第46話 陽向のユニーク魔法
次の日。
陽向は芽依と同じく私の預かりになったので、芽依と同じ様に訓練場で第一小隊の皆に紹介した。
そして今は陽向のポジションを決めるところだ。
「さて、陽向君のポジションを決めないとね」
「後衛がいいんじゃないか?」
雄一が言った。
「身体強化ができるから、剣を持たせて遊撃でもいいんじゃない?」
と、芽依。
「え?」
陽向がちょっと戸惑っている。
「陽向は剣道か何かをやったことがある?」
私が陽向に聞いた。
「学校の授業でだけ」
「それでいきなり魔物と剣で戦うのはしんどいわよね」
「それならユウイチの言った通り、当面は魔法の腕輪を使った後衛でいいだろ」
と、グレイグ。
「そうね。それがよさそうね。それで、その魔法の腕輪なんだけど、今日は皆に新しい魔法の腕輪が支給されたわ」
私はそう言って、持ってきた新しい魔法の腕輪を皆に配っていく。
「新しい魔法の腕輪?」
ブラッドが聞いてきた。
「今までの初級魔法はもちろん、使おうと思えば中級魔法が使えるようになる」
「「おお」」
「まだすぐには使う機会はないかもしれないけど、そろそろ中級魔法でないと一発で倒せない魔物が出てくる可能性が有るから。それで第一小隊がテストも兼ねて支給されたわ。これからは中級魔法も少しずつ練習もしていくわよ」
「わかった」「了解」「楽しみだな」
と、皆。
「それで次なんだけど、私たちが第六層で無属性魔石を持ち帰り始めたおかげで、うちのチームにも無属性の魔石カートリッジが二個まわってきたわ」
「とうとうか」
ジャックはそれを聞いて、嬉しそうにしている。
第四層のゴブリンぐらいまでの魔物なら、今までも盾で魔物の攻撃を防ぐことができていた。
しかし、腕力の高い五層のオークが相手では、マッチョのジャックでさえもギリギリだったのだ。
オークの剣を受けた際に、ヘタをすると盾を持っている腕が骨折する可能性もあった。
そこで、この無属性の魔石を腕輪に着けて身体強化を使えば、第五層のオークや第六層の翼竜、そして今後入るであろう第七層以降でも前衛の役目を十分に果たすことができるはずだ。
さらに、前衛の二人は片手剣も持っているので、身体強化は剣を振るうときにも有用だろう。
これからは前衛だけでもオークなどは簡単に倒せるようになるに違いない。
剣を使って魔物を倒すのは雄一も同じだが、まだ魔石カートリッジは二つしか配給されていない。
今後魔石カートリッジの供給が増えれば他の皆も身体強化ができるようになり、さらに戦いが楽になるだろう。
「今回、この二個は前衛のジャックとブラッドに使ってもらおうと思う」
私はそう言って魔石カートリッジを二人に渡した。
「早く実戦で試してみたいな」
と、ジャック。
「これでオークの腕力に負けることはなくなると思うが、今度は盾が持つかどうかだな」
ブラッドの心配に、私が応える。
「おそらくだけど、持っている盾も含めて魔力で覆えば、盾の強度が増して壊れる心配もなくなると思うわ」
「そうなのか?」
陽向があの鬼人にナイフで刺されたときも、服に穴は空いていなかった。
ということは、服も含めて強化されていたんだと思う。
だから盾でもできるはず。
「それも、試してみて」
「わかった」
「午後からダンジョンに行くけど、今日は第一層から第五層をざっと回る予定よ。だから二人は第五層でオーク相手に試すといいわ」
「そうさせてもらう」
と、ジャック。
陽向はというと、芽依が世話を焼いていた。
「魔法の腕輪はこうやって着けるの」
「ありがとう」
「アームガードの端末はこう使うのよ」
「ああなるほど」
芽依が面倒をみているから、彼は大丈夫そうね。
午前中は、まずはこの訓練場で魔法関係を中心に練習をすることにした。
前衛の二人には身体強化の練習を数回してもらい、陽向には今日はとりあえず魔石を使ったファイヤー・ボールを練習してもらった。
ファイヤー・ボールが使い物になれば、第五層までは十分戦力になるだろう。
そして、ファイヤー・ボールで魔法の使用に慣れてくれば、他の属性の魔法の習得も早くなる。
その間に、私は火の中級魔法フレイム・ピラーの練習をしてみる。
「それって、前にシュウキが使っていたやつか?」
「あれが、使えるのか」
「ファイヤー・ボールの何倍もの威力がありそうだな」
雄一、ブラッド、ジョンが私の放ったフレイム・ピラーを見て言ってきた。
「俺達も練習すれば出来るのか?」
ジャックが聞いた。
「魔法はイメージよ。練習すれば出来るはず。ただし、研究員によると皆が魔法の腕輪で中級魔法を使う場合は、五倍の魔力を消費するらしいわ。一つの魔石で、ファイヤー・ボールなら五十発撃てても、これだと十回が限度かもしれない」
「わかった。そのあたりは注意が必要だな」
皆もフレイム・ピラーの練習を始めたが、先程私の魔法を見たばかりなのでイメージしやすかったのだろう、威力はまだ弱いが、それなりに使えるようになるのは早かった。
そして午後からは皆でダンジョンの第一層に入った。
第一層は陽向の魔法の練習を兼ねて、スライムはなるべく陽向に倒してもらう。
「戦うのって、楽しくない?」
芽依が陽向に聞いた。
「ちょっとだけ」
「ちょっと?」
「さっき、スライムが向かってきたときには、やはりちょっと怖かったし」
「それなら、身体強化すればいいじゃない。そうすれば体当りされても、全然痛くないわよ」
「そうか!」
それからは、陽向は戦う前には必ず身体強化をしていた。
そして、奥の部屋に着く頃には、魔法の発動にだいぶ慣れてきたようだ。
続けて私たちは第二層、三層へと最短距離で進んでいく。
今日は陽向がチームで戦うのが初めてなので、そのあたりの連携を練習したり、魔物が遠いうちなら陽向のファイヤー・ボールだけで倒していった。
数が多いときだけ、いつものように後衛のグレイグとジョンがサブマシンガンを使う。
もちろん、それを抜けてくる場合には前衛の二人や、雄一や芽依がいい仕事をしてくれた。
そして第三層の隠し部屋にくる。
「じゃあ、陽向。触ってみて」
私は陽向に石碑に触ってもらった。
「あっ」
陽向も、やはり何か授かったようだ。
「どうだった?」
「白魔法だって」
白の癒やしの力ね。
「いいじゃない」
「陽向らしいわね」
と、芽依。
後ろではジャックが隣りにいた雄一に聞いた。
「あの三人は何やってるんだ?」
「ああ……どうやら、魔法能力者はあの石碑に触れると、自分の素質に気づくみたいだ」
「ふーん? じゃあ、俺には関係ないな」
雄一は、うまく説明してくれたみたいね。
ここにいる皆は大丈夫だと思うけど、石碑に触れると新しいスキルが授かるなんて聞いたら、嫉妬する人もいるかもしれないからね。
そしてとうとう、私たちは第五層にやってきた。
ここでは前衛の二人に身体強化を使った戦闘を試してもらうことにする。
「では二人共、ここでは身体強化を試してみて」
私が、ジャックとブラッドに言った。
訓練場で何回か練習しているから大丈夫だと思うけど。
「おう。とうとう実戦だ」「わかった」
二人は腕輪に無属性の魔石を着けて、実戦では初めての身体強化に挑戦する。
私は、二人がちゃんと魔力を
二人共まだムラはあるけど大丈夫そうね。
あとは回数を重ねて慣れていけば。
「よさそうね。ではオークを呼ぼうか」
私がそう言うと、ジャックが笛を吹いて、近くのオークをおびき寄せた。
すると通路の奥に、三匹のオークが現れた。
最近は他の小隊も交代でここまで来ているから、思ったより現れた数は少ないわね。
二人が身体強化を試すには丁度いいわ。
「では、ここは一匹だけ先に倒して、あとの二匹は二人が身体強化の成果を試してもらうから」
「その一匹は、私が倒してもいい?」
芽依が聞いてきた。
芽依も魔法が使えるようになってまだ日が浅いから、実戦で魔法を色々と試してみたいのだと思われる。
それに今日はここに降りて来るまでの間、現れた魔物は後衛の三人がほとんど倒してしまったので、遊撃の芽依が魔法を使う場面は一度も無かったからだろう。
「いいわ」
その間にもオークはこちらに向かってきているが、芽依がそのうちの一匹に対して魔法を放った。
「ストーン・スパイク」
すると、オークの足元から二メートル近い石のスパイクが瞬時にせり出して、オークを串刺しにした。
土の中級魔法ね?
これって、小さくて軽い魔物だと突き刺さりにくいから、重量があって飛べないオークにはうってつけの魔法ね。
「やるじゃない。芽依」
「ふふーん」
でも、残りの二匹がこちらに向かって走り出したので会話はそこで中断した。
前衛のジャックとブラッドが前に出て、その二匹を迎え撃つ。
それ以外の皆は、二人が討ち漏らしたときに備えた。
するとジャックがオークの振り下ろした剣を盾で弾き返した。
以前だと、いくらジャックでも筋肉隆々のオークが振り下ろす剣を受け止めるのがやっとだったが、身体強化によって弾き返すことが可能になったようだ。
オークはその弾みでバランスを崩す。そこをジャックが剣で突き刺した。
ジャックが使っているのは片手剣だが、身体強化をしているので片手剣でも威力は十分だった。
ブラッドの方はオークが剣を振り上げた所を、盾を構えて突進してオークを突き飛ばした。
こちらも、身体強化によって体重の重いオークを簡単に突き飛ばせるようになったようだ。
オークが後ろにひっくり返った所を、剣でとどめを刺していた。
「二人共、すごいじゃない」
私が言った。
「身体強化はすごいな。オークの攻撃が、まるでゴブリンの様に感じられる」
そう言ったジャックは少し興奮気味だ。
「これなら、第六層の翼竜の攻撃も難なく弾き返せそうだ」
ブラッドも少し高揚しているようだった。
私は先程中断した芽依との会話に戻る。
「それで芽依は、新しい魔法を習得したのね? さっきのって土の中級魔法よね?」
「たぶんそう。アニメで見たのを試してみたんだけど」
やはり、魔法はイメージ次第でなんでもできると考えてよさそうね。
私ももっと中級魔法を色々試してみよう。
「みんな、すばらしいわ」
「第六層で無属性魔石をもっと集めて、早く全員が身体強化できるようにしたいな」
グレイグが言った。
「じゃあ、明日は第六層に入って、問題無さそうなら第七層よ」
「おう」「了解」「うん」「行こう」
皆が元気よく応えた。
そして最後に第五層の隠し部屋にやってきた。
陽向が石碑に触れる。
「防御壁だって」
「シールドね?」
やはり魔法能力者はみんな、ユニークな魔法が使えるみたいね。
もしかしたら、皆を守りたいって思っていたからこういう魔法が授かったとか?
わからないわね。
「でも、どうやって使うのかな」
「試してみたらいいんじゃないか」
雄一が言った。
「えーっと」
陽向はやり方がわからないのだろう。戸惑っている。
「魔法は基本的にイメージが大切よ。まずはジャックが持っている盾を想像してみて。そして詠唱は……たぶん『シールド』でいいと思う」
私が言った。
「やってみる……シールド」
すると、陽向の眼の前に魔力の盾が現れたようだ。
「やったじゃない」
ジャックが手を伸ばす。
「ここになにかあるのか?」
すると、空中で見えない壁に触ったようだ。
私と同様に芽依や陽向にはなんとなく見えているのだろうが、それ以外の皆にはよく見えないようだ。
おそらく見えても、空気が揺らいでいるように見える程度だと思う。
「ジャック、いつからパントマイムができるようになったんだ?」
ジョンが、からかい気味に言った。
「いや、本当に壁があるんだ。触ってみろよ」
ジョンも触ってみる。
「本当だ」
「でも、僕は前衛じゃないし、シールドが張れてもあまり役に立たないよね?」
陽向が私に聞いてきた。
「そんなことはないわよ。例えばそうねー……複数の魔物が襲ってきた場合、普通の盾では一匹の魔物を防ぐのがやっとだけど、もし魔法で全方向にぐるっとシールドが張れたら、非常に役に立つと思うわ」
「今まで、そういうことがあったの?」
「なかったけど、六層はこういう通路のダンジョンじゃなくて広い空間だから、今後そういう事が有るかもしれない」
「ということは、僕はシールドを全方向に張れるように練習しておいたほうがいいんだね?」
「できればね。でも、初めは小さい盾から始めて、少しずつ広げていけばいいと思うわよ」
「わかった」
「私も土魔法でよくやるんだけど、シールドで翼竜対策ができるんじゃない?」
芽依が陽向に言った。
「どういうふうに?」
「実際に第六層でやってみせるけど、翼竜が突っ込んできたら、直前で壁を出して激突させるのよ」
「うぇっ」
「なによ」
「なんでも」
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