第27話 新たな石碑
翌日は、私たちの小隊は再びダンジョンにやってきた。
一昨日はあんなことがあって中断したが、今日は第六層への階段を探すのが目的だ。
ところが今日は、考古学者のローザも一緒に来ている。
第六層への階段を探す際に自分の知識が何か役に立つかも知れないと、ローザから大佐に申し出たそうだ。
「ローザは私達が守るから、安心してね」
私が言った。
「あなた達の腕を信頼しているから大丈夫。それに五層までなら、もう変異種も出てこないだろうし」
「今日はまだそれほど魔物が復活していないはずだから大丈夫だと思うけど、グレイグ、ジャック、ブラッド、ジョンの四人は後ろでローザを護衛してあげて」
私が小隊の皆に言った。
「了解」
今日は私が先頭に立ちダンジョンに入っていく。その後ろから雄一、そして四人に守られたローザが続いた。
もし魔物が現れたら私が率先して倒し、万が一私が討ち漏らしたものがいれば、私の後ろにいる雄一がそれを始末する作戦だ。
第五層までの魔物なら、私は身体強化さえしておけば、魔物がいきなり飛びかかってこようとも怪我を負わない自信がある。
一昨日私たちが間引きしたばかりだし、昨日は他のチームも第三層まで入っているらしいから、思った通り途中ではほとんど魔物と遭遇しない。
第一層から三層までは、復活したばかりの魔物が一、二匹現れた程度だった。それを身体強化と魔法剣で倒していく。
私は今まで日本刀を使ってきたが、シュウキとの戦いで折れてしまったし、これを機に魔法剣を主に使うことにした。
その後も、第四層でゴブリンが少々、第五層でも普通のオークが少々出てきたが、特に問題もなく進んでいく。
そうやって第五層の隠し部屋まで、無事にたどり着いた。
二日ぶりにここに来たが、床にはまだ吸収されきっていないシュウキの血の跡も少し残っていた。
まず私は、ここに来たもう一つの目的。石碑に触れてみることにする。
触れると、またあの声が聞こえてきた。
(水属性覚醒)
「どうだった?」
ローザが横に来て小声で聞いてきた。
「水属性だって」
「ますます強くなるわね」
「でもこれって、私にガルシュナ星間帝国との戦いに先頭に立って戦えと言われている気がしてきたわ」
「そうなんじゃない?」
「やっぱり?」
「何千年後かにこういう事態になったときのために用意してあったのだったら、そういうことでしょ」
「私がやればいいのよね?」
「そうそう」
「そういうことなら、やはりこのダンジョンは戦士を鍛えるためにあると思うのよ。でもここで得たのは水属性。ということは、やはり火属性の魔物がどこかにいるんじゃないかという気がするわ」
「第六層ね?」
「そう」
「でも、ここにも階段が無いなら……」
「それで、これなのよ」
私はそう言って、昨日美月から借りた真実の鏡の複製をカバンから取り出した。
「真実の鏡?」
「そう。この石碑に書いてある【真実の鏡は隠れているものを露わにする】という文章。そしてこの鏡がここにあったのが、たまたまでないとしたら?」
「この鏡で何かが分かると思っているのね?」
「ちょっと試してみるわ」
私はそう言ってその鏡を持ち、まわりの床を鏡を通して見てみる。
ぐるっと見回したが、床には魔力で隠された階段はないようだ。
続けて私は壁をそれで確認していく。
「あった」
私は奥の壁に筋が入っているのを、その鏡で見つけた。
私はその壁に近づいて真実の鏡をそこに向け、魔力を流してみる。
すると真実の鏡が光り、隠されていた扉が露わになった。
周りにいたチームメンバーが驚きの声を上げた。
「あったのか」「やったじゃないか」「やはりあったな」
「すごいわ。アケミ」
ローザも笑顔で言ってきた。
「でも不思議なのよね」
と、私。
「何が?」
「どうして、わざわざ扉を隠す必要があったのかしら」
「逆にもし隠れていなかったら?」
「そうね……あのシュウキと一緒に扉の先を確認していたでしょうね。そして何か重要なものがあったら破壊されていたかも」
「私はもしかしたら、このダンジョンが意思を持っている気がするのよ」
「え?」
「アケミが月に来てからタイミングよく第三層の隠し部屋が開いたり、この部屋が見つかったり」
「ダンジョンが意思を持っているの?」
「ダンジョンなのか、この月なのか……。まあ、私も適当に言っただけだから気にしないでね」
うーん。どこかに人工知能みたいのがあったり……?
「まあ、わからないことを今考えてもしょうがないわね。それで、この扉はどうやって開けるのかしら」
私はそう言って、その壁に近づく。
するとローザが何かに気がついたようだ。
「そこに何かの模様があるわ」
その扉の横に記号のような模様がある。
三角形っぽいマークだ。
今までは、この記号も扉と一緒に隠されていたので、わからなかったのだ。
扉の横にあるといことはう開閉スイッチみたいなものである可能性が大きいわね。
でも、どうやるのかしら。
「どうすれば開くと思う?」
私がローザに聞いた。
「そうね。その石ごと押す? でもこれまでのことを考えると、機械仕掛けの可能性は低いか。その模様に魔力を流してみるのはどう?」
「やってみるわ」
私はそう言って近づこうとするが、グレイグが言ってきた。
「何も無いかも知れないが、警戒はしておいたほうがいい」
「なるほど、そうね。さすがグレイグ。ではローザは後ろに下がって。皆は何か変異種が出てきたときに備えて準備して」
「「了解」」
ちなみに、私はこの小隊の小隊長になったわけだけど、皆にはジャネットの時のような「イェス・マム」という返事はやめてもらっている。
なぜかと言うと理由は二つ。
一つは、まだなりたての小隊長なので、そんな言い方をされると、こそばゆいからだ。
もう一つは「マム」というのが「マダム」つまり「奥様」から来ていると思われるので、そう呼ばれると「おばさん」っぽくて嫌だったからだ。
ローザがこの隠し部屋の出口付近まで下がり、他の皆はローザを守りながら変異種が出てきたときのために備えた。
「ではやってみる」
私はそのマークに魔力を流してみた。
するとそのマークが光って、隠し扉になっていた石の扉が下に降りていく。
やったわ。
さて、何か出てくるのか?
私はすぐに魔法剣を構えて、下がっていく扉の正面で待ち構えた。
しかし、石の扉は完全に降りきって通路が開いたが、何も出てくる様子はない。
大丈夫みたいね。
「ジョン。念の為に中をドローンで偵察してくれる?」
「了解」
ジョンが偵察用のドローンを出して飛ばし、その奥を確認する。
その様子を皆の腕のモニターに配信してきた。
扉の向こうは三メートルほどの短い通路があり、その奥には私たちが今いる隠し部屋と同じぐらいの大きさの部屋があるようだ。
そして、その部屋の中央にはまたしても石碑があるが、魔物などはいないようだった。
「また石碑だわ。ローザは石碑を直接調べたい? それともここにいて、後で写真を見る?」
私が聞いた。
「直接調べたいわ。今までの石碑の部屋にも罠なんか無かったし、大丈夫だと思う」
えーっと、ジャネットがやっていた様に、見張りを残して中に入ったほういいわよね。
「ではいつものように、ジョンとグレイグはここで見張ってていくれる? ジャックとブラッドはローザを守ってあげて」
「「了解」」
「まず私が入って安全を確認するから、それが終わったら皆は入ってきて」
「そういう役目は部下の俺に言ってくれよ。指揮官は安全なところにいて、何かあったときの対処をすればいい」
と、雄一。
「でも……」
「ユウイチに任せろって。ユウイチはアケミのことが心配なんだよ」
グレイグが言ってきた。
「お、おい」
雄一が焦っている。
私は顔が少し赤いようだ。
ローザはそんな私たちを見て、ニヤニヤしている。
「わかったわ。じゃあ、雄一お願い。でも、もし危なかったらすぐに戻るのよ」
「大丈夫だ」
雄一は刀を抜いたまま奥の部屋に慎重に入っていく。
まずは石碑に触れて何も起きないことを確認する。次に部屋の端から端までを歩いて、罠が無く魔物が出てこないことも確認した。
五分ぐらいで雄一が出てきた。
「安全なようだ」
「ありがとう。じゃあ、入ろうか」
私がそう言って、ローザを含めた五人で入る。
ところが、部屋の中央には石碑があるのだが、その表面に文字が書かれていないように見える。
「あれ?」
私は裏なのかと思って反対側に回っても、その石碑には何も書かれていなかった。
「どうしたの?」
ローザが聞いてきた。
「これは石碑なのかしら。何も書いてないわ」
「本当ね」
ローザはちょっと考える仕草をしてから、石碑に手を伸ばしてみる。
すると、光る文字がその石の表面に現れた。
「え?」
「こんな仕掛けがあるなんて」
「何をやったの?」
「たぶん、魔力に反応したんだと思う」
「わざわざ魔力を流さないと読めないということは、何か重要なことが書いてあるのかしらね」
「ちょっと文を読んでみるわ」
文章量は他の石碑に比べてかなり長いみたいだ。
ローザは読み始めるが、しばらくするとその文字が薄くなって消えてしまう。
もう一度触れると、また文字が現れた。
「どういう仕組みなのかしら」
「私から流れた魔力の分だけ光っているのかも。アケミもやってみて」
私はそう言われて石碑に触れてみる。
すると、私が触れても文字は光った。
しかし、例の声はこの石碑からは聞こえないようだ。
「ちょっと写真に撮ってみる」
と、ブラッド。
「ええ、お願い」
私はそう言って、ブラッドと場所を替わる。
「ん? 写らないな」
ブラッドはその文字をデジタルカメラで撮るがモニターで撮った写真を確認しても、文字は写ってないようだ。
「どういうこと?」
私が聞いた。
「やはりこれは魔力で光って見えるのね? つまり、ブラッドが見えたということは魔法適性者ならこの文字は見えるみたいね。でも、先程ユウイチが触っても光らなかったところをみると、文字を光らせるのは私たちのような魔法能力者じゃないとだめということなんでしょうね」
ローザが言った。
私とローザは魔法能力者、つまり魔石がなくても魔法が使える。
私以外のこの小隊のメンバーは全員魔法適性者で、魔石があれば魔法の腕輪で魔法を使うことが出来る。
この違いのようだ。
「カメラに写らないなら、ここでメモしていくしかないわね。ローザに一緒に来てもらってよかったわ」
私はこんなへんてこな字を正確に書き写す自信がないから。
「では、私がメモしていくから、アケミは光が消えそうならまた触れてちょうだい」
「わかった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます