第47話 第七層へ
翌日、私たちは第六層にやってきた。
陽向はこの層が初めてということもあるし、始めは後ろの方で見ていてもらい、やれそうなら一緒に戦ってもらうつもりだ。
第六層を歩いていくと、早速翼竜が上空から私たちを見つけて襲ってきた。
今回は一匹だったので、急降下攻撃を芽依がストーン・ウォールで防ぎ、翼竜がそれにぶつかって地面に落ちた所に他の皆が攻撃を加える。
倒し終わると陽向が芽依に声を掛けた。
「芽依は大活躍だね」
「でしょ?」
「でも、陽向もシールドの実戦練習がてら、翼竜に使ってみたら?」
「試してみてもいい?」
陽向が私の方を見てきた。
どうしよう。まだ少し早い気もするし。
でも、初めて会った頃ならダメだったかもしれないけど、今の陽向ならもし失敗してもくじけたりはしないわね。
それに、夜に芽依と二人でなにやら特訓していたみたいだし、大丈夫かな。
じゃあ、次は任せてみるか。
「そうね。ある程度自信が持てるようになったら、実戦で試すのは重要だわ」
「やった!」
少し歩いていくと、再び翼竜がこちらを見つけて向かってくる。
「来るわ。それじゃあ、さっきの芽依が石の壁を出した位置ぐらいにシールドを出してみて。陽向のシールドは透明で魔物が視認しづらいから、少し早めに出しても大丈夫かもしれない」
私が陽向に言った。
「やってみる」
「他の皆は、いざという時に備えておいて」
私は陽向の横で、彼がもしシールドを張るのを失敗したときに備えて、魔法剣を手に持って準備した。
翼竜がこちらに向かって急降下してくる。
するとここで、私は芋虫が近づいてくるのを察知した。
あっ。こんな時に芋虫?
私は左の方を指す。
「向こうから芋虫が来る。芽依とジャックは芋虫に対処して。翼竜は一匹だから、こちらは気にせずにいつも通りで」
「わかったわ」「了解」
芽依とジャックが応え、芽依は芋虫の糸を防ぐために魔道具の盾を準備する。
芋虫が草むらから出てきた。
すると、陽向がそれにちょっと気を取られたようだ。
「陽向は翼竜に集中を」
「う、うん」
陽向はすぐに前に顔を戻して、翼竜が間近に迫ったところでシールドを張った。
すると、翼竜がそれに激突して、芽依が出した石の壁の時と同じ様に下にずり落ちる。
「とどめは任せてくれ」
雄一が落ちた翼竜に素早く駆け寄って、土属性の魔法剣で翼竜にとどめを刺した。
一方左の方では、芽依が芋虫の糸を十分吐き出させたところを、ジャックが剣で芋虫を倒していた。
「みんな、よくやったわね。陽向も魔物にひるまずにちゃんとシールドで防いで、よかったわよ」
「よくやったぞ」「すごいもんだ」「自信になったんじゃない?」
皆が陽向に声を掛けた。
陽向はちょっと照れているようだった。
その後も出てきた数匹の魔物を倒しながら、私たちは第六層の中央付近にある階段までやってきた。
門番が復活している可能性も考えたが、その心配はいらなかったようだ。
階段付近に魔物はいなかった。
「では、七層へ」
私が先頭になって、階段を降りていく。
長い階段を降りると、目の前に広がる景色は第六層とは全く違っていた。
空洞の大きさは第六層と同じぐらいだが、そこに広がっていたのは砂漠だ。
砂の色は少し茶色味がかっている。
私たちがこの層に足を踏み入れたから、そろそろ魔物がポップするはずね。
はたして、どんな魔物が出てくるのか。
すると、雄一が真っ先に気がついたようだ。
右の方を指す。
「あそこ。魔物だ」
百メートル程離れたところに、頭から尻尾の先までの長さが二メートル程のトカゲのような魔物が一匹いた。
色は赤黒っぽい。
「この景色からすると、もしかするとあのトカゲは土属性か火属性?」
芽依が聞いた。
「ゲームだと砂漠にはそういう魔物がいることが多いけど……」
と、陽向。
「どうする? 火か土なら、皆の魔石カートリッジを水と風半々ぐらいに付け替えるか?」
グレイグが私に聞いてきた。
あれが火属性なら水属性に弱いだろうし、土属性なら風属性に弱そうだ。
皆のカートリッジは第六層用に土属性のカートリッジを着けているから、今のうちに付け替えるか聞いてきたわけだ。
でも、私なら両方の属性が使えるし相手は一匹だ。皆はそのまま私が使えない土属性のままにしておいてもらった方が良さそうね。
「まず銃が効くかどうか試して、続いて私が水魔法で攻撃してみる」
「え? ボスは、いつから腕輪無しで水魔法が使えるようになったんだ?」
最近私は魔法剣をメインにしているので腕輪をしていない。
「言ってなかったっけ?」
そういえば、みんなには言ってなかったか。
「「「聞いてない」」」
皆がつっこみを入れてきた。
皆で銃の有効射程距離まで近づき、まずはグレイグがサブマシンガンをトカゲに対して撃ってみる。
ところが、全然効いていないようだ。
「だめだな」
次にジョンが徹甲弾を使った。
「少しは効いているようだが……」
弾が当たったところは外皮が欠けて、普通の弾丸に比べれば効いてはいそうだが、致命傷を与えるまでには至っていないようだ。
あの様子だと、同じ箇所に続けて何発か撃ち込めば、なんとかなりそうにも思える。
しかし、トカゲは今の攻撃で怒ったようだ。
こちらに向かってくる。
「皆は下がって」
私はそう言って、一人で前に出て近づいていく。
私から三十メートルほどの距離でトカゲは一旦止まり、今度は口を開いたかと思うと、十五センチほどの大きさの火の玉を飛ばしてきた。
私はそれを横に避ける。
その火の玉は放物線を描いて、私の後方十メートルぐらいの地面に落ちた。
やっぱり火属性みたいね。
そして地面に落ちたということは、あれは魔法じゃなくて、体の中から火の塊を出したって感じだわ。
射程距離は四、五十メートルぐらいかな。
では今度はこちらの番。水属性の魔法をおみまいしてあげるわ。
私は右手を出して魔法を詠唱した。
「ウォーター・カッター」
すると四十センチ程の大きさの水の刃が、トカゲめがけて飛んでいく。
その水の刃がトカゲに当たると体に食い込み、水蒸気が沸き起こり、その当たった付近の色が黒くなったようだ。
効いているのよね?
トカゲの動きが明らかに鈍くなったようだが、まだ動いている。
私は、もう一度ウォーター・カッターを放った。
すると今度は全身が真っ黒になって動かなくなり、よく見ると黒くなったところはヒビが入ったようだ。
そして、数秒後に体が消え、その後には赤い魔石が残った。
初級魔法だと二回攻撃が必要ね。中級魔法なら一回だろうけど、水の中級魔法って何があるかしら。暇な時に研究しないとね。
皆が私のところにやってくる。
「赤い魔石ということは、やはり火属性だったな」
ブラッドが言ってきた。
「水属性の攻撃でいいみたいだけど、ヒビが入ったように見えたわ」
「おそらくだが、あのトカゲの表面はとても硬くて高温だったに違いない。おそらく内部もだろう。だから急激に水で冷やされて、ヒビが入ったわけだ。焼けた石を水に投げ込むと割れるのと同じ原理だな」
と、グレイグ。
そう言えば、そうやってお湯を沸かす方法があったわよね。
「黒くなった様に見えたのは、温度が下がったのね?」
「ということは、あれに触れたら火傷は確実だな。できるだけ遠距離から水属性の攻撃をするのがよさそうだ」
雄一が言った。
「しかし、あんな水魔法があったんだな?」
ジャックが私に聞いてきた。
「え?」
「研究所の研究員がいくつか発見した中にウォーター・ボールというのはあったが、ウォーター・カッターは初めて聞いた」
「あれ? なかったっけ? ウィンド・カッターができたから、ウォーター・カッターもできると思い込んでいたわ」
「ボスのオリジナルだ」
「それなら、やはり魔法はイメージが大切なんだと思うわ。だからイメージ次第で、どんな魔法も可能なんじゃないかしら」
「ところであの魔物の名称はどうする?」
グレイグが聞いた。
「じゃあ、火トカゲ?」
「そうしよう」
「ではみんな。次回から火トカゲが出てきたら遠距離から水魔法で」
私が皆に言った。
「「了解」」
その時だ。私は他の魔物の接近に気がついた。
「なにか近づいて来る!」
「え?」
皆が急いで周りを見回した。
しかし、近くには何もいないようだった。
「もしかしたら、砂の中かも。皆、一旦向こうに下がって」
私は皆を下がらせて一人そこに残り、気配に集中していた。
私までいなくなったら、おそらく魔物はいつまでも砂の中にいて、同じことの繰り返しだ。
だから、ギリギリまで引きつけて様子を見る。
よく見ると、魔物が砂の中で移動するとその上の砂が少し盛り上がるようで、それがこちらに向かってくるのがわかった。
来た!
私はタイミングをはかって、ジャンプしてその場を離れた。
すると、今まで私がいたところに、砂の中からカニのハサミようなものが出てきた。色は黒っぽい。
ハサミといっても、獲物を捕まえるためのハサミのようで、鋭い刃は付いていないようだ。
しかし、ああいうハサミは油断は禁物だ。
普通のカニでも、種類によっては指を挟まれたら切断してしまうぐらいの力があるらしいから。
そのまま用心しながら見ていると、次に体が砂の中から現れた。
不意をつけなかったから、体を隠すのはもうやめたのだろう。
出てきたのはサソリの様だ。ただし体長が二メートル近い。
尻尾の部分には普通のサソリと同様に毒針のようなものが有る。
この第六層も二種類以上の魔物が出てくるのね?
「銃を試す」
グレイグがそう言ってサブマシンガンを放ち、ジョンは徹甲弾を試すが、あまり効いていないようだ。
あの外殻は随分硬そうだわ。
先程みたいに一つ一つ試していかないのは、魔物との距離が近く、悠長に試している時間がないからだ。
あのサソリが走る速度はわからないが、数秒後には襲われてしまう可能性がある。
「魔法を使ってみる」
私がそう言って水魔法を使ってみる。
「ウォーター・カッター」
表面に傷は付いたみたいだが、それほどダメージを与えることはできなかった。
同じ場所に生息しているからと言って、同じ火属性の魔物ではないようだ。
「土魔法を使ってみる」
芽依がそう言って、ストーン・バレットを放った。
高速で石が当たってサソリがちょっと後ろに押し下げられたように見えたが、まだ倒すことはできていない。
「なんて硬いの」
と、芽依。
「でも、殻の一部にヒビが入ったみたいだ。倒すには同じ場所を数回撃つしかない」
グレイグが言った。
「わかった。同じ場所を狙ってみる」
その間に大サソリは芽依に向かってきた。今の攻撃で怒ったのかもしれない。
芽依のストーン・バレットの二発目でやっと外殻が割れて、三発目にその外殻が割れた箇所から内部に突き刺さって、やっとサソリが動かなくなって消えた。
魔物が自分に向かってきているにも関わらず、芽依は焦らずに正確に同じ場所を攻撃できたわね。
「芽依も、腕を上げたわね」
私が声を掛けた。
「でも、三発もかかった」
そう言いながらも、芽依は褒められて嬉しそうだ。
「それについては、もう少し効果がある方法を探さないといけないわね」
「今のを見ていたら、おそらく徹甲弾で同じ箇所を撃てば、銃でもなんとかなりそうだな」
と、ジョン。
「じゃあ次に出てきたら、徹甲弾何発で倒せるか試してみて」
「了解」
他の小隊が入って来るときのために、通常兵器で倒せるかどうかを見極める必要が有る。
ブラッドが魔物が消えた後に残っていた魔石を拾い上げた。
「これって、無属性の魔石だな」
「ほんとうだ」「やったな」「ここでも出てきたか」
「しかし、無属性ということは、魔法属性による弱点はないということだろ?」
と、雄一。
「そいうことね」
私が言った。
「どの魔法でも、初級なら三発は当てないといけないか」
「そろそろ中級魔法の出番かしらね」
「それで、この層も二種類の魔物がいるってことでいいの?」
陽向が聞いた。
「それについては、階段からあまり離れすぎない程度に、もう少し調査を続けるか」
グレイグがそう言ったのは、もしかしたら三種類以上の可能性もあるからだ。
しばらく歩くと、再び大サソリが出てきた。今度は始めから砂の上だ。
「これは俺が、徹甲弾何発で倒せるか試してみる」
ジョンがそう言って、一人で対処する。
結局、徹甲弾を同じ箇所に撃つことで三発で倒した。
射撃の正確なジョンならではだが、でもまあこれぐらいで倒せれば、他の小隊も入ってこれそうだ。
私たちはそれから一時間ほど歩き回り、数匹の魔物を倒したところで私はレベルアップ酔を感じた。
やった。これでレベル31だわ。
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次回48話は、1日あけて月曜日に投稿予定です。
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