第43話 アメリカへ
現在急ピッチで、魔道具「真実の鏡」を応用した監視カメラを世界の主要施設に設置し始めているそうだ。
普通の監視カメラと違うのは、画面半分には普通に見える映像、もう半分には真実の鏡に反射して写った映像が記録されるようになっている。
ちなみに、真実の鏡は写して見るだけなら魔石は必要ない。
今回はアメリカで、そのカメラの一つに例の鬼人が映ったということだ。
どうやら、その鬼人が化けているのは、アメリカの国防総省の高官らしい。
その鬼人を捕まえるのはアメリカ陸軍のテロ対策の特殊部隊、いわゆるデルタフォースが行うのだが、彼らは鬼人との対決は初めてなので万が一のために私が派遣されたというわけだ。
先程デルタの隊員たちは、ノースカロライナ州の基地で今回の作戦のブリーフィングを行っているらしいが、私はそのブリーフィングには間に合わないことが分かっていたので彼らとはワシントンDCで合流した。
そして今はデルタの隊員、二グループの八人と今回の責任者の中佐、計九人とともに兵員輸送車に乗り、鬼人が乗った車を追ってワシントンDCからバージニア州に入ろうとしているところだ。
今回も鬼人との戦いになればポチが活躍してくれると思い連れてきたのだが、膝の上にポチを乗せている私を、先程からデルタの隊員たちがチラチラと見ている。
一応私は野戦服に大尉の階級章をつけているので面と向かってからかわれることは無かったが、彼らの目を見れば「こんなか弱そうな少女が何をするのか。しかも子犬なんか連れてきて」と、心の中で思っているだろうことがうかがえる。
今回の作戦の責任者であるマクニール中佐が、私に説明してきた。
「この先で、別働隊が対象が乗った車を止めることになっている」
「中佐。そちらの大尉は……?」
白人の小尉が聞いた。
とうとう、私の事を聞いてきたわね。
「オオタ大尉はすでに鬼人との戦闘を経験していて、いざとなったらサポートしてくれることになっている。言っておくが、オオタ大尉はコーネル将軍のお墨付きだ」
「あの?」
コーネル将軍は、米軍の中では一目置かれているのかしらね。
皆が私に注目してきたので、私はニコリと笑顔を返した。
つい笑顔を振りまいてしまったけど、逆効果だったかしら。
「隊員の皆さんは、鬼人についてどこまで説明を受けているんですか?」
私が中佐に聞いた。
「コードネーム『鬼人』が異星人だということは聞いている。また容姿が魔族のようであり、魔法を使うかもしれないということも聞いているが……」
なんか、半信半疑みたいね。
「しかし、異星人なんて本当にいるんですか?」
黒人の一等軍曹が聞いてきた。
「ブリーフィングルームで、監視カメラに写った映像を見ただろ?」
「見ましたが」
「まあ、信じられないのは無理もない。私も未だに半信半疑だ」
「それで、先程のブリーフィングでは鬼人の戦闘能力については個体差が有るのでまだ分からないということでしたが、大尉はどの程度だと思われますか?」
今度は先程の少尉が私に聞いてきた。
これだけは言っておかないと。
「少なくとも身体能力は皆さんと同等以上だと思ってください。そして相手は魔法を使ってくる可能性が高いです。武器を持っていないからといって、油断はしないでください」
「でも、本当に魔法なんてあるんですか?」
先程の一等軍曹が聞いてきた。
この人たちには信じてもらわないと命取りになるかもしれないわ。
「ちょっと見せます」
私はそう言って、指の先に火を出してみた。
「「オー」」
「そして、この子はいざとなったら巨大な姿に変身しますので、間違って撃たないで下さい」
私はポチのことを紹介した。
そこに別働隊から無線が入ったようだ。
「対象がミリタリーロードに入るそうです」
通信担当の隊員が知らせてきた。
「では、住宅街に入る前、なるべく
中佐が指示した。
「了解」
「聞いたな、いよいよだ」
と、中佐が皆に。
「もしよろしければ、私が一人で相手しましょうか?」
私が申し出た。
「いや、なるべく我々で済ませたい。大尉は後ろにいて、もしもの時に介入してくれ」
やっぱりメンツがあるのかしらね。
「わかりました」
やがて私たちを乗せた車は道の両側に木々が広がる道に入った。
「道路を封鎖し、対象車両を停車させました」
無線が入った。
やがて、前方に二台の軍用車両が道路を封鎖して、その手前で乗用車が止められているのが見えてきた。
すると、私たちの後ろを走っていた二台が少し手前で停車して、同じ様に後方で道を封鎖した。
私たちを乗せた車が鬼人が乗った乗用車の三十メートル程手前で止まると、兵士たちがM4ライフルと呼ばれる銃を手に勢い良く車から飛び出していき、止められていた乗用車を囲む。
私は中佐と一緒に、彼らの少し後ろから様子を見ることにする。
しかし私は、念の為にいつでも動けるように身体強化をしておいた。
すると、止められた車の中からスーツ姿の男性が降りてきた。
「これはいったいなんだね?」
「ガザードさん、ご同行願えますか? 抵抗しなければ、手荒なことはしません」
と、少尉。
「理由を聞かせてほしい」
「理由はこれです」
少尉が手鏡を出してガザードに向けるとそれが光り、ガザードの変身が解けて鬼のような顔になった。
真実の鏡ね?
美月達が複製したものが、もう各国に配布されていたようだ。
隊員たちは異様な容姿の鬼人を生で見るのは初めてのはずだが、誰も動揺していないようだ。
もしかしたら心の中では動揺しているかもしれないが、表には出さずに微動だにしない。
しかしその時私は、その鬼人から魔法発動の兆候を感じた。
「離れて!」
私がそう言うと鬼人がこちらを見てきたが、魔法はそのまま発動され、彼の横の何もない空間から魔物が現れた。
三メートルほどの大きさの黒いピューマのような姿だ。
これって召喚なの?
「なんだこれは!?」
兵士の誰かが言って、そのピューマに銃を発砲したが効かないようだ。
そのピューマはその兵士を襲おうとする。
危ない!
「ポチ、あの魔物を抑えて」
「ワン」
ポチは大きな白いフェンリルに変身すると、その魔物に向かった。
魔物は前足で兵士を払い飛ばしたところだったが、すぐにポチに意識が向かい、二匹がにらみ合いを始める。
「フギャーオ!」「ヴァウ!」
そして、取っ組み合いが始まった。
ポチは負けてないし、ちょっとポチの方が優勢に見えるわ。
こっちはポチがなんとかしてくれるから、私はあの鬼人ね。
しかし、鬼人と私の間には数人の米兵がいるので、この状態で発射系の魔法を放つことはできないし、できるだけ任せてほしいと言われている以上もう少し様子を見るつもりだ。
私は腰につけていた魔法剣を手に持って、いつでも飛び出せるように身構えた。
鬼人はというと、正面にいた少尉の方に歩いて近づいていく。
「止まれ!」
少尉がそう言ったが、鬼人はそれに従わず少尉にさらに近づいた。
「撃て」
少尉の命令に兵士たちが鬼人に対して発砲しようとした。
すると鬼人は、兵士たちが発砲するよりも前にすばやく少尉に駆け寄って片手で少尉が持っていた銃の銃身を掴んで上にそらしながら少尉の背後に回り込み、もう片方の手で少尉の首を後ろから締め上げて人質にした。それによって他の兵士が銃を発射するのを牽制し、さらに隣の兵士を蹴り飛ばす。
兵士たちがトリガーに指を掛けて引くまでの僅かな時間だった。
身体強化はしていないように見えるけど、速いわね。
でも、囲まれたときは、たしかに魔法を撃つよりもこの方が早いか。
そして鬼人は、同様に周りにいた兵士たちを殴ったり蹴り飛ばしたりしていき、次々と兵士たちを無力化していく。
兵士は仲間に当たるから銃は使えなし、中にはナイフで対抗しようとしている兵士もいたが、鬼人はものともせずに倒していった。
とうとう、周りにいた兵士たちは全員が地面に倒れてうめいていた。
もう私が出ても、いいわよね?
「私がやります」
私は横にいた中佐にそう言うと、その鬼人の方へ歩み寄る。
「次は私が相手よ」
「ほう?」
鬼人はそう言うやいなや、同じ様に私に素早く殴りかかってきた。
「女性の顔を狙うなんて、最低ね」
私はそう言いながら、背を低くして彼の攻撃を避けながら、逆に私は魔法剣を持っていない方の手で彼の腹にパンチを入れる。
身体強化した私のほうが速かった。
「ぐふっ」
彼の顔には苦痛の表情が浮かび、私が殴った腹を片手で抑えて後ろに飛び退いた。
私はすぐに追いかけるが、鬼人は再び飛び退いて避ける。
私も鬼人も速度が速いので、後ろで見ている中佐は何が起きているのか、あまりよく見えていないに違いない。
すると今度は、鬼人が火魔法を放ってきた。ファイヤー・ボールだ。
私はそれを上に飛んで避けながら、空中で一回転しその間に魔法剣の水の刃を出しながら、着地と同時に鬼人に切りかかった。
鬼人は寸前でそれを避けて飛び退く。
「この!」
私のほうがちょっとだけど上回っているわね。
鬼人は先程召喚した魔物の方をチラッと見たが、ポチに喉を噛みつかれているのを見て、助けにならないと思ったようだ。
今度は、鬼人は別の魔法を発動した。
すると彼の右斜め前に一・五メートルぐらいの黒い半球型の塊が空中にできる。
あれは何?
鬼人がそれを私に向けて放つのかと思い、私は魔法剣を構えて身構える。
ところが彼は、それを道路を封鎖していた軍用車両に向かって放ち、彼はその後を追って走り出した。
え? まさか、逃げるの?
その黒い塊が当たった軍用車両は弾き飛ばされて、その黒い塊はさらに進んでいく。
何? あの魔法。
一種の闇魔法による盾みたいな感じ?
私は鬼人がまさか逃げるとは思っていなかったので、ちょっと遅れてしまった。
しかしその向こうには、道路が封鎖されていたために、解除されるのを待っている民間人の野次馬たちがいた。
その野次馬たちは、その不気味な黒い塊が自分たちの方に向かってくるのを見て、一目散に逃げ始める。
「待て!」
私はそう言って鬼人の後を追った。
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この物語はフィクションであり、実在するいかなる国、団体や機関とも関係ありません。
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