第35話 お試し

「二人共、今からスライムと戦ってみない?」

私は芽依と陽向に提案した。


「え?」「スライムがいるんですか?」


 二人は顔を見合わせた。


「そう」


「見てみたい」

「戦ってみたい」

陽向と芽依。


「やっぱり、あなたはそう言うんじゃないかと思った」

私が芽依に。


「いいのか?」

雄一が聞いてきた。


「大佐から、一任されているから」

「なら、お試しだな」


 私たちは食事を終わらせて、四人でダンジョンに向かうことにした。

 その間、他の第一小隊のメンバーたちには、自主訓練をしていてもらう。


「でも、部隊に入るまでは見せてはいけないことも有るから、移動中は二人共目隠しをしてくれる?」

私が二人に言った。


「わかった」「はい」 

 

 

 私たちは雄一の運転で、ダンジョンに四人でやってきた。

 二人の目隠しは、ダンジョンに入ったところで外した。

 

 目隠しを外すと、二人が辺りを見回す。


「ここは……?」 

陽向が聞いてきた。


「いわゆる、ダンジョンね」

「「え?」」

 

「さあ、第一層はスライムだから簡単よ。まずは見本を見せるわ」


 私がそう言って、皆を先導して奥へ歩いていく。

 他の小隊によって間引きされているので、あまり数がいないようだが、私は気配察知でスライムを見つけてそちらへ向かった。

 

 角を曲がると、察知した通りスライムが二匹いる。 


「本当にスライムだ!」「目はないの?」

陽向と芽依。


「そう。目があれば可愛かったのにね。それで、スライムはジャンプして体当りしてくるけど、当たっても大したことはないから大丈夫よ。それじゃあ、倒してみるわ」


 私は、一匹をウインド・カッターで、もう一匹は私に向かってジャンプしてきたところを素手で殴って倒した。


「わー。本当に魔法だ。倒すとゲームみたいに消えるし」

「それに、魔石みたいのも落とすのね?」

陽向と芽依が感動している。


「次に出てきたら、二人もやってみて」


「わくわくするわ」

と、芽依。


「僕は素手はちょっと……」


 陽向がそう言ったので、私はナイフを貸してあげた。

 

「じゃあ、陽向くんはこれで」 


 早速、赤いスライムが二匹出てきたので、芽依は素手でスライムを倒していた。


「なんか面白いわ」


 陽向はビクビクしながらも、貸してあげたナイフでスライムを倒してみる。 


「えい!」


 私たちはそうやって適当にスライムを倒しながら、第一層の奥の部屋までやってきた。

 途中に出てきたスライムは、多すぎず少なすぎず、お試しとしてはちょうどよかった。

 

「ねえ二人共、この石碑に触れてみて」


 私が言うと、芽依はさっと石碑に触れ、陽向は恐る恐る触れた。


「何か聞こえた?」

私が聞いた。


「……魔力制御覚醒って聞こえた気がする」

「僕も」

芽依と陽向。


 魔力制御覚醒?

 

「二人共何か聞こえたのか?」 

と、雄一。


「そう、他の人には言ってないけど、魔法能力者の一部は、この石碑に触れると何かスキルをもらえるのよ」

私が説明した。

 

「ああ、始めに明美が聞いていたのはそのことか」

「そう」

「それは、すごいな」 

「一応これは、まだ内緒で」

「わかった」


 ローザはここでは何も得られなかった。

 それは、本人が戦いが好きじゃないって言ってたからだと思ったのに、同じ様な陽向くんが得られたのはなぜかしら。

 

 ローザは始めから白魔法やテレポートというユニーク魔法が使えたから、これ以上必要なかったってこと?

 それとも、陽向くんは自信が持てないだけで、心の底では戦いを望んでいるのかしらね。


 でも、魔力制御って、魔力の制御がうまくできないからこういうスキルを得たのかしら。

 とすると、どうやらここでは、その人に必要なスキルが授かるみたいだわ。

 

 私と同じ様に「成長」だったら早く強くなってもらって、世界を救うのはこの二人に任せようかと思っていたのに。

 やっぱり、私がやるしかないのね。


「魔力制御覚醒ということは、魔法がうまく使えるようになったということですか?」

陽向が聞いた。


「そうだと思うわ」

私が答えた。


「私は、もっと強くなりたい」

と、芽依。


「誰かを守るために強さを求めるならいいわ」


「芽依は、僕を不良グループから守ってくれたんです。でも、相手の人数が多かったから、それでトラックに隠れたら、気がついたらここの病院に」 

と、陽向。


「なるほどね。それなら、ぜひ私たちと一緒に人々を守るために戦ってほしいわ」


「……私。ここに残る」

芽依が言った。


「でも、準備もあるだろうから、今日は一旦家に帰ってからね」

「わかった」


「それでさっきの無属性魔力だけど、それを使いこなせば身体強化ができるわよ」

私が陽向に言った。


「それって、私も?」

芽依が目を輝かせて聞いてきた。


「そう」

「身体強化できればもっと強くなれるのよね?」


「そう。見てて」


 私はカバンから魔導具を出して、身体強化をしてからもう一度レベル測定をした。

 すると、レベルの数字は56になった。

 

「すごい。二倍じゃない」

「さっき、あなたの拳を止めたのも、このおかげ」

「私、絶対仲間に入れてもらう」


「まずは、ご両親に許可を貰ってね」

「うちの親は放任主義だから、許可はいらないと思うけどね」


「僕は……争いは向いてないと思うし、やっぱり大学に行かないと……」

と、陽向。


「親が決めたことなんて、無視すればいいのよ。一緒にやろうよ」

芽依が陽向に言った。


「でも……」


「まあ、人の生き方はそれぞれだ」 

雄一が言った。



 私たちはダンジョンを出て、二人には一応目隠しをしてもらって基地に戻ってきた。


 私は大佐に連絡を取る。

「大佐。詳細は後ほどご報告しますが、芽依さんの方はここで一緒に戦いたいそうです。陽向くんの方は大学に進学したいと言っています」


(そうか。わかった)

「これから、二人を一旦家に送りたと思いますが」

(許可する。ただ、ここのことを漏らさないように念を押しておいてくれ。そしてゲートを通る際には今回は二人共目隠してもらってくれ)

「了解しました」


「じゃあ、これから二人を家まで送るけど、ここの事や魔法の事は誰にも言わないでね」

私が二人に言った。


「はい」「わかったわ」

陽向と芽依。


「雄一はこのまま車の運転を頼めるかしら。二人共、東京西部に住んでいるらしいから」

「いいぜ」


 私たちは基地の車を借りて、ゲートを通り東京の米軍横田基地に出る。

 もちろん二人には、目隠しをしてもらっていた。

 

 横田基地の中をしばらく走ったところで二人には目隠しを外してもらう。

「もう、目隠しを外していいわ」


「やっぱりここは横田基地だったのね。ということは、東京の地下にはあんな大きな空洞があるということ?」

芽依が聞いてきた。


「今度ここに来た時に、もっと詳しく教えてあげるわ」


 私たちは雄一の運転で、まずは陽向の家に向かった。

 日本での時刻は夕方の4時頃だ。

 

 米軍基地をよく利用する関係上、私たち月で活動する国連軍の階級章は米空軍と同じにしてあるので、基地の門で兵士が私に敬礼してくれた。

 それを見た芽依も、何か思うところがあったようだ。

 多分、二ヶ月前まで派遣社員だった私が大尉に昇格しているわけだから、自分もすぐに昇格している姿を思い浮かべているのかも知れない。

 

 ところで、月で働いている兵士や職員たちは地球と行き来できるゲートが出来てからは、半数ぐらいが地球から通勤しているようだ。

 皆はだいたい半月ぐらいで通勤と常駐を交代しているのだが、私は月の寮に寝泊まりしていて自宅にはまだ帰っていない。

 自宅は横田基地から車で二十分ほどの場所なので自宅から通勤してもいいのだが、それは運転免許を取って自分で運転出来るようになってからにしようと思っている。




 横田基地を出て西に向かう道を進んでいると、交通事故現場に遭遇した。

 ワンボックスカーが横倒しになっていて、二人の人が救助活動をしているようだ。

 でも、手こずっているように見える。

 

 こういうのって、たしかガソリンに引火するかも知れないのよね?

 

「助けなきゃ」

「おう」 

私が言って、雄一が応えた。


 雄一は事故車の手前に車を停める。

 三十メートルぐらいは離れているので、もし火が出てもすぐにはこの車には影響はないと思われる位置だ。


「二人はこのまま待っていて」

私は芽依と陽向にそう言って、すぐに車を飛び出した。


 私は横転している車に走り寄り、救助活動をしている人に聞く。

「中に人がいるんですか?」


「ドアが歪んでいて開かないんだ。おまけに横転してこの通り、フロントの窓から出そうにも出せなくて」 


 フロントガラスの部分が道路の電柱に接触していて邪魔になって、フロントガラスの部分から出すのも無理そうだ。

 

「手伝います」

私はそう言って、つい、月にいるときの調子で身体強化をした。 

  

 あら? うっかりやっちゃったけど、ここは地球なのに身体強化出来たわ。

 でも、今はそれより。

 

 私は横転しているワンボックスの上に飛び乗り、まずドアを開けようと力を入れたら、ドアがバキッと音を立てて外れてしまった。

 

 下で見ていた二人や、対向車線で野次馬しながらゆっくりと通り過ぎようとしていた運転手が驚いた顔で見ている。


 あっ。やってしまったかも。


「なんか、もろくなっていたみたい♡」

私はそう言って取り繕い、すぐにドアを横に置いた。


 よく考えれば、女性が片手で金属製のドアを軽々持ち上げている姿は異様だったのだろう。

 私を見ていた先程の運転手は、私の方に気を取られてよそ見をしていたので、前の車にオカマを掘ったみたいだ。


 あーあ。しーらないっと。


 そこに雄一も上に登ってきた。


「私が中に入って下からこの人を持ち上げるから、雄一は引っ張り上げてくれる?」

「わかった」 

 

 私はワンボックスの中に入り、気を失っている運転手を抱えあげて上にいる雄一に送る。

 

 やっぱり、月の大空洞にいるときよりはちょっと弱いけと、それでも同じぐらい力が出ているわ。

 そういえば地球にも魔素はあるって言ってたっけ。

 

 雄一は運転手を上から引き上げると、下にいた先程の二人と協力して運転手を下に降ろした。

 雄一も結構重い男性を割と簡単に持ち上げていたので、月でのレベルアップのおかげかもしれない。

 

 そして、三人で横転した車から少し離れた所に運んでいった。

 

 私もワンボックスから出ると、すぐに三人のあとに続く。

 その直後ワンボックス車から火の手が上がった。

 

 あっ。間一髪だったわね。

 

 そこに救急車と警察がやってきたので、雄一と先ほどの二人が警察に事情を説明していたようだ。

 おそらく、雄一は私たちのことを横田基地の米兵だと説明しているに違いない。

 

 その間に事故車の運転手は救急車が運んでいき、あとから来た消防は消火活動をしていた。

 

 


 ーーーーーーーーーーー

 

 この物語はフィクションであり、実在するいかなる国や団体、機関とも関係ありません。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る