る。
まずは一匹を倒した。
使っているうちにわかってきたが、魔法剣は魔力を流す量に比例して威力も高くなるようだ。
初級魔法なら二回攻撃するような相手でも、魔法剣なら一回で済んだ。
次に先程動きを止めた火トカゲに戻って、魔法剣で突き刺しトドメさして二匹目を倒した。
横から飛んでくる火の玉を避けながら、ウォータ・カッターを二連発。これで三匹目。
すると、死角から他の火トカゲが飛ばした火の玉を陽向がシールドで防いでくれた。
「陽向、ナイスよ!」
次に、残りの火トカゲが一斉に私に火の玉を放ってきたので、それをジャンプして避けながら、一匹の火トカゲの背後に着地して叩き切る。四匹目。
雄一は、私の近くで同じ様に水の魔法剣で火トカゲを倒していた。
芽依は先程の失敗から、新たな戦い方を考えていたようだ。
まず大サソリの背中を横から踏みつけ、針のある尾を左手で掴んで動きを封じ、身体強化した右手の手刀で攻撃する。
すると、大サソリの尾が途中から切れた。しかし、それだけでは大サソリは倒せなかったので、次に大サソリの背中に向かって上から突きを入れて倒していた。
芽依が横から来た大サソリにまで手が回らないでいると、それを陽向がシールドで大サソリを足止めをしてくれる。
そこをジョンが徹甲弾で、グレイグが魔法を撃ち込んで倒していた。
ジャックはというと、身体強化をして芽依の背後を守るように戦っている。
大サソリの針を盾で弾き、剣で頭を四、五回斬りつけると大サソリが消えた。
ジャックは、最近なぜか芽依と一緒に戦うことが多くなってきたわね。
今も芽依の後ろを守っているわ。
あの二人、まさかね……。
ブラッドは火トカゲと大サソリ、自分の近くにいるものを手当たり次第に剣で切りつけていく。
ジャックと同様、普通の剣でも身体強化しているからなんとかなっているようだ。
火トカゲも同じところを数回斬りつければ倒せているようだった。
一匹の大サソリが一度砂に潜ってブラッドに不意打ちを仕掛けて来ようとするが、砂から出て背後から近寄ろうとしていた大サソリを私が火の魔法剣で尾の部分を叩き切り、勢いそのまま頭を魔法剣で突き刺して倒した。
それが、最後の一匹だったようだ。
「ふー。片付いたわね」
すると、私はレベルアップ酔が起きる。
やった。これでレベル32だわ。
身体強化なしでマッチョのジャックと肩を並べるにはあと一つ。でも、ジャックもこの間に一つぐらいレベルアップしてるわよね。
よし。もっと、頑張ろ。
倒し終わると、皆が私のところに集まってくる。
皆の顔も、やり遂げた、といういい表情になっていた。
するとここで、芽依が神妙な面持ちになる。
「みんな、ごめんなさい。危険な目に合わせてしまって」
皆が準備しないうちに、柱のマークに魔力を流して門番が出てきてしまったことに対してだろう。
「芽依らしいや」
陽向がからかった。
「いや。全然大丈夫だぞ」
「どうせいつかはやらなければならなかったのが、少し早まっただけだ」
ジャック、ブラッドの順だ。
「次から気をつければいいさ。それに大サソリは芽依が一番倒していたしな。よくやったと思うぞ」
と、雄一。
「ちょっと危ない事もあったけど、皆の援護で助かったわ」
芽依が照れながら。
「おう」「その為の仲間だ」
グレイグとジョン。
この隊には、すでに反省しているのにいつまでも責め立てるような者はいない。
「私、このチームに入れて本当によかった!」
それを聞いて皆が笑顔になる。
その後皆で、砂の中から現れた石積みの上を見に行く。
すると、石積みの中央には下への階段が現れていて、さらにその横には例の石碑と台座もあった。
先程は見えていなかったので、すべての門番が倒されると同時に現れたに違いない。
そして、台座の上には湾曲した細長い物が乗っていた。
「何かしら、これ」
と、私。
「弦が無い弓にも見えるな」
雄一が言った。
「おそらく、その石碑に詳しく書いてあるんだろう。研究所に渡せば解析してくれるさ」
グレイグがそう言って写真に撮り、その魔導具らしきものを背中のリュックに突っ込んだ。
私と芽依、陽向は例によって石碑に触れてみる。
すると、
(状態異常耐性覚醒)
という声。
「二人はどうだった?」
私が芽依と陽向に聞いた。
「状態異常耐性だって」「僕も」
「皆、同じなのね」
「姉御も?」
「そう」
ここでこんなスキルを得たということは、状態異常を起こすような魔物が下の層で出てくるのかしらね。
状態異常の内容によっては、非常に危険だわ。
だから、第八層への階段も隠してあったのかしら。
私たちは先程倒した魔物が落とした魔石を回収し、基地へ報告に戻ることにした。
ーーーーーーー
今後は一日おきに投稿していく予定です。
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