第41話 六層の探索2

 私たちは午後から第六層の探査の続きを行うことになった。

 昨日は第六層の四分の一程度しか探索できなかったので、今日は残りの探索と、さらに第七層への階段を見つけるのも目的の一つだ。

  

 私たちが駐車場に集まっていると、そこに美月がやってきた。

 

「あーら、美月じゃない。どうしたの?」

と、私。


「あーら、じゃないわよ。はいこれ」

そう言って美月は小さな丸型の盾、バックラーの様なものを手渡してきた。 


「これは?」

「芋虫の糸のコントロールを失わせる魔道具」

「えっ? もうできたの?」

「おかげでこっちは徹夜だったんだから」

「それはー、なんと言ったらいいか……ありがとう」

「とにかく、これを試してみて」

「どう使うの?」

「芋虫が糸を放ってきたら、そのバックラーに無属性魔力を流して防いで。すると、糸がコントロールを失って下に落ちるはず」

「そうなの?」

「あの糸は魔力に感応する性質があるから、おそらく芋虫が魔力で糸を操っていると思うのよ。だから、真実の鏡の魔法陣を応用して、糸を操っている魔力を無効化するの。本来は糸を絡め取る様なものを頼まれていたけど、下に落ちたら拾えばいいだけだから」


 あの芋虫の放った糸は、まるで糸が意思を持っているようにジャックや芽依に絡みついてきた。

 つまりそれは、芋虫が魔力で糸を操っていたわけだ。

 その魔力を無効化できれば、糸はただの丈夫な糸になり下に落ちる。

 あとは、芋虫を倒してそれを拾えばいいだけ、というわけだ。


「さすが、美月。天才じゃない?」

「お世辞はいいから。これから帰って寝るけど、結果はちゃんと報告してよ」


 お世辞じゃないんだけどね。


「わかったわ」

「あとで配る完成品は無属性の魔石カートリッジを着けて使えるようにするけど、これは試作品だから明美や芽依しか使えないわ。だから返さなくていいから」


 ということは、完成品ができるまでは私がこれを持って芋虫に近づかないといけないのね?


「オーケー」


「それじゃあね。あー眠い」

美月はアクビをしながら帰っていった。


「ねえ、姉御」

芽依が声を掛けてきた。


「何?」

「その役目、私にやらせてくれない?」

「え?」

「私も無属性の魔力が使えるし、昨日の汚名を返上をしたいわ」


 なるほど。

 

「わかった。じゃあ、任せるわ」

私は芽依にその魔道具を渡した。


「それじゃあみんな、出発するわよ」

私がそう言って、皆でダンジョンへ車で向かった。



 私たちが再び第六層に降りていくと、早速翼竜が襲ってきた。

 今日は、まずは今後のために徹甲弾が効くかどうかを確かめなければならない。

 

 ジョンが徹甲弾を装弾したライフルを構える。

 

「射程距離に入ったら、自分の判断で撃って」

私がジョンに指示した。


「了解」


 私はもしものときに備えて、魔法剣に土属性の魔石を装着して構える。

 もし徹甲弾が効かなければ、私が魔法剣で叩き切るつもりだ。


 翼竜が射程距離に入ると、ジョンが自分の判断で銃撃した。

 すると、徹甲弾が効いたようだ。

 ジョンの狙いも正確で、翼竜は頭に弾が当たって穴があき、空中で消えてしまった。

 そして緑の魔石だけが落ちてくる。

 

「効いたな」「これで、他のチームもここに入ってこれる」

ジョンとグレイグが言った。


 もし徹甲弾が効かなければ、翼竜は魔法の腕輪や魔法剣だけで対処しなければいけないところだった。

 他のチームは全員が魔法を使えるわけではないから、そうなると第六層の探索や魔物の間引きは、ハードルが高くなるはずだ。

 

「では、まずここからドローンを飛ばして地形図を作成しながら、第七層への階段を探すわよ」 


 私がそう言うと、ジョンがいつも使っているドローンよりも少し大きめなドローンを飛ばして、空中から偵察を始めた。

 

 二十分ほど経ったところで、ジョンが見つけたようだ。

「階段らしきものがあったぞ」


「どこ?」

私が聞いた。

 

「ここから二時の方向。ただし、魔物が守っているな」


「門番ってやつか?」

と、ジャック。


「もっと近くから偵察したいところだが、翼竜がドローンの近くを飛んでいて、ドローンが壊されないうちに一旦戻す」


「階段の場所が見つかっただけでも上出来だわ」

私が言った。


 それからドローンが戻ってくるを五分ほど待ったが、翼竜はドローンを追ってこなかったし、ドローンも無事だった。

 鳥類の中には赤外線が見えるものが存在する。 

 もしかしたら翼竜も、赤外線で体温を持った生物だけを判別しているのかもしれない。


「では、これより二時方向へ進み、第七層への階段を目指すわよ」

「「了解」」

私が言って、皆が応えた。 

 

 

 森は木と木の間隔が適度に空いていて、わりと見通しがいいし歩きやすい。

 木の根元には草が生えているが、ここに生息している芋虫は保護色というのだろう、草と同じ色なので注意して見ないと見落としてしまいそうだ。

 でも、私は気配察知が出来るので、不意打ちを食らうことは無かった。

 

 森を歩いていくと、早速私が芋虫を察知した。

「十一時の方向に一匹」 

 

「芋虫ね? じゃあ、早速魔導具を試してみる」

 

 芽依が先程のバックラーのような魔道具を前に構えながら、芋虫に向かう。

 

 芋虫は前回と同じ様に、十メートルほどの距離に近づくと糸を吐いてきた。

 それを芽依が魔道具のバックラーで受けると、糸はコントロールを失って下に落ちていく。

 

「うまくいったな」

と、ジャック。


 美月、うまく機能しているわよ。


 しかし、芋虫は糸が効かないと分かると、きびすをかえして森の奥へ逃げ始めた。

 その芋虫を今度はグレイグがサブマシンガンで倒す。

 

「ねえ、糸を吐き出させるだけ吐き出させてから、魔導具を使おうか」

芽依が私に提案してきた。


 始めから魔導具で防ぐと、芋虫はあまり糸を吐き出さないうちに逃げてしまうからだろう。

 研究所の方では、この糸を使った新しい装備を作ってみたいそうなので、それには糸が大量に必要になるからだ。


「糸に巻かれて苦しくないの?」

「最初のうちは大丈夫。ある程度巻き付くと身動きが取れなくなって、そこから急に締め付けてくるから、その時に魔導具を使えば」 


 昨日の怪我の功名ね。芋虫の攻撃パターンを経験しているからできる提案だわ。

 でも、全ての芋虫が同じ様な攻撃スタイルなのかしら。

 ちょっと心配だわ。

 

 私が心配しているからだろう、グレイグが言ってきた。

「とりあえず、やってみればいいんじゃないか? メイももし危なそうなら言ってくれ。俺たちがすぐに芋虫本体を攻撃するから」

 

 そうね。

 芽依の判断を信じよう。


「じゃあ、それで。でも、無理は禁物よ。そして必ず誰かと組んで対処するようにね」

私が芽依に言った。


「わかった」 

 

 芽依は次に芋虫に遭遇した時にその方法を実際に試していたが、そのおかげで糸は先程の四倍以上得ることが出来た。

 芽依が組んだ相手はジャックだ。糸を吐き出させている最中に、もし何かあったらジャックが芋虫を倒す準備をしていた。

 芋虫の糸にやられた者同士、馬が合うのかもしれない。

  

 私たちはそうやって魔物を倒し、魔石や糸を回収しながら奥へと進んでいった。

 

 

 森が少し途切れたところに来て、そこにいた芋虫一匹の相手をしていると、突然上空から二匹の翼竜が襲ってきた。

 私が感知できるより離れた所を飛んでいたのだろう、私が気づいたときにはこちらに向かって急降下してくるところだった。

 

「右上!」 


 私はそういうのが精一杯だったし、皆もそれでわかっただろう。


 私はすぐにそちらに向かって魔法剣を構える。 

 芽依とジャックは芋虫の糸をなるべく長く吐き出させようとしていたが、それを途中で諦めてすぐに芋虫を倒した。

 

 ジョンはすぐにライフルを上に向け、手が空いていた他の皆も魔法の腕輪に土属性の魔石を着けた状態で翼竜にストーン・バレットを連発する。

 しかし、急に現れたために狙いが定まらない。皆は、いままでの層で銃器ばかり使ってきたから、まだ魔法に慣れていないということもあるだろう。

 その間にも、二匹の翼竜は間近まで迫ってくる。

 

 すると、ジョンがなんとか一匹を徹甲弾のライフルで倒した。

 もう一匹は私をめがけて降りて来ていたが、私が土属性の魔法剣を起動して、足の爪で襲われる寸前に横にずれて翼竜の足を避けると同時に魔法剣で翼竜の片方の翼を切り落とした。

 片方の翼を失った翼竜は制御を失って、乱回転しながら後ろの木に激突する。

 激突したところを皆が攻撃をして、倒すことができた。


「ふう」


 するとここで私にレベルアップ酔が起きた。

 

 やったわ。これでまた一つ上がってレベルは29ね。

 これでブラッドとジョンを抜いて、先日一つレベルが上がった雄一と同じになった。

 次はレベル30のグレイグが目標だけど、そろそろ皆もレベルが一つぐらい上がる頃よね。

 もっと上げたいわ。


 そんな事を考えていると、ジャックに指摘された。 

「どうしたんだ? 嬉しそうな顔をして」

 

 私が皆よりレベルが三倍速く上がるのは、まだ内緒だ。

 

「え? あ。……ちょっとぐらいのアクシデントなんか、みんな大丈夫だな、と思って」


「しかし魔法の練習をもっとしないとな。いきなりだったとは言え、飛んできた翼竜を魔法で撃ち落とせなかった」

と、グレイグ。


「そうね。今後は魔法の訓練時間を増やしたほうが良さそうね」

  

 今までは魔石が貴重だから、訓練場ではそう何回も練習できなかった。

 でも、これからはそうも言っていられなくなるので、大佐に申請してせめて第一小隊だけでも魔石供給を今までの二倍にしてもらいたいところだ。

 

 

 私たちはさらに木々の間を抜けて、第七層への階段が見つかった付近へ向かった。

 ドローンからの映像では、森の中に直径三百メートルほどの木が無い広場があり、その中央に人工的な石積みがある。

 これまでこの階を探索して、他にはその様な石積みは無かったので、おそらくそれが第七層への入口だと思われた。

 

 その広場までそろそろという所で、先頭を歩くジャックが右手を小さくあげて、皆に止まるように合図した。

 後続の私たちは、姿勢を低くして音を立てないようにジャックの後ろから近づく。


 どうやらあと数十メートルで森を抜けてその広場に着くようなのだが、中心付近の石積みのあたりに大きな魔物がいるのが見えた。

 大きな翼竜が一匹と、その手前に数匹の大きな芋虫がいる。ここから見える範囲では芋虫は四匹だ。

 先程のドローンからの映像では、距離がありすぎて翼竜しかわからなかった。

 

 翼竜は石積みの上に着陸している状態だが、背丈は五メートル近くあり、頭の中央に角が一本生えている。

 まるでワイバーンみたいだが、鱗が無いので普通の翼竜の変異種だろう。

 

 その周りにいる芋虫は、今までの芋虫より色が濃く、体長は二メートルほど。

 おそらく、これも変異種だろう。

 

 魔物たちまでの距離は二百メートルほどだ。

 動かない所を見ると、まだこちらに気がついていないと思われる。

 

「少し戻って、作戦会議ね」 


 私がそう言って、皆で森の奥へ少し戻った。

 

「芋虫までいたわね。でもあれを全部倒さないと階段は降りられない可能性が高いのよね?」

芽依が聞いた。 


「おそらくそういうことなんだろう」

と、雄一。


「あれは変異種だよな?」

今度はジャックが聞いた。


「そうだと思う。そして、今まで出てきた変異種はかなり防御力が高かった。あれも、ヘタをすると徹甲弾も効かない可能性も考えておかないとな」

と、グレイグ。


「少なくとも芋虫の変異種の方は徹甲弾が効く可能性があるだろ?」


 ジョンがそう言ったのは、普通の芋虫が普通の銃弾でも倒せたことを考えると、変異種の芋虫もそれほど防御力が高くない可能性が有るからだ。


「おそらく、としか言いようがないが」


「あの翼竜と芋虫は連携して襲ってくるのかしら」

私が言った。


「そうなると、厄介だな」

と、ブラッド。


「どうやって攻略するかね」


「門番なら、あそこから遠くには離れない可能性があると思う」

芽依が言った。


「ということは、まずどこまで近づいたら動き出すかを確認したいわね。そしてどこまで離れれば諦めるのか。まず私が近づいて、相手の出方を探ってみるわ。皆は少し離れて続いて、何かあったら援護してくれる?」


「わかった」「気をつけろよ」

グレイグとジャック。

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