第40話 歓迎会とブリーフィング

 私たちは基地に戻ると、私とグレイグで大佐に第六層の報告に行った。

 まずは第六層の特徴を説明し、魔物が残した魔石の説明や、グレイグが芋虫の糸を持ってきたことなどを報告した。

 

「ご苦労。とうとう無属性の魔石を落とす魔物が出てきたか」

と、大佐。


「はい。一メートルほどの芋虫でした」

「その芋虫が吐いた糸や木々のサンプルは研究所に回し、詳細のレポートは後ほど提出します」

私とグレイグ。


「それでは明日の午前中、ブリーフィング・ルームで他のダンジョン攻略部隊のメンバーに、第六層の様子と魔物の特徴を説明してほしい。あと、魔石による身体強化の件もな」


 これって、私が前で説明するのよね?


「了解しました」

私が応えた。


 私たちは大佐のオフィスを出る。

 

 

「明日も第六層に潜って間引きかと思ったら、ブリーフィングになったわね」

私がグレイグに言った。


「それなら、今晩はメイの歓迎会をやろうか」

「それがいいわね」


 第一小隊は長い休暇を取ったばかりなので、次の休日は五日ほど先になる。

 酒を飲むなら休日の前日のほうがいいけど、ブリーフィングなら多少酒が残っていても大丈夫だろう……と思う。


 早速私が第一小隊の皆に歓迎会の一斉メールを送り、グレイグはレストランの個室を予約していた。

 

 夜までには時間が有るので、グレイグは大佐に報告するレポートを作成するために、そして私は明日の資料を作成するためにパソコンなどが置いてあるワークスペースに行った。

 

 私はパソコンに向かい、先程撮った写真などを使って、資料を作成していく。

 

 以前はこういう作業は苦手だったけど、レベルが上がった影響か、苦にならなくなってきたわ。

 

 

 歓迎会の時間になり、第一小隊の皆でレストランの個室に集まった。 


「私もお酒を飲んでいいの?」

芽依が私に聞いてきた。


「日本では二十歳からだけどヨーロッパでは十六歳から飲めるし、ここでは特に決まりはないわ。個人の判断に任されているから飲みたければ飲めばいいし、飲みたくなかったらノンアルコールやジュースでもいいわよ」

「じゃあ、飲んじゃお」


 飲み物やつまみが揃って、歓迎会が始まった。


 まずは私がビールを片手に、歓迎の言葉を言う。

「それじゃあ芽依。第一小隊にようこそ。もう、立派に役割を果たしているわね。昔のフランスの銃士隊は『皆は一人のために。一人は皆のために』なんていうモットーがあったみたいだけど、ここも同じよ。何かあったら、迷わず相談してね。力になるわ」


「ありがとう。頼りになるお姉さま、お兄さま方に出会えてうれしいわ」

「それじゃあ、チアーズ」


「「チアーズ」」


 皆でビールを飲みほした。


「この中で一番頼りになるお兄さまって、やはり俺だよな?」

ジャックが芽依に聞いた。


 それを聞いたジョンがからかう。

「皆の代わりに芋虫に捕まってくれて、本当に頼りになるな」


「あれは、メイが捕まったから、一人じゃ寂しいだろうと思ってだな……」

「ジャックの方が先だった気がするぞ」

「うっ。もう、この話はよそう」

「記念写真でも撮っておけばよかった」


「あはは」

芽依が笑った。


 芽依の顔は赤くなっていて、すでに酔っ払っているっぽい。

 

 きっと初めての飲酒なのね?

 飲ませないほうがよかったかしら。


「そういえば、メイと一緒にもう一人いたそうだな?」

グレイグが聞いた。


「ああ、陽向君ね」

私が応えた。


「その彼はどうしたんだ?」

「彼も魔法能力者だったんだけど、大学に進学したいそうよ」

「おしかったな」

 

 芽依は、だいぶ酔が回ってきたようだ。

「ひなたー。なんで残らなかったのよー」


 ちょっと、ろれつも回らなくなっているようだ。


「まあ、人の考えは色々だからな」

と、雄一。


「あいつは、昔から根性がないのよー。首根っこを抑えて、ヒック、無理やり残せばよかったわー」 


 ああダメだ。

 酔っ払ってる。

 

「おい。何杯目だ?」

ブラッドが聞いた。


「まだ一杯目ね」

と、私。

 

「ヒック。だいたいさー、男はみんな根性がないのよー。ねー姉御あねご……」 

芽依は意識が朦朧もうろうとしてきたようだ。 

 

「部屋に戻って寝る?」


「まだまだだいじょー……」

そう言いかけながら、芽依は私に寄りかかって寝てしまった。


「ちょっと彼女を部屋に置いてくるから、皆は適当に飲んでてね」


「ああ。一人で大丈夫か?」

と、雄一。


「心配してくれてありがとう」


 私はそう言うと身体強化をして、芽依をひょいと抱き上げて、ニコリとした。

 

「愚問だったか」 

 


 

 翌日の午前中。 

 ダンジョン攻略隊の全員がブリーフィング・ルームに集まった。


 ところが芽依の具合が悪そうだ。


「大丈夫?」

私が聞いた。


「なんか頭が痛くて」 


 どうやら芽依は、二日酔いみたいね。


「昨日の説明をするだけだから、もし調子悪かったら、部屋で休んでいていいわよ」

「大丈夫……」 

 


 やがて大佐たち幹部も入室してきた。

 今日はコーネル将軍も説明を聞くようで、一緒だ。

 

 まずはカーティス大佐が、今日のブリーフィングの趣旨を述べる。

「昨日、第一小隊が第六層へ入った。まずはその様子を説明してもらう。では、オオタ大尉」

  

「はい」


 私は返事をして前に出て、大型モニターに写真を映しながら説明を始める。


「第六層は、ご覧の通り広い空洞でした。双眼鏡での簡易計測によると、広さは直径が五キロ程、高さは一番高い中央付近で一キロ程です」


「木が生えているようですが、これは本物の木なんですか?」

他の小隊の小隊長が聞いた。


 彼が丁寧な言葉で聞いたのは、私の方が階級が上だからだ。

 そして、彼もダンジョンの中に木が生えているのが信じられなかったのだろう。


「枝は手で折れますし、地球の木と同じようでした。サンプルを研究所の方に回してありますので、後ほど詳しい分析結果が出ると思います」


 他に質問がないのを見て、私は次の説明に移る。

「次に、この層の魔物です。二時間ほど探索した結果ですが、二種類の魔物が出てきました」


「なんだって!」「二種類?」

皆が少しざわついた。 


 私はモニターに翼竜の写真を映す。

「まずはこの翼竜です。体長は三メートル程。この翼竜は森の上空を飛んでいて、五百メートル以上離れた遠くからでも我々を発見し、降下して襲ってきました。倒すと風属性の魔石を落とし、弱点は土属性の魔法でした。普通の銃弾では致命傷を与えられず、銃器を使用するのであれば徹甲弾などを用意する必要がありそうです。これは次回に第一小隊が検証する予定です」


 徹甲弾というのは、貫通力を高めた銃弾だ。

 

「やはり、層が下になるにつれて、魔物も強くなるのは変わり無いのだな?」

コーネル将軍が聞いてきた。


「はい。ただし、もう一種類の魔物。芋虫の方は普通の銃弾も効きました」

私はそう言いながら、モニターの写真を芋虫に変える。


「ふむ」

「そしてこの芋虫は十メートルほどまで近づくと糸を吐き出して、それを自在に操り獲物を捉えようとしてきますが、この糸は非常に丈夫でナイフなどで切ることができません」


 それを受けて大佐が追加説明をする。

「今大尉から説明があった糸については、研究所の方から分析の中間報告が上がってきている。それによると強度は炭素繊維の十倍以上。そして魔力にも感応するらしい。これは研究所の正式な見解ではないが、まるで物語に出てくるミスリルのようだと言っていたな」


「ミスリルだって?」「うそだろ?」

再び皆が話し出す。


「この糸は有用なことがわかったので、今後この第六層に入る部隊は、極力この糸を持ち帰ってもらうことになりそうだ。研究所の方で、この糸を使った装備などを作ってみると言っていた」


「そのためには芋虫に糸を吐き出させる必要がありそうですが、危険ではないのですか?」

と、前の方の誰か。


「採取方法については検討中だ。そして最後にもう一つ。大尉。貴官が提唱した魔石と身体強化についても、皆に説明してくれ」


「はい。実はこの芋虫は無属性の魔石を残します。そしてこの無属性の魔石は……」


 私は、魔法の腕輪と無属性の魔石カートリッジによって、身体強化魔法が使えることを説明した。

 

「諸君聞いてのとおりだ。今後はこの魔石を使うことによって、魔法適性者は身体強化をすることができるようになる。個人差はあるだろうが防御力や力が増し、魔物との接近戦が楽になる。前衛や遊撃は積極的に使うことになるはずだ」

と、大佐。


「すごぞ」「ファンタジーだ」 

「それで、どうやって使うのです?」 


「第一小隊が実証及び習得済みなので、第一小隊のメンバーからレクチャーを受ける時間を設けることになるだろう」

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