第25話 ローザの秘密
さて、今日はこのあとの予定は……。そうだ、ローザのところでレベルも測定したいし、彼女からも色々聞きたいことがある。
このあと会いに行こう。
私は、ローザにメールでアポイントを取ってから研究室に向かった。
ポチも一緒だ。
「ハーイ、アケミ」
「ハーイ、ローザ」
ローザの研究室に入ると、彼女はいつもどおりに挨拶してきた。
そして彼女の近くの椅子を勧めてくる。
その椅子のところに行くと、まず私は背中からリュックを降ろしポチを出した。
ポチも、彼女の顔を見て嬉しいようだ。
「ワン」
尻尾を振っている。
私はポチを抱えてその椅子に座った。
「あら? 少尉になったの? おめでとう」
「あまり、めでたくないわよ。第一小隊を任されちゃって、なんか肩に重荷がどーん、という感じよ」
「そうなるわよね」
「だからローザは攻略部隊に入りたくなかったのね?」
「それもあるけど、元々私はそういうのに向かないから」
「そういえば、戦うのが苦手って言ってたわね。それで、大佐への報告のとき、誰もローザのことは言わなかったから安心して」
「それは、よかったわ。今、お茶を入れるから」
「ありがとう」
ローザが椅子から立ち上がり、ポットから紅茶を注いでくれる。
ちなみに茶葉やカップは基地内の売店で購入できるが、ポットのように大きな物は売っていない。
出されたカップやポットはおしゃれだし、おそらく自分で地球から持ってきたのだろう。
地球から持ち込める荷物は二十キロ以内であれば日用品も持ってこれたが、私はそういう物は持ってこなかった。
「あら? アケミ、少し髪の色が変わった?」
ローザが入れた紅茶のカップを私の横のテーブルに置きながら。
「え?」
「前はもう少し赤っぽかったような気がしたけど」
ローザが鏡を持ってきてくれた。
「ほら見て?」
鏡に写った私の髪は、以前より少し色が薄くなっているようだ。
前はもう少し赤っぽい茶色だったけど、今はライトブラウンみたいになっている。
「まさか、これって
まだ十代なのに白髪なんて。
ローザが近づいて私の髪をよく見てみる。
「白というより、金色が混じっているみたいよ」
「金色なの? ……
「新しい魔法が覚醒したのと関係があるのかしらね」
「魔法と関係があるの?」
「もともとの遺伝の色に加えて、例えば火属性が得意だと赤っぽくなるとか」
「そうか。そのあと、第三層の石碑で風属性が覚醒したから……。あっ、しまった! 石碑と言えば、色々有りすぎて第五層の隠し部屋の石碑に触れるのを忘れたわ」
「それじゃあ、次は何が覚醒するか楽しみね?」
私はうなずいた。
次は何が覚醒するのかしら。
「それで話は戻るけど、風魔法が使えるようになって色が足されたの? ということは、緑……あっそうか。赤と緑で黄色になったのか」
「そうかもね。でも金色みたいだから、他にも要素があるのかも」
「うーん。あとは……レベルアップして、体に魔力が浸透しはじめたから?」
「もしかして実感できた?」
「そう。レベルアップして、こないだローザが言っていたように、魔力が体の中に浸透しているんだなってことが、なんとなく実感できるようになったわ」
「やっぱりそうなのね? 筋肉量が増えていないのに力が上がるということは、そうじゃないかと思ったのよ」
「それで、髪が金色ぽくなってきたのなら、やはり髪の色って魔力や得意な魔法属性に影響を受けそうね」
私はそう言いながら、ローザの髪をチラッと見た。
ローザの髪は銀色だ。
西洋人なら銀色も時々見るけど。
もしローザも髪の毛に魔法の影響がでているとしたら……。
ローザも私の視線に気がついたようだ。
「この髪の色ね……?」
「もしかしたら、白以外も使えるのかなって」
「そうね……。それで、今日訪ねてくれたのは、やはり昨日のことよね?」
「実はそう。それで、私たちが危機になってから、随分早く来れたみたいだし、いつの間にかいなくなっていたのはどうやったの? もちろん言いたくなかったら言わなくてもいいから」
ローザは少し考えてから言ってきた。
「誰にも言わないって約束できる?」
「約束するわ」
「私は癒やしの魔法の他に、テレポートもできるの」
「テレポートって、瞬間移動だっけ」
「そう」
「それはすごいわ。でも、もし軍部に知られたら、いいようにこき使われそうね」
「だから内緒で」
「わかった。でも、あの場所に行ったのは初めてでしょ? そんな場所にも行けるものなの?」
「それはこの子のおかげ」
そう言ってローザはポチの頭をなでた。
「ポチが?」
「昨日言ったように、あなたとポチは心の底でつながっているから、私にあなたの危機を知らせてきたの。そして私は、この子のイメージからあなたの場所を割り出して、一緒にテレポートで駆けつけたというわけ」
「そっか。改めてありがとう。ポチ」
「ワン」
「そしてローザもありがとう」
「いいのよ。友達じゃない」
「そういえば、昨日の朝にポチが私を引き留めようとしたのは、あの事と関係があるのかしら」
「私のお祖母さんから聞いたことあるわ。魔法が使える人は、勘がいいって。もしかしたら魔力で作られたポチもそうなのかも」
「そうなの? ポチ」
「ワフ」
「それにしても、ポチは強かったわね。あんなに大きくなれるなんて。まるで、フェンリルみたいだったわ」
「ワン」
「あれには、私も驚いたわ」
と、ローザ。
「どうして変身できたのかしら。まるで魔物の変異種みたいね」
「変異種……たしかにそうだわ。私はそちらの方は専門じゃないけど、原理はもしかしたら同じかも知れないわね」
「その原理ってなんだろう」
「研究者に聞いてみる?」
「研究者?」
「ほら、あなたの隣の部屋のミズキ。彼女は魔物の研究もしているわ」
「え? あっ。彼女はちょっと苦手なので、またそのうち……」
「そう? あなたにも、苦手な人がいたのね?」
「でも、あのジャネットが異星人だったなんて、ショックだわ。あんなに良くしてくれたのに」
「あなたたちの会話を聞いて、そうじゃないかとは思っていたけど、やはりあれはジャネットだったのね?」
「そう。異星人が魔法か何かで化けていたのよ。今回見つかった魔導具『真実の鏡』でそれが解けたわけ。それで本物のジャネット中佐は、アメリカの自宅の地下で遺体で見つかったそうよ」
「それで、正体がバレたから、あそこで口封じをされそうになったわけ?」
「彼女が言ったところによると、彼女は銀河の中心にあるガルシュナ星間帝国の先遣隊で、私たちは侵攻の邪魔になりそうだから、いつかは殺そうと思っていたみたいね」
「そうなると、石碑に書いてあった侵略者が、とうとう地球にやってくるということなのね?」
「あのジャネットに化けていたシュウキが、侵攻は数年後と言っていたわ」
「数年後……でも、早まる可能性も考えておかないとね」
「そっか。でも、今のレベルでは、あのシュウキにあと一歩及ばなかった。だから、それまでにもっと強くなっておかないと」
「それにはダンジョンの攻略を進めるのが一番早そうね」
「うん。そうだ。レベルと言えば、第五層でオークの変異種オークキングを倒したときに、またレベルアップしたみたい」
「早速測ってみる?」
「うん」
ローザは例の魔導具を棚から出してきた。
「この魔導具。ミズキが作ったのよ」
「そうなの!?」
彼女、優秀みたいね。でも、苦手だわ。
「はい、どうぞ。やってみて?」
ローザが私の横の机に魔導具を置いたので、私はその水晶球に触れてみる。
点いた魔石の色は前回と同じだが、レベルは一つ上がって27だった。
「やった。やっぱり一つ上がったわ。これでジョンと一緒になった。魔物をガンガン倒して、皆を早く抜かないと」
「ふふ。アケミらしいわね。でも、一番初めの石碑で得た『成長覚醒』は、やはりレベルが早く上がるスキルみたいね?」
「そうみたい」
「それで、あのシュウキと言った? 彼女の強さはどれぐらいだった?」
「おそらくだけど、レベルで言えば50から60ぐらいだと思う。身体強化はしていなかったみたいだわ。やり方を知らなかったのか、あるいは身体強化に頼らなくても十分強いから、練習してなかっただけなのか」
「そうなると、異星人の平均レベルはわからないけど、侵攻が始まるまでにアケミは少なくとも身体強化をした状態で60を超えないと厳しいわね」
「だから早くレベル上げをしないと。でも、この先を攻略しようにも、あの第五層には下に続く階段はなかったわ。あの隠し部屋にあるのかとも思っていたけど、あそこにも無かった。あれで終わりってことはないわよね?」
「そう思ったのはなぜ?」
「第五層で出てきたオークはゲームで言えば初級からギリギリ中級ぐらいの魔物よね? まあ、オーク・キングはたしかに強かったけど。ダンジョンなら、もっと強い魔物が出てきてもおかしくないのに」
「ああ、ゲームなんかではもっと強い魔物が出てくるわよね。ああいうゲームが
「そう。それとも、あそこは初級ダンジョンということで、他にも発見されていないだけで中級ダンジョンとかがあるのかしら」
「でも、この月の空洞が発見されて何年も経っているんだから、他にダンジョンがあれば、すでに見つかっていてもおかしくはないわよね」
「そうなると、やはり第六層があるのか……」
そうだ。あの第五層にあった石碑。
「そういえば、第五層の隠し部屋にあった石碑に何かヒントが書いてないかしら」
私が続けて聞いた。
「石碑の翻訳は終わっているから、読んでみて。先程軍部の方にも送っておいたけど」
ローザが現代語に訳したものを見せてくれる。
そこにはこう書いてあった。
【真実の鏡は隠れているものを露わにする。
魔力は無属性魔力を流すこと。
資格のあるものは石碑に触れよ。されば力を与えん】
「第六層へのヒントはなさそうね……」
そこにドアがノックされた。
「どーぞ」
ローザがインターホンで応えて、ドアを開けるボタンを押す。
すると、美月が顔をのぞかせた。
「あっ。明美。やっぱりここにいたのね?」
「え?」
どうして知っているのかしら。
「ローザの用事が済んだらこっちに寄ってよ」
「え?」
「ねえ、また手伝ってよ」
「いや、あのー」
「先日あげた魔法剣。役に立ったんでしょ?」
「そ、そうね。よく知っているわね」
「だから、また、いいじゃない」
「はあ。でも、この後もみんなで自主訓練をしようかと……」
「そんな感じだから、脳筋って言われるのよ」
「え? だれが言ったの?」
「私」
「くっ」
「細かいことは気にしないの。あっ。ポチも一緒に連れてきてね」
私達のやり取りを聞いていたローザは笑顔だったが、ちょっと引きつっているようにも見えた。
もしかしたら美月は、いつもローザと話すときにはもう少し遠慮をしているのかも知れない。
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