第13話 隠し部屋

 第三層を奥へ歩いていくと、度々狼の魔物に遭遇した。

 最初ほどではないが、大抵は三匹から六匹ぐらいの集団で襲ってくる。

 

 今も前方に狼の魔物が六匹現れた。

 いつものように、まずは後衛の先生・グレイグとオタク・ジョンがサブマシンガンで三匹を倒したが、残りの三匹が向かってくる。

 前衛が盾で勢いを削ぐが、狼は俊敏性が高いので、遊撃の雄一とジャネットも参戦して四人で三匹に対峙した。

 

 私は今回は、魔物がもし四人を抜けてきたときのために、少し後ろで控えていた。

 

 すると、後ろに下がっていた後衛のグレイグが叫んだ。

「後ろから、新たに四匹!」


 え?

 

 私は後ろを振り向く。

 

 前の三匹は四人で対処しているから、ここは後衛の二人と私の三人でなんとかしないといけないわね。

 

「こっちが片付いたら、すぐに行くから!」

と、ジャネットが前方の狼と対峙しながら言ってきた。


 後衛の二人はサブマシンガンを撃ったが、走ってくる狼には当たりにくい様だ。

 私は刀を構えていたが、まだ少し距離があるので、牽制の意味も含めて魔法を使うことにした。

 右手を出し、走ってくる四匹に対してファイアー・ボールを放つ。

 

「ファイヤー・ボール」 


 とっさのことなので、三十センチぐらいの普通の火球だ。

 当たればいいし、当たらなくてもそれを狼が避ける動作をすれば、少しは走ってくる狼の勢いを削(そぐ)ぐ事ができるはずだ。

 

 狼たちはあと十五メートル程の距離に迫っていたが、火球を見て怯んだのか一旦止まった。

 でも、火球は横っ飛びでギリギリで避けられてしまう。

 しかしそこに、ジョンのサブマシンガンの銃弾が当たり、一匹が倒れて消えた。


 あと三匹。

 

 そして、すぐに残りの三匹は再び私たちに向かってくる。

 しかし私たちはその一瞬を利用して、私はすぐに刀を構え直し、グレイグとジョンの二人もサブマシンガンをナイフに持ち替える。

 

 私めがけて飛びかかってきた一匹を、私は斜め前に出て刀で斬り伏せた。


 あと二匹。

 

 私はすぐに残りの二匹を探すが、それぞれジョンとグレイグに飛びかかっていた。 

 ジョンはアームガードで狼の噛みつきを防ぎ、ナイフで応戦している。


 これだけ近いと、援護に銃器は使えない。 

 まずはジョンが相手している狼を、私が後ろから近づいて刀で後ろ足を傷つける。

 

 キャイン!

 

 それで傷を負って動きが鈍くなった狼を、ジョンがナイフでとどめを刺した。


「助かった」 

と、ジョン。

 

 あと、一匹だ。

 

 するとグレイグの方は狼に飛びかかられて後ろ向きに倒れ、狼が上からのしかかっている。

 グレイグもアームガードやナイフでなんとか噛みつき攻撃を防いでいる状態だ。

 グレイグに当たるから銃器や魔法はもちろん使えないし、双方とも激しく動いているので刀でも下手するとグレイグを傷つけてしまいそうだ。

 

 どうしよう。

 そうだ、あれを試してみよう。

 

 私は以前に試した身体強化をやってみる。

 すると、力が何倍にもなった感覚だ。

 

 私は刀をさやに戻し、グレイグにのしかかっている狼に後ろから近づいて、素手で狼を捕まえてグレイグから引き離した。

 すると、するとその狼は暴れて、するっと私の手から逃げ、今度は私に向かって飛びかかってこようとする。

 私はそれを、身体強化したままの素手で殴った。

 再び起き上がって向かってくるかと拳を作って身構えたが、狼はそのまま動かなくなり消えてしまった。

 

 なんだ。これなら素手でも十分いけるじゃない。

 手も痛くないし。

 

 すると、すでに戦いが終わって、私の様子を見ていた皆が唖然としていた。

 皆も、狼が離れたら加勢してくれようと、手を出すタイミングを計っていたのだろう。

 

「お、おまえ。今、狼を素手でやったのか!?」

「す、すげー」

ブラッドとジョン。


「こんど、腕相撲で勝負しようぜ」

と、ジャックが腕に力こぶを作って見せる。 

 

「あ……」


 今のはやりすぎたか。  

 私はちょっと赤くなった。

 

 ところが、一瞬だがジャネットの私を見る目が厳しかった気がする。  

 もう一度改めて見直すと、すでに普通の目つきに戻っていた。


 なんだろう。今のは、気のせい?

 それとも、目立ちすぎたかしら。

 元一般人の私があまり活躍しすぎると、そりゃあ面白く無いわよね。

 今後はやりすぎないようにしたほうがいいかしら。


 そんな私の気持ちを読んだかのように、ジャネットが言ってきた。

「おみごと。素晴らしかったわよ。これからも、ガンガンやっていいからね」 


「あ、うん……」  

「さあ、先に進むわよ」


 ジャネットがそう言って、皆で再び歩きはじめた。

 

 

 もうそろそろ第四層に降りる階段が見えてくるあたりで、前衛のブラッドがふと止まる。

「おや? ここに部屋なんてあったか?」


 ブラッドが見ている方向、つまり少し先の右側に部屋の入口がある。

 

 皆が自分のアームガードの端末で地図を確認した。

 私も地図を見たが、そこには部屋は描かれていない。

 つまり、未発見の部屋だ。

 

「新しい隠し部屋だわ」

と、ジャネット。


「隠し部屋があったのか。ということは、変異種はこの部屋から現れたってことか?」

雄一が聞いた。


「どうやら、そういうことらしいな」

グレイグが答えた。


「つまりゲームで言うボス部屋?」

今度は私が聞いた。


「そうかもしれないな」


「隠し部屋が開く条件はまだわからないが、それは研究者に任せるとして。では中を調べる。皆、慎重に」

ジャネットが言った。


「了解」


 私たちは警戒しながら、もう少しその入口に近づいていく。

 警戒するのは、もしかしたら変異種がもう一匹中にいる可能性もあるからだ。

 

 皆が銃など構えて配置につくと、ジョンがドローンを飛ばして部屋の内部を探る。


「中に魔物はいないな」

と、ジョン。


 皆がそれを聞いて銃や剣を降ろした。


 しかし、魔力から魔物が生まれるのであれば、急に何かが現れても不思議ではない。

 それは、その部屋の中もそうだが外の通路も同じだ。

 だから、層と層の間の階段を除いては、一瞬たりとも気を抜けない。


「ジョンとグレイグは部屋の外で見張れ。残りはいつものフォーメーションで中に入る」

ジャネットが指示した。


 私たち五人は慎重に部屋の中に入っていく。

 前衛の二人は盾を構えて先頭を行った。

 

 しかし、部屋の中に入っても何も起こらないようだ。

 部屋に入って見回すと、第一層の腕輪が見つかった部屋と同じ様な感じだった。

 そして同様に、部屋の中程に台座と石碑がある。

 

 私たちはその周りに集まった。

 

 これって……。 

  

 台座の上にあるのは、長さ二十センチほど、直径が四、五センチぐらいの筒状の物。材質は金属っぽく見えるが、そう見えるだけで金属かどうかはわからない。


 もしかしたら腕輪と同じ様に、今後のダンジョン探索で役に立つ物かもしれない。

 横の石碑には何か書いてあるようだが、古代の言葉なのでここには読める物がいなかった。

 

「ではこの台座と部屋の写真を撮り、これを持ち帰る」

と、ジャネット。


 皆が手分けして部屋の写真を撮ったり、部屋の中に他に変わったものが無いかを見ていく。

 まずはグレグが石碑と台座の上のアーティファクトの写真を取り、それが終わるとアーティファクトをカバンに入れた。

 その後彼は石碑にも軽く触れていたようだが、何か起きた様子はない。


 さっきグレイグが石碑に触れていたけど、何も起きなかったみたいね。

 私が触れれば、ここでも何かが起きるかしら。


 私も一通り見終わると石碑に近寄って、そっと手を触れてみる。

 

 バチッ。

 すると、またしても静電気みたいなものが走った。

 そして今度は「風属性覚醒」という声。

 

 今のは……。

 

 私は他の人にも聞こえたのか見回してみる。

 でも、皆は作業を続けていて、声に気がついた人はいないようだ。

 

 やはり、他の人には聞こえていないみたいね。

 さっきの一層でも誰も聞こえなかったみたいだし、雄一やグレイグが触っても何も起きなかった。

 やはり、私だけなの?

 

「では、今日の目的は達成した。戻るぞ」

と、ジャネットの声。


 風属性か。本当に使えるようになったのか、後でゆっくり試してみよう。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る