第19話 手伝い

 翌日。

 私は野沢美月に会いに、基地内の研究棟に行った。

 

 美月は帰り際にポチも連れてきてほしいと言っていたので連れて行くことにしたが、基地内でポチを連れていると注目を浴びるので、リュックに入ってもらっている。

 

 研究棟に着くと、私を訪問予定者として登録してあったようで、入口のパネルに腕の携帯端末をかざすとすぐに入ることが出来た。

 あとは、ローザの時と同じように携帯端末のナビゲーションに従って廊下を歩いていくと、迷うこと無く美月の研究室に着く。

 

 ドアのブザーを押すと、すぐにドアが開いた。

 

「来たわね? 入って」


 美月の研究室も二十畳ぐらいの広さだ。

 

 でも、色々なものが置いてあって、ローザの研究室に比べると狭い感じがするわね。


 私は部屋をざっと眺めながら後をついて奥に入っていく。 

 部屋の片側にはよくわからない機械が置いてあり、横の棚には全種類と思われる魔石も置いてある。

 もう片側にはコンピュータの端末やキャビネットもあった。

 

 研究者にしては、本が全然ないわね?

 そうか、シャトルで持ってくるにはかさばるので、電子書籍化しているのね?


「ここに座って」


 美月は私に椅子を勧め、彼女は隣の椅子に座った。


「それで、ポチも連れてきてくれた?」

美月が続けて聞いてきた。


 私がリュックをおろし、リュックの口を開けると、ポチが顔を出す。 

「ワン」


「飼い主と違って、あなたはいい子ねー」

美月がそう言ってポチを出し、抱きかかえた。


「もう」


 人の弱みを握って仕事をさせるわ、けなすわ。

 この人は、なんなのよ。


「ねえ、早速なんだけど。今日は動物じゃなくて、物を作って見せて」 

美月が急かしてきた。


「じゃあ、まずは簡単なものでいいわよね? えーっとこのカップにしようかな」


 見本があると、イメージが湧きやすい。

 私は机に置いてあったお茶のカップと同じものを作ることにした。

 

 もう何回かやっているので、魔素が見えない状態でも集めることができそうだ。

 私は魔素をかき集めるイメージをして、手元に集めていく。

 

 思ったとおり魔素が集まると、手元に黒い塊が出来てくる。

 

 このやり方で上手く行きそうだわ。

 

 私は手元に集めた魔素をカップの形にしてき、色も同じにする。

 

「できたわ」

 

 美月が本物のカップと見比べている。

 

「まあまあね。これって、時間が経っても変わらない?」


 辛口ね。


「昨日作ってくっつけた椅子の足も、そのまま変わらずに部屋にあるわ」

「あの茶色のスピッツは?」

「あれも、そのままよ」

「動いてはいないの?」

「駄目みたい」

「違いは、やはり魔石?」

「おそらくそうなんだと思うけど」


 美月が一人でブツブツ言い始める。

「ということは、魔石に意思がある? そんなはずは無いわよね。ということは霊でも宿ったか。でもその霊はどこから? まあでも今日は他にやることがあるから、それは次回ね」


「まさか、次もあるの?」

「いいじゃない。研究につきあってよ」 

「えー?」


「わかったわ。次回は何かお礼をするから。今日は椅子の口止めの分ということで」

「まあ……」


「じゃあ早速作って欲しいものがあるの」

「え?」


 美月は机に図面を広げ、さらにその図面から出来たと思われる物を棚から持ってきた。


「今日はこれらを十個ずつ作って欲しいの」

 

「あれ? この形って……」

「そう。ダンジョンの第三層から見つかった魔導具。魔法剣の部品よ」 

「まさか、これを私が作るの?」


「研究所の3Dプリンターが故障しちゃって、地球から部品を取り寄せているんだけど、来週に攻略チームに配るのに間に合うか微妙なのよ」

「そういうこと?」


 私は3Dプリンター代わりか。


「たぶん、あなたもこれを自分で使うこともあるだろうから、自分のためでもあるのよ」

「もう。……わかったわ。でも、こんな精密な部品出来るかしら」

「何事も挑戦よ」


 まったく。

 

「あれ? これをこれから作るということは……ポチを連れて来させたのはなぜ?」

「私がモフモフするために決まっているじゃない」

「くっ」 


 私は試作品の部品を見ながら、同じ部品を作っていく。

 

 魔法剣の中にも水晶球が使われているのは同じみたいだ。

 水晶球は必要な数が揃っているようなので、私はそれ以外の部品を作っていった。


 その間、美月はポチと遊んでいる。

 

「この部分は、どうなっているの?」 

内側がよくわからないところがあったので、私が聞いた。


「こまかいところは図面を参考にしてよ」

「私は理系じゃないから。これはどう見るの?」


「しょうがないわね。これはこういう形よ」

美月はポチを下におろして、私に図を書いて説明してくれる。


「ああ、ここは切れ込みが入っているのね?」

「そう。そして、この部品とこの部分でつなげるからこういう形なのよ」


 私はそうやって、なんとか部品を作っていった。

 

「色はどうする?」

「色も変えられるの?」

「たぶん大丈夫」

「それなら、明美が作ったものはすぐに分かるように、色を変えようか。じゃあ、すべて黒で作って」

「待って。もしかして、壊れたら私が責められるの?」

「どうしよーかなー」


 もう。

 

 出来上がった部品を美月が寸法を測っている。


「この部分。もう一ミリ短くして」

「はいはい」 

  

 魔法剣は割と単純な構造で、十個ぐらいの部品で出来ている。

 私は中の部品や、手で握る部分のグリップなどを十個ずつ作り終えた。


「じゃあ、組むのを手伝って」

と、美月。


「それも?」

「やっておけば、壊れた時に自分で直せるからいいじゃない」

「まあね」


 私、いいように使われているな。


「そこは、押し込んで回す」

「はい」


 私たちはそうやって、十本の魔法剣を作り上げた。

 攻略チームは八チームあるから、来週配布するのは十六本必要なはずだ。


 ということは六本は、3Dプリンターが壊れる前に作れたのね?

 

「たぶん大丈夫だと思うけど、試してみて」

「私が?」

「そう。確か、魔石がなくても火属性魔法が使えるんでしょ?」


「やってみるけど」

「魔石のカートリッジを装着しているときは、スイッチを押すだけなんだけど。あなたの場合は、たぶんだけど火を想像しながらスイッチを押してみて」


 私は言われたとおりにやってみる。

 すると、手に持っているグリップの先に魔力による芯の部分が出来、その周りを火属性のゆらめきが包んだ。

 

 やった。


「へー。こんな感じになるんだ」 

 

 一方美月は、魔法剣のグリップの先端に魔石のカートリッジを装着して試している。

 美月の方も、うまく作動しているようだ。

 

「いいわね。あとは、このまま永遠に持つのか、時間が経つと魔力に戻ってしまうのかよね?」

「なんとなく大丈夫のような気がするけど」

 

「今日は助かったわ。じゃあ、それ一本あげるから」

「え? 持っていっていいの?」

「一本余分に作ったから、今日の報酬ということで」


 私はもらった魔法剣とポチをかばんに入れて、自分の部屋に戻った。

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