第15話 新しい武器
基地内のブリーフィングルームに、ダンジョン攻略チームが集まっている。
総勢、八小隊の五十人弱だ。
席はだいたいだけど小隊ごとにかたまっていたので、私は小隊の皆と座った。
時間になると、皆の前にはカーティス大佐やジャネット中佐と、少佐の階級章を付けた男性がもう一人入ってくる。
そして白いユニホームを着た研究員ぽい人が二人続き、横の傍聴席には考古学者のローザも座った。
ローザは私を見つけると小さく手を振ってきたので、私も振り返す。
まずは、少佐の階級章を付けた男性が、前に出て説明を始めた。
「先日の狼型の変異種は第三層から出てきたのではないかと我々は推測し、一昨日ジャネット・デニス中佐率いる第一小隊が調査したところ……」
少佐は、私たちの小隊が第三層を調査した結果、隠し部屋が発見されたことなどを報告していく。
そして、隠し部屋の位置や内部の様子、そこで発見された石碑や例の筒を前面の大型モニターに映して説明していた。
「それで、今の報告にあった第三層で発見された筒の正体がわかった。詳しいことは研究員のエルマンから説明してもらう」
大佐が言った。
いよいよ例の新しいアーティファクトについての説明が始まるのね?
ダンジョン攻略に全く関係ないものなら、私達下々の隊員にまで説明しないわよね。
私たちに説明すると言うことは、これからのダンジョン攻略に役に立つ物ということかしら。
紹介されたエルマンが椅子から立ち上がり、演台に立つ。
彼がリモコンを操作すると、前面の大型モニターに例の筒が映し出された。
「エルマンです。考古学者のローザとともに文字を解読した結果、これは魔石を使用して使う武器だと判明しました。通称『魔法の腕輪』と言われている物と同様に、魔石を装着して使います」
次にエルマンは、数十年前に流行った映画のワンシーンをモニターに映し出す。
それを見た隊員たちがざわついた。
なぜなら、その画像はその映画の特徴でもあるライト・セーバーを使って戦うシーンだったからだ。
「これって……」
「俺はこの映画のファンだぜ」
「まさか、これはライト・セーバーなのか?」
と、隊員たち。
「もうおわかりの様ですね。今回発見されたアーティファクトは、まさにライト・セーバー。しかし、魔力による剣なので、『魔法剣』と呼ぶべきだと思います」
エルマンが説明した。
「早く使ってみたい」
「鋼鉄も切れるのか?」
「誰でも使えるのか?」
「量産は?」
「いつから使えるんだ?」
隊員たちから質問が相次ぐ。
「一つひとつ説明していきますので、お静かに」
会場が静かになると、エルマンが説明を再開する。
「まず、誰でも使えるか、という事ですが、これも魔法の腕輪と同様に、魔法に適性がある人でないと上手く起動しません」
「残念だ」
「俺は使えないのか」
と、落胆する声もちらほら。
「鋼鉄も切れるのか、という質問がありましたが、火属性の魔石を装着して使った場合、鉄を溶かすことも可能でした」
「おー」
ということは、戦う魔物によって属性を変えて戦うのかしら。
魔法の腕輪もそうだから、当然そうなるわよね。
「ただし、大きな物を溶かすには、それなりに魔力の消費量も多くなるために、実験では車に見立てた金属の模型を二台切断したところで魔石の魔力が枯渇しました」
「まあそれなら、魔石カートリッジの予備を用意しておけばいいだけだな」
と、前の方の誰か。
「通常の魔物なら、魔石カートリッジ一つで五十匹程度は切断できると思われます」
「魔法の腕輪も一つの魔石で五十回ぐらいはファイヤー・ボールを撃てるから、必要な魔力はだいたい同じぐらいと考えてよさそうだな」
「はい。次に量産についてですが、とりあえず来週までに各小隊に二本ずつ配布することが可能です。その後も生産を続けますので、一ヶ月もすれば希望者にはすべて行き届くと思われます。何か質問はありますか?」
「もし仮に、魔法剣同士で
誰かが聞いた。
「可能です」
「それは属性が違っても?」
「はい。不思議なことに剣の中心に、魔力によって刃のような物が形成されるようです」
「その刃の周りを、属性を持った魔力が包む感じか」
「そうなります。……他に質問が無ければ私からの説明は終わります」
「来週各小隊に配布する二本を誰に持たせるかは、各小隊のリーダーに任せる。それでは今後の予定に移る」
大佐がそう言って再び少佐が前に立ち、魔物の間引きのスケジュールや担当チームの説明に移った。
それが終わると解散だ。
「じゃあ、うちのチームは1400時から訓練場に集合。それまでは自由にしていい」
ジャネットが私たちチームメンバーに言った。
「了解」
さて、時間があるから、私は一旦部屋に戻っていようかしら。
私が部屋に戻ろうとしていると、ジャネットが声を掛けてきた。
「アケミ。昼を一緒にどう?」
「あ。うん」
私たちは一緒にレストランに行った。
高級な方だ。
席に案内されて着くと、すぐにジャネットがウエイターに注文する。
「私は今日のおすすめ。あと、水には氷を入れないでね」
「かしこまりました」
おすすめ料理があるなら、その方が早く出てきそうね。
「あっ。私もおすすめで」
私も同じものを注文した。
「はい」
「冷たいのが嫌なの?」
ウエイターがいなくなると、私がジャネットに聞いた。
「ちょっとね。アケミは大丈夫なの? 火属性の魔法があんなに得意なのに」
「え? 火属性が関係あるの?」
ジャネットはちょっとだけ表情を変えたように見えたが、すぐに元の表情に戻る。
「私の体質みたいね? それでどう? ダンジョンとチームにはもう慣れた?」
話題を変えてきた。
「うん。チームのみんなも良くしてくれるし、ダンジョンはゲームみたいでわくわくするわ」
「それならいいわ。そういえば一昨日の、狼を素手で殴ったあれ」
「身体強化のこと?」
「身体強化って言うの? でも、驚いたわ」
ジャネットは「身体強化」という単語は知らなかった様だ。
「あれは、ラノベからヒントをもらって試してみたのよ」
「ラノベ?」
「あっ。アメリカでは流行っていないわよね。ライト・ノベルの略だと思うけど、日本では小説の中で魔力を使って身体強化を使う場面がよくあるので、私も出来ないかなと思って試したの」
「そうだったのね? 日本人はみんな魔法の知識があるの?」
「そういう分野が好きな人だけね」
「そうなのね?」
ジャネットが続ける。
「そうそう。今日の訓練が終わったら、皆がアケミの歓迎会をやるって言っていたわよ」
「そうなの?」
「私はちょっと用があるから出れないけど、その代わりにこの昼食でね」
「そうだったのね? ありがとう」
「明日はうちのチームは休日だから、今晩は思う存分飲むといいわ」
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