第16話 ものづくり

 今日の訓練が終わると、私は部屋に一旦帰ってきた。

 

 さて。歓迎会の時間まではあと一時間半あるわね。

 それまでどうしよう。

 トレーニング・ジムに行く?

 

 そうだわ。

 ダンジョンみたいに、魔力で物や動物が作れるのか試してみよう。

  

 えーっと、じゃあ何か作ってみよう。

 といっても、どうやったらいいかしら。

 魔力で作るんだから、まずは魔力を集める?

 あれ、魔素だっけ。どっちでも同じよね?

 

 私はリラックスしてまずは魔力が見える状態にする。

 それから魔力を手元にかき集めるように手を動かしながら、イメージをしてみた。

 すると魔力の霧のようなものが集まって来る。

 

 えーっと、これをどうしたらいい?

 やはりイメージが大切なのかな?

 何を作るかよね……そうだ。先日壊してしまった椅子の足を継ぎ足してみよう。

 

 私は足が壊れた椅子を持ってきて、椅子の折れた足の部分に魔力を集める。

 そして、壊れる前の足の状態をイメージする。

 

 えっと。このプラスチックっぽいというか、樹脂っぽい感じで。

 

 すると、色はちょっと違うが椅子の足がっぽい物が、折れた部分に新しくできあがった。

 

 やった! なかなかそれっぽいじゃない?

 

 私は試しにその足を持ってみる。

 すると、グニャっと曲がってしまった。

 

 あれ? 駄目なの?

 でも、ダンジョンの石の壁だって魔力で出来ているなら、不可能じゃないはずよね?

 もっと固くするにはどうすればいいのかしら?

 これもイメージ次第ってこと?

 色もちゃんとイメージをしないと、微妙に違うわね。

 

 じゃあ、もう一度。今度は硬くなるイメージと、色も椅子のベージュをイメージして。

 

 再び魔力を集めて、先程曲がってしまった部分真っ直ぐにして、それを補強しながら固めていく。色もベージュにした。

 

 よし。

 これでどう?


 私は出来上がった足を触ってみる。

 

 曲がらないわ。大丈夫そうね。

 やったわ!

 

 でもこれ、ずっと持つのかしら。

  

 まあいいわ。それも実験ね。

 

 えっと次は、もう少し難しそうな物……。

 そういえば、あの魔法剣。

 芯に魔力でできた刃があるって言ってたわよね。

 ということは魔力で硬い剣も作れるってことよね?

 

 やってみよう。

 

 私は今度は剣をイメージして作ってみる。

 なんとなくイメージしたのが悪かったのか、おもちゃの刀みたいのが出来あがった。

 

 だめだわ。

 我ながら想像力の無さを実感するわ。

 

 じゃあ、もう一回。

 硬くて日本刀のような形で……刃も鋭く。

 

 すると、今度は上手く出来たようだ。

 

 これって、一瞬で作れるかしら。

 そうすれば、ダンジョン攻略でもいざという時に役に立ちそうだわ。

 

 あとは、切れ味よね。

 なにか試すものは……。

 

 せっかく足を作ったけど、この椅子を切ってみる?

 どうせ足が折れているんだし。

 

 私は机の上に椅子を置いて、魔力で作った刀を構える。

 そして刀を振りかぶり、刀を素早く振り下ろした。

「えい!」 


 すると、椅子が半分になった。

 机までは切らないように注意したので、机の方は大丈夫だ。


 すると、半分になった椅子が床に落ちて、ゴトン、ガタンという音が響いた。

  

 やったわ。

 切れ味も抜群だわ。

 もしかしたら、攻略で使っている本物の刀よりも切れ味がいいかも。

 

 ビー!

 そこにドアのブザーが鳴った。

 

 あっ。誰か来たの?

 やばい。隠さなきゃ。

 

 私は急いで二つになった椅子をシャワールームに隠し、さらに先程作った刀を魔力に戻す。

 そして急いでドアの所に行って、横にあるスイッチを押してドアを開けた。

 

 そこには、東洋人の女性が立っていた。

 胸の名札にアルファベットで「ミズキ・ノザワ JPN」と書いてある。 

 JPNだから、どうやら日本国籍のようだ。

 見た目は私より少し年上ぐらいで、焦げ茶の肩までの髪にメガネを掛けている。彼女は白い制服を着ているので、研究スタッフだろう。


「なんでしょう?」

私が聞いた。


「隣の部屋の者です。なにか大きな声や音がしたようですが、大丈夫ですか?」


 やば。さっきの気合を入れた声が隣の部屋に響いたのね?

 

「ええ。なんでもありません。大丈夫です。ちょっと体を動かしていたら気合が入っちゃって」 

 

 彼女は私の肩越しに部屋の中をチラッと見た。

「そうですか。先日も大きな音がしましたが……」


 やはり、椅子に魔力の塊をぶつけて壊した時の音も聞こえていたんだわ。

 

「あ、聞こえてました?」

「まさか、部屋の中で暴れているんですか?」


 なんか、不審者みたいに思われてる?

 

 あっ。もしかしたらこの人、遠回しに文句を言いに来たのかも知れないわね。

 日本人はダイレクトに言わない人が多いから。

 でも、今後は気をつけないと。


「ごめんなさい。気をつけます」


「おねがいします」

彼女はそう言って、自分の部屋に戻っていった。

 

 やっぱり文句だったのね。  

 でも、思ったより壁が薄いみたいだから、これからは大きい声や音は立てないようにしないと。


 私はドアを閉めて、部屋の中に戻った。


 それじゃあ、次は音がしないことを……そうね。いよいよワンちゃんを作ってみよう。

 やはり昔家で飼っていたスピッツがいいわね。

  

 私は椅子がなくなってしまったのでベッドの上に座り、ベッドの隣りにある机の上で先程と同じ様に今度はスピッツをイメージして魔力を集めていく。

 

 それが、だんだんと犬の形になってきた。

 

 色は白が良いわね。

 

 すると、なんとなく犬っぽいものが出来上がった。

 

 うーん。細部は後で直すとして。

 

 私はそれを触ってみるが、ゴムでできたような感触だ。

 

 でも、これって犬の置物よね。

 魔物みたいに動くようにするにはどうすれば良いのかしら。

 そもそもダンジョンの魔物は魔力で出来ているのに、どうして生きているみたいに動けるのかしら。

 違いは何?

 

 モーターとか人工知能が入っているわけないし。

 それに、魔物の体の中に魔石があるのはなぜ?

 

 もしかして、魔石を入れればいいのかしら。

 魔石を核にしてもう一度やってみよう。

 

 私は一度作った犬の置物を魔力に戻してから、カバンに入れっぱなしにしてあった魔石を取り出す。

 

 今あるのは、青、緑、黒ね。

 どれにしよう。でも黒って何属性?

 

 うーん。ものは試しよね? 全種類入れてみよう。

 

 私は机の上に置いた三種類の魔石を中心に魔力を再び集めてみる。

 そしてスピッツをイメージして作り上げていった。

 

 さっきよりも、いい感じだわ。

 ふさふさの毛並みも再現できたし。

 こんな感じかしら。

 

 私は恐る恐る手を出して触ってみる。

 外見や手触りは犬そのものね。でも動き出さないのはなぜかしら。


 うーん。

「うごけー。うごけー」


 やっぱだめか。

 ダンジョンの魔物と何が違うのかしら。


 しょうがない。

 今回はここまでにして、この犬のぬいぐるみが、魔力に戻ってしまわないか様子見ね。

 

 あっ。椅子。どうしよう。

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