第17話 歓迎会

 私の歓迎会は、高級レストランの個室を借りて始まった。

 

 まずは乾杯だ。

 

 ジャネットを除く小隊の中で一番階級の高い先生・グレイグがビールを片手に音頭をとる。

「アケミ。この小隊にようこそ。頼りになる仲間が増えてうれしく思う」


 グレイグはイギリス人だから丁寧よね。

 でもここは、日本式で「よろしくお願いします」なんて言うよりは、アメリカ式でウケ狙いよね。


 私もビールを片手に言葉を返す。

「みんな、どんどん頼ってね!」 


「おう」「言うなー」「よし、頼らせてもうぞ」「わっはっは」


 そして皆がビールを掲げる。

「「「「チアーズ」」」」 

 

「ありがとー」



 皆が酒を飲み、出てきたつまみを適当に食べながら話を始めた。


「そういえばジャネットは、今日も来ないのか?」

マッチョのジャックが他の仲間に聞いた。


「え? ということは、いつもなの?」

私が聞いた。


「どうも、こういう会は苦手みたいだな」

と、牧師のブラッド。


「でも、ジャネットはフランクでいい上司だと思うわ」


「地球にいたときは違ったらしいぞ」

再びジャック。


「そうなの?」

「第三小隊のやつが昔仕事を一緒にしたことがあるらしいんだが、ジャネットは月に来てから人が変わったみたいだって言ってたな」


「昔はどうだったんだ?」

グレイグが聞いた。


「仕事中もそうでない時も硬くてな、何事にも厳しいし、一度も笑ったことがなかったと」


「ふーん? そうなんだ」

と、私。


 意外だわ。


「一般論だが、そういうのに限って、酒が入ったら人が変わるんじゃないか?」

雄一が言った。


「急に暴れだすとか? だから、こういう会に来ないの?」


 グレイグが首を横に振る。

「いやいやいや。彼女に限ってそんなことはないだろ」


「これは単なる噂だが、ジャネットと第二小隊のアランと一緒にいるところを見たとか見なかったとか」

オタクのジョンが言った。


 ジョンは酒が入って、いつもより口が回るようだ。


 皆が反応した。

「え?」「ウソだろ?」「本当かよ」


「だから、単なる噂だから」


「まあ、アランはイケメンだからな」

と、雄一。


 アランとスージーは付き合ってるのに?

 まさか、アランは二股? 


「それはいつ頃の話?」

私が聞いた。


「たしか……一ヶ月ぐらい前だと思う」


 なんだ。よかった。それならスージーと付き合う前ね。


「ところで、アケミはどうして月に来たんだ? もともと一般職だったんだって?」

グレイグが聞いてきた。


「これには、ふかーい訳があるのよ」

「なんだよ、深い訳って」

「聞きたい?」

「お父さんに話してみな」

「お父さんって、そんなに歳は違わないでしょ」

「アケミはいくつなんだ?」

「女性に歳を聞いてはいけません」

「おっと」


「いいわ話してあげる」

そう言って私はビールを一気に飲んだ。


「おおー」「いい飲みっぷりだ」

と、皆。


「実は前の仕事は、レストランでウェイトレスをやっていたんでけど、同僚の女性に痴漢した客をなぐっちゃって。それで首にされたのよ」


「おー、アケミらしい」

ジャックがビールを開けながら。


「なんだ、日本ではそんなことで首になるのか?」

グレイグが聞いた。


「度量の狭いやつが多いのよ。それで、次に紹介されたのが基地関係で、よくわからないうちに、ここにきちゃったわけ」


「そりゃー深いわ」

と、ジョン。


「今バカにしてなかった?」

「ぜんぜんだ」


「私だけ話してずるいわ。ねえ、みんなは? もともと軍人だから命令されてここに来たんだろうけど、そもそも、どうして軍に入ったの?」


「腕相撲で俺に勝ったら教えてやる」

と、マッチョのジャック。


「いいじゃない。受けて立つわ」


「お? やるのか」「おもしろそうだ」

皆が一つのテーブルの上を空けて、腕相撲の準備を始める。

 

 魔力を使ってもいいわよね。

 

 私は魔力で軽く身体強化をして腕相撲に望んだ。

 

 雄一がレフリーをしてくれる。 

「始め!」

 

 すぐに私はジャックの腕を抑え込み、簡単に勝ってしまった。

 ジャックは、たしか魔導具の測定でレベル33だったわね。

 私は軽く身体強化をしているから、レベル26の1.5倍ぐらいで、単純に考えると今のレベルは39ぐらい?

 

「なんで、こんなにつえーんだ?」

ジャックが手を痛そうに振った。


「ふっふっふ」

「あっ。魔力を使ったな?」

「勝ちは、勝ちよ」


「ジャック。言い訳は見苦しいぞ。おまえ意外によえーんだな」

と、ジョン。


「何を!?」

「じゃあ、俺とも勝負だ」

「よーし」


 ここで腕相撲大会が始まった。



 ジョンとジャックの勝負は、もちろんジャックが勝った。

 その勝負が終わると、皆が順に勝負をして総当り戦になった。

 

 私の二番目の相手は先生のグレイグだ。


 えーっと、彼はレベルは30だっけ。

 身体強化をしなければ私は完全に負けだわ。

 そりゃそうよね。

 

「始め!」

雄一の合図に私達は勝負する。


 もちろん私の勝ちだ。 

 

 私は魔力で身体強化していたので、結局全員に勝ってしまった。

  

 順位は私が一位、二位はマッチョのジャック。まあレベルから言えば順当ね。

 三位はレベル30の先生・グレイグで、四位はレベルは28の雄一。五位は牧師のブラッドでレベルは同じく28。

 最後はオタクのジョンで、彼のレベルは27だったはず。


 やはりレベル=強さみたいだけど、雄一とブラッドが同じレベルなのに腕相撲で順位が着いたのは、おそらくテクニックの差よね。


 すべての勝敗が決して順位が決まると、私は小さく飛び上がって喜んだ。

「やったー。優勝よ!」


「すげーな。明美」

と、雄一。


「あれ? そういえばなんで腕相撲大会になったんだっけ」

 

「わかった。話せばいいんだろ。お、俺はだな……GIジョーに憧れて軍人になりたかったんだ」

と、顔を真っ赤にしたジャック。 

 

「GIジョーって……もしかして、フィギュアで遊んでたの?」

「いいだろ。だから言いたくなかったんだ」 


「意外だな」

と、雄一。


「いあや。わかる、わかる。俺も持ってたぞ」

ブラッドが言った。


「本当か? 仲間だな」

ジャックが嬉しそうに。



「ねえ、ところでなんでブラッドは『牧師』って呼ばれているの?」

私が聞いた。


 軍人なのに牧師。


 それにはジョンが答える。

「信心深いからさ」


「へー」


「父親が牧師をやっていたから、その影響かな。親は俺にも牧師になって欲しかったみたいだ」

ブラッドが打ち明けた。


「うちの先祖にも似たようなのがいるわよ。神主だった」

私が言った。


「神主?」

「日本の牧師みたいなものよ」


「ちょっと違うよーな」

と、雄一。


「細かいことは気にしないの」


「アケミの先祖は相撲取りだと思ったぞ」

ジャックが言ってきた。


 ボカ

 私は思わず殴った。

 でも、軽くよ。

 

「イテ! おい、身体強化したまま殴るな。骨が折れそうだったぞ」


 さすがのジャックも痛かったみたいね。


「ごめーん」

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