第37話 芽依の紹介
芽依を連れて大佐に報告しに行った後、私は芽依へのガイダンスにも付き合った。
例の、基地での生活に必要なガイダンスと、ダンジョン関係のガイダンスだ。
芽依があまり英語が得意ではないと私が説明すると、ガイダンスの係員が基地の備品の翻訳機を貸し出してくれた。
制服の胸ポケットに収まるぐらいの大きさで、翻訳機本体のマイクで拾った英語は自動的に翻訳されてイヤホンから日本語として流れてくる。
そしてイヤホンの途中に有るマイクで日本語を拾うと、今度は英語に翻訳されて本体のスピーカーから流れるといった具合だ。
今では異星人のことをコードネームとして「
頼もしい限りだ。
そのあと私は、芽依に基地の施設を案内しながら、一緒に夕食をとりに食堂に行った。
食堂の入口で二人でメニューを見ていると、そこにローザと美月もやってきた。
「ハーイ、アケミ」
「あっ、ローザ。美月も」
「その子は初めて見るわね」
と、美月。
私は芽依を二人に紹介する。
「この子はメイ。今日からダンジョン攻略部隊に入ることになったの。彼女はローザ、考古学者よ。隣は美月、魔導具の研究者ね」
ローザがいるので私はすべて英語で紹介するが、芽依はそれも翻訳機を通して聞いている。
「はじめまして、メイ・ヨシダです」
「よろしくね」
と、ローザ。
「よろしく。魔導具の研究者と紹介されたけど、本来は電子工学の専門家よ」
美月が言ってきた。
「そうなの?」
私が驚いて聞き返した。
「電子工学と似たところが有るから、魔導具の研究を始めたのよ。そうしたら、今では本業になってしまったわ」
「そうだったんだ。でもまあそうか。魔導具の専門家なんて、今まではどこにもいなかったわよね」
「それじゃあ立ち話もなんだし、四人で一緒に食事にしない?」
ローザがそう言ってきたので、四人はそれぞれ端末で好きなものを注文し、席に向かった。
「そうだ。あのレベル測定の魔導具は、あとで返しに行くわね」
私が食べながらローザに言った。
「いつでもいいわよ。でも、昼にユウイチが魔導具を借りに来たときにチラッと聞いたけど、メイのレベルとかを調べたの?」
「そう」
「よかったら、結果を聞いてもいい?」
私は芽依に確認してから教えることにする。
「二人にメイの魔法属性とかを教えてもいい?」
「別に、大丈夫」
「芽依は現段階で無属性魔法が使える魔法能力者よ。レベルは24だった。それで、お試しでダンジョンの一層に行って石碑に触れたら、魔力制御を覚醒したわ。多分他の階の石碑に触れれば、新しい魔法も使えるようになると思うんだけどね」
「それは楽しみ」
と、芽依。
「そうだったんだ。あれ? でも、二人じゃなかったんだ?」
ローザが聞いた。
「もう一人の男の子、芽依の幼馴染で陽向君っていうんだけど、彼は大学に行きたいらしいわ」
「そうなのね?」
「そうだ、ちょうどよかった。美月に相談があるんだけど」
「なに?」
「身体強化って無属性魔力を使っていると思うんだけど、魔法の腕輪に無属性のカートリッジを着けたら、魔法適性者でも身体強化ができるんじゃないかと気がついたの」
「……できる可能性はあるわね」
「やっぱり? 今度試してみたいわ」
「でも、今は手持ちの魔石の数が少ないから……あれを出すには大佐経由でうちの上司に申請してね。これから『真実の鏡』用にも、もっと必要になりそうだし」
「数が少ないからねー。わかったわ」
あとで大佐に相談してみよう。
次の日の朝。
私は芽依を連れて訓練場にやってきた。
これから第一小隊の皆に紹介するところだ。
「姉御? 私はあまり英語が得意じゃないから、その辺りも皆さんに知っておいてもらったほうがいいと思う」
芽依が言ってきた。
彼女は基地で貸し出された翻訳機をポケットに入れている。今の言葉が英語に翻訳されてそのスピーカーから流れてきた。
でも、時々うまく翻訳できない単語もあるようだ。
例えば、今芽依が言った「姉御」は、そのまま「アネゴ」としてスピーカーから流れてきた。
一応スラングの部類だからだろう。
「姉御はやめてよ。いいわ。とりあえず私が紹介するから」
私は芽依にそう言ってから、皆に紹介を始める。
「みんな、彼女はメイ・ヨシダよ。高校を卒業したばかり。私の預かりになったので、この第一小隊で一緒に戦ってもらうことになったの。英語はあまり得意じゃないから、変なことを言ってもおおめに見てやってね。それで、彼女は空手が得意で魔法能力者よ」
「おお」「カンフーか?」
空手と聞いて、皆が興味を持ったようだ。
「カンフーと空手は、ルーツはいっしょだけど、ちょっと違う。空手は沖縄で発展した武術で、カンフーは中国武術」
芽依が翻訳機越しに言った。
「そうなのか」
と、ブラッド。
「それじゃあみんなを紹介するわね? まず、筋肉ムキムキのがジャック。通称はマッチョ……」
以前ジャネットが私に皆を紹介した時のような感じで、皆の名前と通称を紹介していった。
「それで、『アネゴ』ってどういう意味だ?」
メンバーの紹介が終わるとジャックが聞いてきた。
あっ。さっき芽依が言ったのをまだ覚えていたんだわ。
お姉さん、とでも言っておこうか。
すると、私が答えるより先に雄一が答えた。
「スラングで、英語で言うと……ボス・レディだったか」
あっ。
「なんだ。ぴったりじゃねえか」
「ちょっと、みんな待って」
私はこのままだと、私の呼び名が「アネゴ」か「ボス」に変わりそうなので、待ったを入れたのだ。
「ウンウン」「ぴったりだ」「決まりだな」「じゃあ、これからはボスってことで」
と、皆。
ダメだー。
私は頭を抱えた。
「それで、メイの通称はどうするか。何か希望はあるか?」
グレイグが芽依に聞いた。
「できれば、私はメイで」
「よし。じゃあ、メイで決まりだな」
「なんか、私の時と違うわねー」
私が恨めしそうに言った。
「気のせいだ」
「そうそう」「じゃあ、練習を始めようぜ」
と、皆。
もう。
皆は自分の練習を始めた。
えーっと、それじゃあ芽依は……。
「芽依は、何か武器を使ったことは有る?」
「私は今まで空手だけ」
「拳銃とか、使ってみたい?」
「あまりピンとこないけど」
私の時は拳銃の扱いも練習させられけど、それは後でもいいかな。
私はダンジョンに入って拳銃を使う必要性は感じなかったし、これから潜る第六層以降にはそろそろ拳銃が効かない魔物が出てくる可能性が高いし。
それなら、始めから魔法を練習してもらって、それを極めてもらったほうが役に立ちそうね。
「それじゃあ芽依は、魔法の腕輪を使って、魔法の練習をしようか」
「うん」
「それで、まず攻撃魔法は四つの属性が有るの。火と水、風と土ね。魔法の腕輪でそれを発動する場合、それぞれ赤、青、緑、黄色の魔石カートリッジをつければ自分に素養がない魔法も使えるわ。例えば私は土魔法の素養はないけど、こうやって魔法の腕輪に黄色の魔石カートリッジを着ければ土魔法を使える」
私はそう言って腕輪に黄色の魔石カートリッジを取り付けた。
「そうえば、レベル測定の魔導具には黒いのも付いていたみたいだけど、あれは?」
「あれは闇属性ね。まだわかっていないことも多いけど、姿を変えたり消したりが出来るみたいね」
「へー?」
「魔法はイメージが大切だから、まずは見本を見せるわね。ストーン・バレット」
私は石礫(いしつぶて)の魔法で、的を狙った。
すると、五センチ程の尖った石が現れ、それが高速で飛んで三十メートル先の的を射抜いた。
「すごい」
芽依は驚いている。
「芽依の魔法の腕輪は申請をしているから、明日には用意できると思う。今日は、私のを貸すからそれで練習してね」
私はそう言って、自分の魔法の腕輪を芽依に渡した。
「うん」
芽依は腕輪をはめると、見様見真似で右手を前に出す。
「ストーン・バレット」
三センチほどの石が現れて、手で投げるぐらいのスピードで的に向かって飛んでいった。
「初めてにしてはいいんじゃない? 魔法の腕輪による魔法でも、イメージ次第である程度だけど石の大きさや速度、威力は変わるから練習してみて」
「わかった」
私は芽依が魔法の練習をしているのを後ろから見ていた。
だんだん魔法の射出スピードも上がってきたし、いい感じね。
やはり、見本を見せると上達が早いわ。
芽依はストーン・バレット以外にも、ゲームなどで定番のストーン・ウォールも試していた。
さて、あとは芽依の武器をどうするか。第五層までなら身体強化した素手でもいいんだろうけど。
芽依は空手をやっていて武器は使かったことがないと言っていたから、剣は合わないわよね。
なんか手にはめて使う武器……たとえばナックルみたいな魔導具でもあればいいんだけどね。
あとで美月に相談してみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます