第11話 初ダンジョン
今私は、攻略チームのメンバーと共にダンジョンの入口がある遺跡の前に来ている。
「この入口は、遺跡が発見されたときには塞がれていたらしいわ」
ジャネットが私に説明した。
「魔物が、よく出口を壊して出てこなかったわね」
通常は変異種以外は出てこないとしても、ダンジョンといえば、スタンビートがつきものよね?
「研究者の見解では、この入口を開けた時に何かのスイッチが入ったようにダンジョンが活動を開始して、それから魔物が湧き出し始めたのではないかと予想しているわ。なぜかというと、中の魔物を定期的に討伐しないと際限なく増えていくからでしょうね」
「もしダンジョンが昔から活動していたら、今頃はとっくにこの空洞全体が魔物であふれかえっているということね?」
「おそらくね。それで、そのときこの第一層の奥の部屋で見つかったのが、この魔法の腕輪の原型よ」
そう言ってジャネットが、自分の手に持っている腕輪を見せた。
「え? 腕輪が?」
「その腕輪の説明書みたいなのが地球の古代文字で書かれていて、それを解読しながら腕輪を研究し、機能を複製したのがこの腕輪ね。一応渡しておくわ。あなたは腕輪がなくても火属性の魔法が使えるけど、腕輪に火の魔石を装着した状態で使えば、同じ火魔法でもより威力が出るし」
「そうなんだ?」
ジャネットは私に、いわゆる「魔法の腕輪」と、緑、赤、黄、水の四種類の魔石カートリッジを渡してきた。
今日のダンジョン攻略に間に合うように、ジャネットが申請しておいてくれたみたいだ。
私は右腕にその腕輪をはめ、魔石カートリッジは一応赤の火の魔石を着けておく。
次にジャネットは、私にアームガードのような物を渡してきた。
「あとこれ。あなた用にこれもギリギリ間に合ったから、これも左腕につけておいてくれる?」
そのアームガードには内側に小さなモニターが付いている。
「これは?」
「一言で言えば携帯端末付きのアームガードね。現在分かっている範囲のダンジョンの各層の地図が入っているし、初めて通った通路は自動的に記録してくれる。あとは各層の魔物の特性などのデータと迷った時のナビゲーション機能、無線機、そして仲間に自分の位置を知らせる発信機なども組み込まれているから」
「わかったわ」
私はそのアームガードを左腕にはめた。
「もし右腕にもアームガードが欲しければ、申請して備品倉庫から出せばいいから」
私はさっそく腕につけたアームガードの端末のメニューから魔物の情報を開いてみる。
「一層目の魔物は……スライムなの!?」
特徴は……体当たり攻撃しかしてこない……か。
「そう、スライム。まるで、どこかのゲームみたいでしょ」
「ほんとに」
「誰かの意思が働いているのか、それとも地球でああいうゲームを作った人が、何かの天啓を受けてゲームを作ったのか」
「誰かの意思?」
「例えば、このダンジョンの入口を初めて開けた人の記憶が作用しているとかね。まあでも、本当のところは誰にもわからないわ」
「でも、スライムなら簡単そうね」
ジャネットは私にニコリとうなずいた。
そしてジャネットは、他のチームメンバーに向き直る。
「では、今日は第一層、二層をざっと回って、増えすぎた魔物の間引きしながら下に行く。そして、先日の変異種が出てきたと思われる第三層の調査が今日の目的だ」
そして、ひと呼吸置く。
「では、入る。皆、準備はいいな?」
「「イエス、マム」」
私も、他のメンバーと一緒に敬礼した。
私たちは予め決めてある前衛、遊撃、後衛の順にダンジョンに入っていく。
あの光の膜みたいなものを通り抜けると、明らかに入口の遺跡の大きさよりも
そして後ろを振り返って見れば、今通ってきた光の膜みたいな物がある。
やっぱりこれはゲートなのね?
場所はあの遺跡の地下なのかしら。
ダンジョンの中は石積みの遺跡風だ。
道幅は四メートルほど、天井までの高さも同じぐらいだ。
そして何故か、明かりがなくても見えている。
「こんな石積みなんて、いったい……」
誰が何のためにこんな大規模なものを作ったのかしら。
相当な労力がかかるはず。
私の疑問にジャネットが答える。
「誰がどうやって作ったかは謎ね。おそらくこのダンジョンを探索していくうちに答えが見つかるかも知れない、と上層部や研究者は考えているわ。そして、この石積み自体も魔力で出来ている可能性を唱える研究者もいるわね」
「魔力でこれが?」
「そう。まだ仮説だけど。さらに研究者たちは、魔物の体も魔力で構成されていると考えているわ」
「だから、死ぬと消えてしまうのね?」
「そう」
魔力で魔物ができるなら、猫とか犬なんかもできそうね。
私も作れないかしら。こんど挑戦してみようかな。
七人で通路を奥に歩いていくと、前方にさっそくスライムが一匹出てきた。
直径が三十センチほどの青いスライムだ。
ポヨン、ポヨンと飛び跳ねて移動していて、本当にゲームに出てくるスライムのよう。
でも残念なことに、ゲームに出てくるスライムと違って目はないみたい。目があったら、可愛かったのに。
「アケミ、やってみる?」
ジャネットが聞いてきた。
「やるわ。武器は何でもいい?」
「スライムは本当に弱いし遅いから、何でも大丈夫」
私は前に出て、刀を抜いた。
こちらから近づいていくと、スライムが飛びかかってくる。
そこを私は体を射線からずらしながら、飛んでくるスライムを刀で切った。
「おみごと」
後ろから声がかかった。雄一だ。
「ありがとう」
すると、スライムの体が消滅して青い魔石だけが残る。魔石は一センチほどの大きさだ。
この魔石は青だから、スライムは水属性ということなのかしら。
しかし、討伐すると体が消えるなんて本当にゲームみたいだわ。
私は下に落ちている魔石を拾う。
「この魔石は小さいけど、持って帰ったほうがいい?」
「カバンに余裕がある時は持って帰って。そうすれば研究所で加工して、他の誰かが魔物討伐に使えるから」
と、ジャネット。
腕輪には基地内の研究所の方で一定の大きさに合成・整形された魔石をスロットに装着していた。
だから魔物の種類ごとに魔石の大きさが違っても、大丈夫なわけだ。
「でも青だから、スライムは水属性ってこと?」
私は先程の疑問を聞いてみた。
確かアームガードの端末で見たときには、スライムの属性は書いてなかった。
「スライムは色々な属性があるらしく、様々な魔石を落とすわ」
「そうなのね? それで、ゲームの感覚で言うと、この水属性の魔法に弱いのは火属性の魔物かしら」
「おそらくね。おそらくと言ったのは、明らかに水属性に弱い魔物は、今の所出てきてないから」
ああそうか。赤い魔石を落とす火属性のスライムが出てきても、弱すぎて水属性に弱いのかも検証できないのね?
それで、今探索されているのは五層までとか言っていたから、六層以降に出てくるかもしれないのか。
火を噴く魔物なんて出てきたら熱そうだわ。
「なるほどー」
その後スライムが複数出てきたが、今回は私の練習も兼ねて前衛がスライムをわざと後ろに抜けさせ、前衛、遊撃、後衛の連携の練習をするなどしながら進んだ。
出てきたスライムの色も、赤や青、緑、黄色と様々で、黒いスライムまでいた。
黒の魔石って、何属性なんだろ。
第一層のかなり奥に来たところで、ジャネットが皆を連れて横の部屋に入る。
「ここが、腕輪が見つかった部屋らしいわ」
と、ジャネット。
私はその部屋の様子を眺めてみる。
和風に言えばだいたい三十畳ぐらいの部屋で、中央には台座のようなものがあり、その隣にはよくわからない文字が刻まれた石碑の様な物がある。この石碑に、腕輪の説明が書いてあるのだろう。
ここで私は、疑問に思ったこと口に出した。
「研究者が言っているように、ダンジョンは本当に魔素を作り出すための装置なのかしら。それに、大事なものが奥にあるかもしれないってことだけど、スライムしかいない第一層から魔法の腕輪みたいな武器が見つかるなんて、気前が良すぎるわよね?」
ゲームなら、ここで出てくるのは薬草とか鉄の剣みたいな、どこにでもありそうなアイテムなんだけど。
「神の気まぐれだな」
と、牧師のブラッド。
「ダンジョンは、誰かの暇つぶし用じゃねえか?」
マッチョのジャックが言った。
遊びなの?
「俺は、練習をさせられているような気がするな」
普段はあまり喋らない、オタクのジョン。
「練習?」
「魔物との戦い方だな」
「なるほど。それなら下に行くほど魔物が強くなる理由も説明がつくわね。それに次の階層で必要になりそうな武器が見つかるのも」
私はそう言いながら、石碑に何気なく触ってみた。
すると、バチッと静電気が走ったような感覚があり、一瞬だが何か女性の声が聞こえたような気がした。
「え?」
「どうした?」
雄一が聞いてきた。
「今、なんか静電気みたいなのが、バチッと。それに何か聞こえなかった?」
「いや?」
雄一が、そう言いながら石碑に触れてみる。
「俺は、なんともないな」
私はもう一度試しに石碑に触れても何も起きなかった。
さっきのはただの静電気?
声が聞こえたのは、気のせいだったのかしら。
「さあ、では第二層に向かう」
ジャネットがそう言って、皆を先導して部屋を出た。
私たちは第一層の最奥にある階段を降りていくが、私はその間も先程聞こえた声のことを考えていた。
あの声。女性の声だったけどジャネットの声ではなかったわ。
そして確か、「成長覚醒」とかなんとか言っていた気がする。
どういう意味だろう。
成長って、もしかして私も出るべき所が出るのかな。
そうだと嬉しいな。
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