第9話 魔力
私は夕食を終えると、一旦自分の部屋に戻った。
そして、ベッドの上に腰を下ろす。
古代の侵略戦争のことも気になるけど。
魔力かー。
あの初日に見えた霧のようなもの。あれはきっと魔力だったんだわ。
今は見えないけど、どうやったら見えるんだろう。
集中すればいいのかな。
私は目を凝らして、辺りを見回してみる。
うーん……見えないな。
それとも、リラックスする方がいいのかな?
えっとじゃあ、まずは深呼吸をして……。
すると、再び黒っぽい霧のようなものが見えてきた。
あっ。見えた。
で、これがやっぱり魔力なの?
魔素って言ったっけ?
まあ、呼び名はどっちでもいいけど。
私はその霧の中に右手を伸ばして、左右に動かしてみる。
うっすらと、自分の手にまとわりつくような感じだ。
そういえば、ここに来てから体が軽くなったように感じたのも、この魔力のおかげ?
ここは魔力が濃いらしいから、私も知らないうちに活用していたのかしら。
身体強化っていうんだっけ。
それなら積極的に利用するには、アニメみたいな感じでいいのかしら。
自分の体にまとわせるイメージ?
それとも、体に取り込むイメージかしら。
とにかく、やってみよう。
まずは、魔力を自分の体にまとわせるイメージをしてみる。
すると、自分の体の周りに黒い霧が、まとわりついてくるのが分かった。
これでいいのかしら。
さっきので、右手のところだけ多めになってるけど、大丈夫よね?
試しに、ベッドに座ったまま空手の突き様に右手のこぶしを前に勢いよく突き出してみる。
すると、右手に多く付いていた黒い霧が勢い良く飛び、離れたところにあった椅子が吹き飛んで、壁にぶち当たった。
ガコン!
「や、やばい!」
なにこれ?
私はあわてて、自分の体にまとわせていた魔力を払って霧散させ、椅子のところに駆け寄った。
椅子の足が折れてしまったわ。
うー。どうしよう。今度こそ弁償よね?
これって、普通の接着剤でくっつくかしら。
売店の方に行って何か探してみようか。
でも、これ以上は部屋の中で試すのはまずいわ。
やはり外に行こう。
トレーニングウエアに着替えて廊下を歩いていると、前から雄一が歩いてきた。
彼もトレーニングウエアなので、今までジムでトレーニングをしていたのかも知れない。
「よう、明美じゃないか」
「あっ。雄一」
「聞いたぜ。うちのチームに来るんだってな」
「なんだかよくわからないけど、ダンジョンの前で魔法で魔物を倒しちゃって」
「そうだってな」
「ここに来て体が軽く感じたのも、どうやら魔力のせいみたいだわ」
「俺も体が少し軽く感じたのは魔力のせいなのか?」
「雄一も魔法が使えるの?」
「いや、魔石が無いと使えないから、魔法適性者ってやつだと思う」
「そうなんだ。実はそれで、どれぐらい身体能力が上がっているのか試そうと、外に行こうとしていたところよ」
「面白そうだ。一緒に行っていいか?」
「いいわ」
外に出ると、どういう仕組みなのかはわからないが、
「夜になると自然と暗くなるんでしょ? 不思議ね」
と、私。
「理屈はわからないけどな」
外に出ると、建物の近くは運動などができるように地面がならされていた。
周りを見回すと、遠くにジョギングをしている人が一人見えるぐらいで、ほとんど人がいない。
色々と試すにはちょうどよさそうだ。
「さて。じゃあまずは、ジャンプ力を比べてみようぜ」
雄一が言ってきた。
「いいわ」
「よっと」
まずは雄一が思いっきりジャンプしてみる。
「俺はだいたい地球にいたときより少し高く飛べる感じだ」
日本人の成人男性のジャンプ力の平均は六十センチぐらいだ。
それを雄一は、一メートル近く飛べた。
「少しって。結構飛べたじゃない」
「といっても、三十センチぐらいよけいに飛べるようになったぐらいだな」
「でもそれって、一・五倍ってことじゃない? すごいじゃない」
「まあ、そう言われれば、たしかにな」
「じゃあ、今度は私がやってみる」
「あ、その前に。地球にいるときに測ったことは?」
「えっと。たしか一年ほど前に七十センチぐらいだったような」
「日本人の成人女性平均は四、五十センチぐらいだから、その高さはさすがだな」
「じゃあ、やるわよ」
ここに来てから測ってはいないけど、体が軽い感じがするから、雄一よりはいけそうね。
そうだ。どうせだから、さっきのように魔力を体全体にうっすらと纏(まと)わせてみよう。
私は魔力を纏わせると、膝を曲げてから思いっきりジャンプしてみる。
「キャ!」
なんと、五メートル近く飛んでしまった。
それを見て口が開いたままの雄一だったが、上空で私がバランスを崩したのを見て、落ちてきたところで受け止めてくれる。
「うぉ」
さすがに重かったようで、受け止めるには受け止めたが、私を抱いたままバランスを崩して尻もちをついた。
私が雄一のお腹の上に乗った形だ。
「あ、ありがとう」
「お、重い」
「な、なによ! 私はそんなに重くないわよ!」
私は重いと言われて、文句を言った。
「いや、すまん。重くない。重くないけど、どいてくれると嬉しい……」
「あっ。ごめん」
私は急いで雄一の上から飛びのいて、雄一はなんとか立ち上がる。
「大丈夫だった?」
「俺も地球にいたときよりも、少し頑丈になっているみたいだから」
「でも、こんなに高く飛べるなんて」
「なんかやったのか?」
「多分だけど魔力を意識的にまとったせいだと思う。これって、身体強化って言うのよね?」
「じゃないのか?」
するとそこに、なぜかローザがやってきた。
ジョギングをしていたのは、彼女だったようだ。
「あら。アケミと……ユウイチだっけ?」
三人は同じシャトルで来たわけだから、ローザも雄一と挨拶はして、名前を憶えていたようだ。
「あ、ローザ」
「ローザさんか」
私と雄一。
「今、なんかすごい高さまで飛び上がった様に見えたけど」
ローザが私に聞いてきた。
「えっと。そうみたい」
「ふーん。ということは、あなたも魔力の操作ができるのね?」
「え?」
ローザが魔力の事を知っているようだったので、驚いて聞き返したのだ。
「驚くことはないわ。私の仕事にも関係あるから、色々聞いているし」
「え? 考古学が?」
あっそうか。月面にある遺跡に古代文字があったとか言ってたわね。
その解読とか研究をしているのかしらね。
「まあ、そういうことなんだけど」
でも私は、あることに気がついた。
「あら、今気が付いたけど、ローザの周りにも……それも魔力?」
「これも見えるのね?」
「え?」
今の言い方だと、ローザも見えるみたいな言い方だ。
「あなた。先祖に何か特殊な人がいる?」
「特殊って?」
「例えば、シャーマンとか」
「シャ、シャーマン?」
シャーマンというのは、いわゆる霊能力者だ。
私は何かの冗談かと思って聞き返した。
「そう。まじめな話よ」
「……そういえば、うちの先祖にどこかの神社の神主がいたとか聞いたことがあるわ。それが関係あるのかしら」
「そうかもしれないわ。どうやらここに魔力がある話も聞いたみたいだし。それで、実際に属性魔法は使ってみた?」
「属性魔法って……火とか?」
「そうそう」
「さっき大佐たちの前で、火は出してみたわ」
「ということは、ダンジョン攻略部隊からお誘いがあったってことね?」
「そうなのよ。入ることになったわ」
「ふーん。それで他の属性は? 例えば水や風、土とか」
「そうか。やっぱり他にもあるのよね?」
「ちょっと試してみたら。じゃあ『ウォータ』って」
「え? うん。わかった」
えっと、水をイメージすればいいのかな。
「ウォータ」
何も出ない。
「ダメみたい」
と、私。
「念の為、風や土も試してみて」
私は言われた通り他の属性も試してみたが、他は駄目だった。
もしかしたら、全属性行けたり? と期待したんだけどね。
「だめね。火だけみたい」
「でも、火が使えればダンジョンでは十分活躍できそうね」
「ところで、そういうローザも魔法が使えそうなんだけど」
「その話はまた今度ね。じゃあ、私はこれで」
ローザはそういうと、さっさと宿舎の方へ行ってしまった。
「あ、ちょっと……」
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