第34話 二人のレベル

 大佐がやってくるまでの間に、私は名前を聞いてみる。

「先程も言ったけど、私は太田明美。二人は?」 

 

「ぼ……」

 

 男子が自分の名前を言おうとすると、女子のほうが止めた。


「簡単に言っていいの?」

「でも……」 

 

 二人はコソコソ、あーでもない、こーでもないと話していたようだが、やっと話がまとまったようだ。


「僕は小野陽向おのひなた」 

「……私は吉田芽依よしだめい

結局、自己紹介をしてきた。


「それじゃあ、陽向と芽依って呼んでいい? 私も明美でいいから」


 二人はうなずいてきた。

  

 そこに大佐がやってきた。私が勧めた通り兵は連れてこずに、少佐と二人だ。


「大尉。ご苦労」


 私は敬礼して出迎えた。


 敬礼を終えると、私はカーティス大佐に歩み寄る。

「ちょっとお耳を拝借します」

そう言って、小声で話した。

「大佐。実は、二人はどうやら魔法能力者のようです」


 私は先程二人を見た時に、体に魔素がまとわりついているのを感じていた。

 ローザの時もそうだったが、魔法能力者はこの魔素が濃い月の大空洞にいると、自然と体に魔素がまとわりついてくるようだ。

 と言っても、身体強化のときのように濃密なものではなく、薄っすらという感じだ。


「そうなのか?」

「まだどんな能力かはわかりませんが」

「貴重な人材だな」

「それでは、私がスカウトしてみますか?」

「できるかね?」

「同じ日本人ということで彼らも話をしやすいのではないかと思います。ある程度真実を話さなければいけないと思いますが、場合によっては魔法のことなどを教えたほうが食いついてくるかも知れません」

「魔法をか」

「二人共、根は真面目そうなので、残らないことになっても黙っていてくれそうな気がします」

「ふむ……わかった。二人のことは貴官に一任しよう」


 私は芽依と陽向の方に戻る。


 えーっと。

 この時間だと二人も昼はまだかしらね。


「ねえ二人共、お腹すいてない?」 

 

「すいてるわ……」

「僕も」

芽依と陽向がお腹を触りながら。


「それなら、食事をしながら話そうか」


 レストランの個室より、食堂のほうがいいわね。

 その方が、二人にこの基地の雰囲気を感じてもらえそうだから。


 私はそう思って、二人を食堂に連れて行くことにした。


 歩いて向かう間に、私は雄一に連絡を取る。

「ねえ、今民間人の二人と一緒なんだけど、ローザからレベルを測る道具を借りて食堂に持ってきてくれないかしら。できればその後、雄一も一緒に食事を」 


(わかった)



 食堂に着くと、少し早い時間なので食堂はすいていた。

 

「何が食べたい? 私のおごりよ」

と、私が横の壁に表示されているメニューを示す。


 この食堂は基本無料だが、二食目以降の注文は有料だ。


「何があるの?」

芽依が聞いた。


「メニューは英語だけど、和食もあるわ。例えばあれ、『とんかつ定食』とか。ここのとんかつは結構美味しいのよ」


「じゃあ私は、とんかつ定食」

「僕はどうしよう……ピザで」

芽依と陽向。


「それじゃあ、私もとんかつにしようかな」


 私は自分の支払いで三人分の食事をオーダーして、それをサーバーから受け取ると三人で端の席に向かう。


「さあ召し上がれ」


「ありがとう」

陽向はすぐに食べ始める。


 しかし、芽依はすぐには食べない。

 

「芽依ちゃんもどうぞ。おごったからと言って何も要求しないから」

「ねえ、その前に。ここはどこなの?」

「わからないと、不安?」


「不安なわけないじゃない」

芽依はムキになって食べ始めた。


 ずいぶんと勝ち気な性格みたいね。


「そうね。今はまだすべてを言えないけど、ある場所の地下、とだけ言っておこうか」

「こんなに広い?」


「私も初めて見た時は驚いたわ」

「明美さんは歳が近そうだけど。さっき大尉って呼ばれてた?」

「そう。私は去年高校を卒業してまだ一年だから、あまり歳は違わないわ。そういえば、あなたたちの学生服は見たことがあるけど」

「私たちは城西秋川高校よ。今日は卒業式だった」

「あの高校? 私の隣町じゃない」

「じゃあ、もしかしたら明美さんは昭西出身?」

「そう」

「近所なのね」


 そう言った芽依と陽向の表情が少し柔らかくなったようだ。

 二人は私が隣町の出身だとわかって、先程よりも親近感を抱いてくれたに違いない。


「高校を出て働いていたら、派遣社員として偶然ここで仕事をすることになって、そうしたら軍にスカウトされたのよ」

「強いから?」

「まあ、簡単に言えば」


 そこに雄一がやってきた。

「借りてきたぜ」 

そう言って雄一はテーブルの私の横にレベル測定の魔導具を置く。

「二人って日本人だったんだな?」


「そう、小野陽向君と吉田芽依さん。それでこの人は同期の梶原雄一」

私が紹介した。


「よろしくな」

「よろしくおねがいします」

「よろしく」


「俺も飯を持ってくるわ」

そう言って雄一はサーバーに向かう。


「今の、明美さんの彼氏?」

芽依が聞いてきた。


「な、わけないじゃない」


 芽依がニタッとした。

「それにしては、なんか顔が赤いんだけど」


「遅いなー雄一……」


 二人は私の方をみてニヤニヤしていた。

 


 雄一が自分の食事を持ってきて、私たちは四人で昼食をした。

 

 その間にも他の兵士や研究員、一般職なども食堂にやってきて、楽しそうに食べている。

 二人はその様子をチラチラと見ていた。


「ごちそうさま。それで、ここは何なの?」

食べ終わると芽依が再び聞いていた。


「そうね……それを教えるには条件がある」

「条件?」

「まず、ここで見たこと聞いたことを誰にも話さないって誓ってほしいの」

「もし誓わなかったら、私たちを殺すの?」


 陽向が驚いて芽依と私を交互に見る。


「殺すことはないわ。私たちは、お願いするだけ」

「その言葉。信じていい?」

「信じて」

「……わかった」


「え? 芽依こそ、そんなに簡単に信じるんだ?」

陽向が聞いた。


「明美さんの目を見たら、ウソは言ってないという気がしたから」


「ありがとう。じゃあどこから話そうかな……実はこの場所は魔法が使えるのよ」

私が言った。


「え?」「なにそれ?」

陽向と芽依。


「今見せるわ。ウォータ」

私は水を手の平から少量出して、空になった食器の上に垂らした。


 二人はそれを見て固まっている。

「え?」「本当に魔法なの?」

と、陽向と芽依。


「でも、ここにいる皆ができるわけじゃないわ。使える人と使えない人がいるの」


「俺も、何もなければ使えないんだが、この腕輪があれば魔法が使えるんだ」

雄一が自分の腕輪を見せた。


 雄一も水属性のカートリッジに付け替えて、私と同じ様に水を出してみせた。

 それを二人は凝視している。

 

「どうしてかと言うと、この地下の空洞には魔素が充満しているの」


「すごい。ファンタジーだ」

と、陽向。


「それで、それを私たちに教えたのは?」

芽依が聞いてきた。


「私たちは、あるものから人々を守るために働いているの。それで実は、二人にも魔法の素養があるから、ここで一緒にやらないかと思って」


「私たちにも魔法が?」「え? 僕にも?」

そう言って二人は顔を見合わせた。


「そういうことか」

と、雄一がボソッと。


「まだ、どの魔法に適正があるかはわからないわ。それでこれなのよ」

私はそう言って、先程雄一に持ってきてもらった魔導具をテーブルの真ん中に置く。


 美月が前の魔導具を改良して、今ではカバーも出来ていて見た目はきれいになっている。

 さらに、美月は無属性と闇属性の魔石も取り付けて、今まで発見されている全属性をチェックできるようにしてあった。


「いい? 見てて?」

私はそう言って、その魔導具から半分出ている水晶に触った。


 すると。赤、緑、青、無色の魔石が光り、さらに表示されたレベルはあれから一つ上がって28だ。


「赤は火属性の魔法、緑は風属性、青は水属性、透明なのは無属性ね」 

私が解説した。


「俺もやってみる」

雄一は腕輪を外して測定する。


 すると魔石は光らず、レベルは29になっていた。

 

「あら? 雄一はレベル28じゃなかった?」

「そうだったが、先日29になったみたいだ」

「せっかく追いついたと思ったのに」

「前にレベルアップの感覚を聞かれたよな? それが、やっとわかった」


 私より成長は遅いみたいだけど、この一週間魔物を一緒に倒し続けていたから、レベルも一つ上がったみたいね。

 ローザは運動しているけど、レベルがなかなか上がらないと言っていた。

 それを考えると、レベルを上げるのは魔物を倒すのが一番早そうね。

 でも、私が三レベル上がっている間に雄一は一つだから、私が受け取った成長のスキルは、だいたいだけど普通の人の三倍で成長できるみたいだわ。

 もしかしたら、雄一は魔法適性者だから普通の人よりも早いのかも知れないけど。


「それってレベルなの?」

芽依が聞いてきた。


「そう。これである程度のレベルや使える魔法属性がわかるの」

「私もやってみていい?」

「どうぞ」


 芽依はレベル24で、使える魔法属性は無属性だ。

 陽向はレベル16で、使える魔法属性は同じく無属性だった。


「なーんだ」

陽向は自分のレベルを見て。


「ねえ。どうやったらレベルが上がるの?」


 芽依が自分のレベルや魔法の素養を見て、最初に言った言葉がそれだ。

 

 やはりこの子は強くなりたいんだわ。

 

 それに比べて陽向は魔法の方に興味があるみたいだ。

「無色は無属性の魔法? それを僕も使えるんですか?」 


「そう。そしてレベルだけど、私たちと一緒にあるものと戦えば少しずつ上がっていくわ」

私が答えた。


「あるものって?」

芽依が目を輝かして聞いてきた。 


 どうしようかな。言っていいかな。

 魔力があるなら、魔物もいて不思議じゃないわよね?

 

「魔物よ」

「魔物? 本当に?」

「そう」

「でも、それが本当なら、私も戦ってみたいわ」


 芽依はそう言ったが、陽向はちょっと戸惑っている感じだ。

 

 このあと、ダンジョンの第一層に連れて行って、お試しでスライムを倒してもらおうか。

 二人を例の石碑に触れさせてみたいし。 

 陽向くんは、スライム相手に戦ってみれば少しは自信を持てるようになるかもしれないわ。

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